第39話:異変
恭介とスキルの情報を共有ができた竜胆は、ドロップ品の不安がなくなったこともあり、いつも以上に順調なモンスター狩りを続けていた。
「よっしゃー! 中級剣術の熟練度がやっと20%に到達だ!」
中級剣術が上位のスキルに進化するのはまだまだ先になりそうだが、ドロップ品の数はすでに三桁に届きそうになっており、竜胆はほくほく顔を浮かべていた。
「まったく、これだけのドロップ品が出てくるなら、竜胆君は楽して生きていけるね」
「いいや、それはないかな」
「どうしてだい? 妹さんの治療費も稼げるんじゃないか?」
当然の疑問を恭介が口にすると、竜胆は首を横に振り、目的のものを口にした。
「俺が欲しいのは単なるポーションでもなく、上級ポーションでもない。エリクサーなんです」
「なっ! ……そんなにも妹さんの状態は悪いのかい?」
エリクサーの名前を聞いた恭介は驚きの声をあげ、それが必要な状態の鏡花が心配になってしまう。
「外傷はもう問題ないんだ。でも、内側がな……もう医療でも、異世界のポーションでも、どうしようもないくらいボロボロなんだ」
「そうなのか……すまない、嫌なことを聞いてしまったね」
竜胆の言葉を受けて、恭介はすぐに謝罪を口にした。
「恭介が気にすることじゃない。俺がもっと強くなって、エリクサーがドロップする扉の攻略に参加したらいいんだからな」
「なら私は、その願いが叶うよう、竜胆君に協力することにしようかな」
「……いいのか?」
これからも恭介が協力してくれるのはありがたい。しかし、彼は協会側の人間であり、一人のプレイヤーに肩入れし過ぎるのはよくないのではないかと竜胆は考えていた。
「構わないさ。私の場合、協会職員は臨時採用みたいなものだからね」
だが、恭介は臨時採用だから問題ないと笑いながら答えてくれた。
「そうなのか?」
「パーティを抜けた時に協会から誘われたんだ。本当は正社員待遇だったんだけど、まだプレイヤーに未練があったんだろうね、いつでもプレイヤーに復帰できるよう、臨時職員として採用してもらったんだ」
恭介がまだプレイヤーに未練を持っていたことは初耳で、竜胆は驚きを隠せない。
「まあ、怪我が治らなければ完全復帰は難しいし、結局は協会職員としてプレイヤーまがいのことしかできないんだけどね」
「そんなことはないだろう? 現に俺は助かっているしな」
「サポートするくらいならね」
竜胆は本音を口にしたが、恭介は現役時代のように動けない自分が歯痒いのだろう、苦笑を浮かべながらそう答えた。
「……恭介の怪我も、エリクサーがないと治せないのか?」
「いや、そこまで酷い怪我じゃないんだ。上級ポーションでもあればいいんだけど、上級は数も限られているし、Aランク以上のプレイヤーへ優先的に配られるからね」
恭介がそう口にすると、竜胆は思案顔を浮かべた。
「……どうしたんだい?」
「……よかったら譲ろうか、上級ポーション」
「……えっ? まさか、持っているのかい?」
「あぁ。この間のスタンピードの時、ドロップ品で出てきたんだ」
恭介もまさか竜胆が持っているとは思わなかった。
何故ならこれまで大量のドロップ品を回収してきたが、その中に上級ポーションは一本も入っていなかったからだ。
「……いや、でも、それはさすがに」
「プレイヤーに戻りたいんですよね?」
「……だがなぁ」
突如として舞い込んできた千載一遇のチャンスだが、恭介は二の足を踏んでしまう。あまりに突然過ぎて、プレイヤーに戻るための心の準備も、肉体の準備もできていなかったからだ。
「俺は恭介に何度も助けられている。ソルジャーアントのレアドロップを分けた時だって、結局は恭介じゃなくて知り合いの鍛冶スキル持ちに譲ったんだろう?」
「それはまあ、そうだね」
「なら、恭介に旨みのあるお礼を俺はできていないんだ。上級ポーションで妹を治すことはできないし、俺にとっては下級も中級も上級も変わらないんだよ」
それはさすがにないだろうと内心で思っていたが、恭介は自分の考えをまとめるのに必死で言葉にはできなかった。
「本当に必要としている人間がいるなら、使ってほしい。その代わり、さっきの言葉を借りるわけじゃないけど、これからも俺に協力してほしい、どうだ?」
自分から口にした言葉を言われてしまい、恭介はついに決断した。
「……ここで断ってしまったら、私は規格外の新人に見放されてしまうわけか」
「そういうことにしておくよ」
「まったく。分かった、協力する代わりってことで、上級ポーションを貰うとしよう」
恭介が決断したことで、竜胆はホッと胸を撫で下ろした。
「よかった」
「どうしたんだい、なんだかホッとした表情だね」
「新人プレイヤー用の扉に入れなかった日にでも、上級ポーションは売りに出そうと思っていたんだ」
一度売ってしまえば、即座に買い手がついただろう。そうなると、買い直すのは容易ではなく、またドロップするまで待たせなければならなくなるところだった。
「家に置いていて今すぐには渡せないけど、次に会う時には必ず渡すよ」
「ありがとう、竜胆君。この恩は絶対に返すからね」
「いやいや、俺はすでに返し切れないくらいの恩を恭介から貰っているからな?」
それぞれがそう口にすると、お互いに目と目が合い、同時に笑った。
そして再び狩りへ戻ろうとした――その時だった。
――バサバサバサバサッ!
――ドドドドドドドドッ!
沼地の至る所から、モンスターが一斉に動き出した音が響き渡ってきた。
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