第42話:邂逅①
「……恭介?」
恭介が竜胆の立ち位置を見て移動しているのを彼は感じていた。
だからこそ、急に恭介の声や気配が消えてしまったことに違和感を覚える。
目の前のモンスターを斬り捨てて振り返るが、そこには誰もいなかった。
「……何かあったのか?」
一抹の不安を覚えながらも、モンスターの数はいまだ多く、自分の心配をする必要もある。
「……信じているぞ、恭介!」
一度は信じた相手だ。
ならば、最後まで信じてみようと決めた竜胆は目の前のモンスターに集中していく。
――ゴウッ!
「ちっ!?」
しかし、竜胆の思う通りに事は進まなかった。
横合いからナイフが投擲され、紙一重で回避する。
態勢を崩されたものの、追撃がなかったことで難を逃れた。
「……誰だ?」
ナイフが投擲された方を睨みつけながら、竜胆は疾風剣を構える。
すると、大木の影から人影が現れ、その姿が露わになると竜胆は苦い表情を浮かべ舌打ちをした。
「ちっ……どうしてお前がここにいるんだ、岳斗!」
「岳斗様だろうが、竜胆!」
お互いに睨み合いながら、手に持つ武器を構える。
投擲されたナイフは間違いなく頭へ飛んできていた。つまり、岳斗は竜胆を殺すつもりだったのだ。
「お前、プレイヤー同士の殺し合いが重罪なのは分かっているんだろうな!」
「分かってるさ! だから、証拠を隠滅しちまえばいいんだよ! お前を殺してな!」
「なっ! ……こいつ、いかれてやがる!」
冷や汗を流しながら警戒を強める竜胆、それには理由があった。
スタンピードの時にやってしまった任務放棄により、岳斗は現在Dランクプレイヤーだが、その実力は間違いなく現役Cランクプレイヤーだ。
スキル【下級剣術】が【中級剣術】に進化したとはいえ、確実に勝てると言える相手ではない。
近くに恭介の気配もなく、スキル【共鳴】の効果も期待できない。
任務放棄で逃げ出した岳斗だが、間違いなく竜胆より場数も踏んでいるだろう。
(真正面から戦って勝てるかどうか、まずは剣を合わせてみないと分からな――!?)
――ガキイイイインッ!
突然の思考停止。脳が危機を察して肉体を自然と動かしていた。
沼地に響き渡る金属音。衝撃波が地面に落ちていた枯れ葉を吹き飛ばしていく。
「が、岳斗!」
「なかなかやるじゃねえか! だが、下級剣術でどこまでやれるかな!」
自分優位を確信している岳斗の自信に満ちた声に、竜胆は表情を曇らせる。
「どうして、俺のスキルを、知っている!」
プレイヤー情報はプレイヤー協会が特に厳重に管理しているものである。
ランク審査に彩音が同席したのは竜胆が許可を出したからであり、誰でも同席できるものではない。
故に、竜胆は自身のスキルが岳斗にバレているのが不思議でならなかった。
「くくくくっ、どうして俺様がこの場にいると思う? てめぇのせいで一ヶ月の活動停止になった俺様がよお!」
岳斗は自身の体格とスキルを活かして大剣を愛用している。
竜胆が岳斗のスキルを知っているのは、彼が自分の力を誇示するために言いふらしていたからだ。
(岳斗のスキルは確か重戦車! 真正面からの戦闘において、無類の強さを誇るスキルだ!)
スキル【重戦車】は重装備を身に付ければ身に着けるほど、身体能力が向上する効果を持っている。
現に岳斗の装備もフルプレートに近いものであり、大剣を手にしているのも重量を稼ぐためだ。
だが、それもスキル【重戦車】には好都合だった。
身体能力が向上することで筋力も倍以上となり、大剣を受けられても力で押し切ることができる。
並みのプレイヤーが相手であれば、岳斗は単純な力押しで勝利を手にすることができるだろう。
「オラオラオラオラアアアアッ!」
だからなのだろう、竜胆が授かったスキルを下級剣術と勘違いしている岳斗は、相手を完全に見下して力押し一辺倒の戦い方をしている。
(反撃するなら、今しかない!)
押し切られないギリギリの力加減と受け流しで岳斗の攻撃に耐え、反撃の機会を待つ。
とはいえ耐えるのも長くは続けられない。受け流しているとはいえ、超重量の一撃によるダメージが蓄積されていくからだ。
「くそっ! てめぇ、しぶてえんだよ!」
すぐに押し潰せると考えていた岳斗は、なかなか潰されてくれない竜胆に苛立ちを覚えながらも、戦術を変えようとはしない。
相手が竜胆以外であれば変えていたかもしれないが、なまじ知っている相手であり、格下だと見下していたからこそ、自分の考えを曲げたくないという思いが無意識のうちに働いていたのかもしれない。
大剣を握る手に力がこもり、片手持ちだったのを両手持ちに変えた。
(いまだ!)
決めに掛かった岳斗の大振りを見切った竜胆は、中級剣術が出せる最高速度で疾風剣を振り抜いた。
――ガキンッ!
「……えっ?」
「……まさか、てめぇ如きに切り札を使うことになるとはな! ぶっ殺してやるぜ、竜胆!」
疾風剣の刃は間違いなく、フルプレートの関節へ滑り込んでいる。
しかし、甲高い音が鳴り響くだけで、竜胆に手応えはない。
そして、ニヤリと笑った岳斗の大剣が竜胆の脳天めがけて振り下ろされた。
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