第40話:殺到

「な、なんだ?」

「……これは、マズいかもしれないな」


 何が起きたのか周囲へ視線を送り竜胆とは違い、恭介は冷や汗を流しながら危険を感じ取っていた。


「何が起きたんだ?」

「分からない。でも、この音は間違いなくモンスターが一斉に移動を開始したものだと思う」

「い、一斉に!?」


 それはスタンピードではないのかと困惑する竜胆だったが、恭介も扉の中でスタンピードに似た状況に遭遇したことがなく、何が起きているのか彼にも分かっていなかった。


「本来なら逃げの一手なんだが……まあ、竜胆君の場合はそうなるか」


 最初こそ緊張していた恭介だったが、一斉にと聞いて臨戦態勢を整えた竜胆を見て呆れたように苦笑した。


「俺の場合はモンスターが多ければ多いほどありがたいからな。ドロップ品も増えるし、スキル熟練度も手に入る。確率は低いけど新しいスキルだって手に入るかもしれないからな」

「本当に竜胆君だけの特権だね、それは」


 そう口にした恭介が腰の剣を引き抜くと、そのまま竜胆の隣に立った。


「だけど、今回はあまりに異常だ。竜胆君は嫌かもしれないけど、私も参戦させてくれ」

「嫌だなんてとんでもない。ただ、無理だけはしないでくれよ? 怪我を治した恭介とも一緒にパーティを組んでみたいからな」


 そう口にしながらニヤリと笑った竜胆を見て、恭介は僅かに驚きながらも、すぐに同様の笑みを浮かべた。


「……確かに、その通りだね」

「まずはここのモンスターを狩り尽くそう!」

「了解だ。……見えた!」


 恭介が叫ぶと同時に、二人の視界にはモンスターの群れが突っ込んでくる姿が飛び込んできた。

 先ほど倒したばかりのポイズンスネイクだけではなく、蜘蛛や蜥蜴などが巨大化したようなモンスターの大行進だ。


「沼地のモンスターは少なからず毒を持っている! 掠り傷だとしても、攻撃を食らってしまったら注意するんだ!」


 視界に映っているモンスターもそうだが、今はまだ見えていない沼地に生息するモンスターも毒を持っている種類が多い。

 そこまで強い毒ではなく、即効性も薄いのだが、蓄積していけば決定的な場面で動けなくなることもあり、僅かな傷でも油断はできない。


「来るよ!」

「俺が先に行く! 後ろに漏れた奴は頼んだ!」

「任せてくれ!」


 恭介の助言を受けた竜胆が前に出る。

 回避を優先しつつ、それでも一撃必殺を心掛けて疾風剣を振るっていく。

 傷を負ってでも襲い掛かってくるのがモンスターである。一撃必殺ならば無駄に警戒へ意識を割く必要もなくなるからだ。


「後ろ、行ったぞ!」


 とはいえ、回避優先なのは間違いなく、どうしても後ろに逃がしてしまうモンスターが現れてしまう。

 これがソロなら囲まれてしまい危険を伴うのだが、今回はパーティであり、仲間は元Cランクプレイヤーの実力者だ。


「はあっ!」


 恭介が剣を振り抜くと、蜘蛛のモンスターであるアシッドスパイダーが真っ二つに切り裂かれた。


「どんどん逃がしてくれて構わないよ! 復帰に向けての予行練習だ!」

「ははっ! それなら俺も少しは楽をさせてもらうとするか!」


 自分でモンスターを倒さなければスキル【ガチャ】は発動しないが、たとえ逃がしたとしても十分な数のモンスターが奥の方からまだまだ迫ってきている。

 欲を出し過ぎて体力を消耗してしまっては元も子もない。何より今は竜胆だけではなく、恭介の命も懸かっているのだ。

 この難局は、協力して乗り越えるべきだろう。


「俺のガチャのために、どんどん来やがれ!」


 中級剣術に進化したからだろうか、竜胆は種類の違う大量のモンスターを前にしても、冷静にモンスターに合わせた戦い方を選択している。

 首を落とすのか、心臓を一突きするのか、胴体を両断するのか、対処の仕方はそれぞれだが、竜胆は瞬時に判断して一撃必殺を実行していた。


「それにしても、どうしてこれだけのモンスターが一斉に動き出したんだろう?」


 後方から竜胆の動きを観察し、抜けてきたモンスターの対処をしていた恭介は周囲にも視線を向ける。

 これだけのモンスターが一斉に移動しているのだから、何かしらの原因が絶対にあるはずだと恭介は考えている。

 モンスターを狩り尽くせばこの場の戦いは終わるだろうが、根本的な解決を見なければ他の場所で同様のことが起きてもおかしくはなかった。


「どうにかして原因を探らなければならないかな。でも、まずはこの場を乗り切らないとだね!」


 再び迫ってきたモンスターを斬り捨てながら、恭介は竜胆の動きを見て立ち位置を変えようと移動する。

 だが、そこで思わぬ遭遇を果たすことになってしまった。


「……石田君?」

「ひひっ! や、矢田先輩、ひひひひっ!」


 恭介の後輩であり、新人プレイヤー用の扉の前で顔を合わせていた協会職員の石田だった。

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