第38話:暗躍
――竜胆たちが南の沼地でモンスター狩りをしている頃、新人プレイヤー用の扉の前には珍しく数人のプレイヤーが集まっていた。
だが、彼らはモンスターを狩るために集まっているわけではない。
「この中に竜胆が入っていったのは間違いないんだな?」
「は、はい。この目で見送りましたから、間違いありません、岳斗さん」
尾瀬岳斗とその取り巻きたちの総勢五人は、竜胆を狩るために集まっていたのだ。
「でも、元Cランクプレイヤーも一緒に入っていったって聞いたけど、大丈夫なんですか?」
心配そうに口にしたのは、竜胆の後をつけていた腹を殴られた男性プレイヤーだ。
「あぁん? てめぇ、また殴られてぇのか?」
「いえ! そ、そんなことは!」
殴られた男性は慌てて首を横に振り、愛想笑いを浮かべる。
「おい、てめえ!」
「は、はい!」
いつもならここで男性を殴り飛ばしているところだが、今の岳斗のターゲットはあくまでも竜胆だ。
「例のものは準備できているんだろうな!」
故に、岳斗は協会職員の男性に声を掛けると、電話で伝えていたものの確認を急いだ。
「こ、こいつです!」
協会職員の男性は小さな檻を指差すと、その中に入っているものを見て岳斗はニヤリと笑う。
「くっくっくっ! これで竜胆も終わりだ! 俺様の邪魔をしたこと、後悔させてやるぜ!」
『キシャアアアアッ!!』
岳斗から殺気が漏れ伝わったのだろう、檻の中に入っているモンスターが威嚇の声を発しながら、ガタガタと檻を揺らし始めた。
「おぉおぉ、威勢がいいなあ! だが、この檻は異世界産の素材を使った特別製だ、育ち切っていない貴様程度にはどうしようもできない代物だ!」
モンスターが手で檻を掴んで破壊しようとも、鋭い歯で噛みつこうとも、檻はびくともしない。
それでも出ようともがいているのは、モンスターの本能なのだろう。
「それで、竜胆たちがどこへ向かったのかは分かるんだろうな?」
「たぶんですけど、南の沼地に向かったと」
「たぶんだと?」
確証のない言葉に岳斗が協会職員の男性を睨みつけたが、男性は仕方がないと説明する。
「こ、こいつの存在がバレたらまずかったので、離れられなかったんです! で、でも、昨日のうちに中に入って、東と西のモンスターの数が激減しているのは、確認しています!」
「なら、なんで北じゃねぇんだ?」
「て、定期的なモンスター狩りがあるんですが、前回の狩りでは一緒に入った矢田が、北を担当していたので」
そこまで説明されると、岳斗も納得顔を浮かべた。
「あー、なるほどな。てめぇもサボってたってことか」
「ひ、ひひ」
「まあいい。それなら南にモンスターが大量にいて、竜胆はそっちに向かったってことだな」
そこまで聞けば岳斗も喜ばないわけにはいかない。
何せこれからやろうとしていることは、モンスターの暴走を人為的に起こそうとしているからだ。
「ぎゃははははっ! モンスターが大量にいるなら、最高のシチュエーションじゃねえか!」
岳斗は高笑いしながら、新人プレイヤー用の扉の前に立った。
「てめぇらで檻を持て! 行くぞ!」
「「「「は、はい!」」」」
取り巻きたちはモンスターに噛みつかれないよう、慎重に檻を持ち上げる。
「絶対にぶっ殺してやるからな、竜胆!」
そして、岳斗を先頭に新人プレイヤー用の扉へ入っていった。
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