第36話:南の沼地
恭介と共に新人プレイヤー用の扉に入った竜胆は、南の沼地へ向かうことにした。
その理由は一つ、モンスター狩りを協会職員が行った時、北の火山を恭介が担当していたからだ。
「信じてもらうしかないけど、私はきちんとモンスター狩りを行ったからね」
「信じているさ」
恭介の言葉に竜胆が返したところで、早速モンスターが姿を現した。
「早いな。これは沼地のモンスターもきちんと狩られていないと判断した方がいいかもね」
「戦闘は俺が引き受けてもいいか?」
「もちろん。でも、気をつけてくれよ? 数が数だからね」
竜胆がそう口にすると、恭介も頷きつつも注意を促していく。
「大丈夫だ。こいつらは初見だが、特徴は把握している!」
『ギャギャギャギャッ!』
現れたのは紫色の皮膚をした巨大な蛇に似たモンスター、ポイズンスネイク。
鋭い牙に強烈な毒を持っており、噛みつかれれば耐性を持たない者だと最初は体が痺れたり、めまいを感じたりする。そして、そのまま一時間ほどすると完全に動けなくなり、モンスターの餌食になってしまう。
一匹、二匹程度なら新人でも倒せるモンスターとされている。その理由は噛まれたとしても即死に至ることがないからだ。
解毒ポーションなどをしっかりと準備していれば対処も可能なのだが、竜胆の前に現れたポイズンスネイクの数は、新人が相手にするには明らかに多すぎた。
(パッと見でも二桁はいるな。一斉に噛みつかれでもしたら、さすがにヤバいか?)
ポイズンスネイクと戦う際、最も警戒すべきは毒を持つ牙だ。
体をうねらせて常に敵を正面に捉えようとするポイズンスネイクだが、動きを止めることがなければあちらから攻撃を仕掛けてくることは少ないと言われている。
(照準が定まらないからって説が強いけど、本当だな)
竜胆は立ち止まることなく、右へ左は動き続けており、ポイズンスネイクも首を左右に振りながらなんとか正面に捉えようとしているだけで、攻撃の仕草を見せてこない。
タイミングを見計らい前進した竜胆が疾風剣を振り抜くと。一度に複数のポイズンスネイクが両断され、地面に転がっていく。
「……すごいな、竜胆君は」
竜胆の戦いぶりを見て、恭介が感嘆の声を漏らす。
大量のポイズンスネイクを前に、初見で動きを止めずに戦い続けられる胆力もそうだが、事前にモンスターについて予習してきているのも評価が高い。
何より、得た知識をしっかりと活用できていることが、より良いプレイヤーといえるだろう。
「彼のような新人が増えてくれたら、日本の未来は明るいだろうね」
実のところ恭介は戦闘が始まってから常に臨戦態勢を取っていた。
右手は腰の剣の柄を握ったままで、周囲への警戒も怠っていない。
幸いなことに他のモンスターが近づいてきている気配もなく、竜胆がピンチに陥れば助けに入るつもりだった。
だが、恭介の心配は杞憂に終わった。
「……ふぅ、終わったな」
二〇匹はいただろうポイズンスネイクだったが、それらは竜胆が一人で片づけてしまった。
(それにしても、なんだ? 昨日よりも体の動きが良くなっていたような?)
ポイズンスネイクとの戦闘を終えた竜胆は、昨日に比べて体が良く動いていることに気がついた。
その場で肩を大きく回していると、恭介から声が掛かった。
「本当にすごいな、竜胆君は」
「ありがとう。……それと、恭介に頼みがある」
恭介の素直な感想にお礼を言いつつも、竜胆は一緒に行動するうえで、一番気になっていたことを伝えることにした。
「なんだい? 荷物のことなら遠慮しなくてもいいよ?」
「そうじゃない。……いや、それもあるんだが、俺のスキルのことだ」
「竜胆君のスキル? それは下級剣術じゃないのかい?」
恭介は竜胆のスキルが下級剣術だと思っている。プレイヤー協会にもそのように登録されているのだから当然だ。
「……実は俺のスキルは、下級剣術じゃないんだ」
「まさか、虚偽報告を?」
「違う! 下級剣術は持っているんだ!」
「それならいったい……まさか、複数スキルの所持者なのかい!?」
恭介が驚きながら声をあげると、竜胆は頷いた。
だが、恭介の驚きはそれにとどまらないことを竜胆は知っている。
「俺の本来のスキルは、ガチャだ」
「……が、ガチャ?」
「まあ、見ててくれ」
ガチャと聞いて困惑する恭介だったが、見てもらった方が早いと思った竜胆はそう口にする。
何を見ればいいのかと恭介が考えていると、目の前にガチャが発動する時の魔法陣が浮かび上がった。
「な、なんだい、これは?」
困惑が深まるばかりの恭介とは異なり、竜胆はウインドウに表示されたガチャ結果を眺めていた。
【二五回のガチャによりアイテム【解毒ポーション】を五個獲得しました。装備【毒牙の短剣】を一個獲得しました】
そして、魔法陣からガチャで当たったアイテムが出てくると、恭介は口を開けたまま瞬きを繰り返し、驚愕のまま竜胆へ視線を向けた。
「…………これは、いったい?」
「これが俺のスキル、ガチャなんだ」
「……はは、ものすごく規格外な、スキルなんだね」
「とはいえ、これでもまだスキルで得られる恩恵のほんの一部なんだけどな」
「これが一部だって!? …………なんだろう、私は夢でも見ているんだろうか?」
竜胆の説明を聞いた恭介は、何をどう驚けばいいのか分からなくなり、ただ呆けることしかできなかった。
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