第37話:初めての共有

「それでなんだが……俺のこのスキルについては秘密にしておいてほしいんだ」


 呆けっぱなしの恭介を見ながら、竜胆はそう口にする。


「えっ? ……あ、あぁ、そうだね。正直なところ、竜胆君のそのスキル【ガチャ】は規格外すぎる。私も秘密にしておいた方がいいと思うよ」


 竜胆の意見には恭介も同意を示し、スキル【ガチャ】については秘密にすることを約束した。


「だが、ガチャと同時に下級剣術を授かっていたのは僥倖だったね。それがなければ、プレイヤー登録の時にガチャのことを説明しなければ――」

「あー、実はそうじゃないんだ」

「……どういうことだい? まさか、下級剣術を持っていないとか?」

「正確には、持っていなかったが正しいかな」


 何が言いたのか理解できず、恭介は首を傾げてしまう。


「実はこのガチャなんだが、獲得できるのはアイテムだけじゃないんだ」

「アイテムだけじゃないって……えっ? ま、まさか?」


 そこまで口にした恭介は、剣を振るジェスチャーでスキル【下級剣術】もなのかと聞いてきた。


「あぁ。下級剣術は、ガチャで手に入れたスキルなんだ」

「……まさか、そんなことが本当にあり得るのかい?」

「あり得てしまっているんだなぁ、これが」


 竜胆がそう口にすると、恭介は腕組みをしながら考え込んだ。

 スキルは基本的に一つのみ、二つ以上を持つ者は稀だというのが世間一般的な考えである。

 それが後天的に獲得できた例を、恭介は聞いたことがなかった。


「……まさか、無限にスキルを獲得できるなんてことはないよね?」

「現状はガチャを除いて三つまでだな。中級剣術、共鳴、下級土魔法を持っている」

「ちょっと待ってくれ! ……えっ? 今、衝撃の事実があっさりと暴露されなかったかい? 下級剣術じゃなくて、中級剣術? それに、共鳴ってのはなんだい? さらには魔法まで!?」


 一気に知らない情報が暴露され、恭介は困惑はさらに深まっていく。


「どうやら俺のスキルには熟練度ってのがあるみたいで、それを100%するとスキルが上位互換のものに進化するんだ」

「それで、下級剣術が中級剣術に進化したってことかい?」

「あぁ」


 恭介が中級剣術について理解したところで、今度は共鳴の説明をすることになる。


「そ、それじゃあ、共鳴ってのは?」

「ソルジャーアントを倒した時に、たまたまガチャで手に入れたスキル。でもこれ、半径一〇メートル以内に一緒に戦ってくれるプレイヤーがいたら身体能力が上がるんだけど、ソロが基本の俺にはあまり使い道がないんだよな」


 そう竜胆が伝えると、恭介はこめかみに指を押し当てながら口を開いた。


「……それって、パーティを組めばものすごく貴重なスキルってことじゃないのかい?」

「そうだな。だが、俺はガチャのことをあまり言いふらしたくないから、ソロでの活動をするしかないんだよ」

「……………………まあ、共鳴と比べると、ガチャの方が有用だもんな」


 結構な時間を使い考えた結果、恭介も竜胆の考えに同意を示した。

 事実、スキル【ガチャ】でまた新たなスキルを獲得できる可能性もあり、さらに大量のドロップ品を手に入れられるとなれば、誰でもその答えに行きついただろう。


「下級土魔法は……いや、いいか。魔法は魔法だ、うん、これ以上は聞かないでおこう」


 自身が混乱するのを避けたのか、それとも土魔法について知っていたのか、恭介は最後の下級土魔法についてだけは何も聞かないことにした。


「ん? ということは、今回に限って言えば、私がいるから少しは竜胆君の身体能力が向上するってことかい?」

「あっ! だから昨日に比べて体が動いていたのか!」

「……共鳴の効果、今頃気がついたのかい?」

「いや、だって、基本ソロってのが頭の中にあったから、気にしてなくって」


 呆れたように恭介が呟くと、竜胆は頭を掻きながらそう答えた。


「でもこれって、パーティを組んでいなくてもいいんじゃないかな?」

「というと?」

「あくまでも半径一〇メートル以内に一緒に戦ってくれるプレイヤーがいたら発動するんだろう?」

「たぶんですけど」

「もしそうだとすれば、先日のスタンピードみたいにプレイヤーが集まっている場所なら、パーティじゃなくても効果は発揮されて、竜胆君の身体能力は上がるってことじゃないのかな?」


 恭介の推測を聞き、竜胆はハッとさせられた。

 ソロで行う扉の攻略にばかり目が行っていたが、前回のスタンピードのように現実世界でモンスターと戦う場面だって出てくるかもしれない。

 そして、彼の推測通りの効果が発揮されるのであれば、スキル【共鳴】は竜胆にとって大きな力になってくれることだろう。


「まあ、スタンピードなんて起きないに越したことはないんだけどね」

「確かに、その通りだな」


 スタンピードが起きているということは、プレイヤーが攻略に失敗したということであり、その時点でプレイヤーの誰かが犠牲になっているということだ。

 そして、多くの一般人が犠牲になっているかもしれないことを考えると、竜胆にとってはスキル【共鳴】が役に立つ場面など来てほしくないと考えてしまう。


「もしも新しいスキルを獲得する時が来たら、俺は共鳴を外すことになりそうだな」

「元パーティを組んでいた私からすると勿体ない気もするが、仕方がないんだろうね」


 そう口にした恭介は、地面に転がっていたアイテムをマジックバッグへと入れていき、竜胆と共にさらに奥へと進んでいった。

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