第43話:邂逅②
――キイイイインッ!
鈍い音ではなく、金属と金属がぶつかる甲高い音が響いた。
それも重い音ではなく、乾いた音だ。
「ちっ! マジでしぶてえな、てめえは!」
振り下ろされる大剣に対して、竜胆は疾風剣を斜に構えて軌道を逸らし、完璧に受け流してみせた。
「はあっ!」
その場で回転斬りを放ち岳斗の脇腹へ刃をぶつけるが、これも固い何かに阻まれてしまう。
とはいえ、回転斬りはダメージを与えるものではなく、この場から一時離脱するための攻撃だった。
疾風剣をぶつけた勢いを利用して飛び退き、大きく距離を取る。
超重量の装備を身に纏っている岳斗では竜胆に追いつくことはできず、舌打ちをしながら仕留めきれなかったことに苛立っていた。
「いい加減に殺されやがれ!」
「お前程度にやられるつもりはない」
態勢を立て直して再び構えるも、竜胆の言葉は強がりだった。
(やられるつもりはないが、決め手を欠いているのも事実だ。フルプレートの内側に何か仕込んでいるみたいだし、どうするかな)
竜胆が持つスキルはガチャ、中級剣術、共鳴、下級土魔法の四つ。
現状、中級剣術ではダメージを与えることすらできていない。恭介が半径一〇メートル以内にいないため共鳴の効果も期待できず、可能性があるとすれば土魔法くらいだ。
(だが、下級土魔法は試しに使った一回だけ。それも魔力枯渇になりかけたくらいに魔力量は少ないはず)
どうやって岳斗を攻略しようかを思案していた竜胆だが、相手が待ってくれるはずはなかった。
「てめぇから来ないなら、こっちから行ってやるぞ!」
「ちっ!」
思考を中断して岳斗に対応する竜胆は、歯を食いしばりながら超重量の一撃を受け流していく。
「どうした、そんなんじゃあ俺様は倒せねえぞ!」
戦況は完全に岳斗優位だ。
じり貧になりつつある竜胆は、ひとまず時間を稼ぐ必要があると判断した。
「それなら、これでどうだ! アースウェーブ!」
「はっ! 魔法の真似事なんて何をして――!?」
岳斗は竜胆のスキルが下級剣術だけだと思い込んでいる。当然、魔法を発動する仕草を見せたところで警戒するはずがない。
しかし、実際には魔法が発動し、岳斗の足元の地面が一気にぬかるみ、膝まで地面に埋もれてしまった。
「て、てめえ! 何をしやがった!」
「見たら分かるだろ? 魔法だよ」
「ほざけ! てめえのスキルは下級剣術だろうが! ダブルスキルだと? てめえ如きが!」
自分ですら一つしか持っていないスキルを、下に見ていた竜胆が持っていたという事実に、岳斗は怒りを露わにする。
実際はガチャで手に入れたスキルであり、二つどころか四つのスキルを持っているのだが、それをあえて口にすることはしない。
「それをお前にあーだこーだと教える必要はないだろう?」
「て、てめえっ! ぶっ殺してやる!」
竜胆は岳斗の苛立ちを利用して挑発し、冷静な判断を失わせようと考えた。
「俺はお前よりも恵まれている、そういうことでいいんじゃないか?」
「ふざけんな! てめえは絶対にここで殺してやる! こんなもんで足止めができると思うんじゃねえぞ!」
そう口にした岳斗が全身に力を込めると、ゆっくりとだが、しかし確実にぬかるみから足が抜け出てきた。
ダメージを与えられるならこの隙に竜胆は攻撃を加えることをしただろうが、今の彼では岳斗にダメージを与えることはできない。
ならばどうするのか――竜胆は踵を返して駆け出した。
「てめえ! 逃げるつもりか!」
「お前との決着はここでつける! だが、今じゃないってだけさ!」
「ふざけんじゃねえぞ! てめぇ、絶対に殺してやる! 逃げんじゃねえぞおおおおっ!!」
岳斗がぬかるみを抜け出す前に竜胆にはやるべきことがあった。
(今のままじゃ岳斗に勝てない。それなら大量のモンスターを倒し、スキル熟練度を上げて中級剣術を進化させるか、低確率だけど新しいスキルの獲得を目指すしかない!)
ここで逃げるという手もあるだろう。
しかし、それは恭介がいない状況では竜胆の選択肢にあがらなかった。
(岳斗は一人だった。あいつが単独でこんなことをするはずがないし、恭介が危ないかもしれない!)
モンスターを倒しながら、恭介を探し出して、岳斗を叩く。
その全てが上手くいくとは思っていないが、少なくても恭介を探し出すことだけは実行しなければならない。
「絶対に助け出すぞ、恭介!」
周囲に意識を向けながら、竜胆は遭遇するモンスターを斬り捨てながら恭介を探し始めた。
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