第34話:条件
翌朝、竜胆が朝食を食べていると恭介から連絡が入った。
「……これは、どうしてこうなったんだ?」
恭介からのメールに記されていた内容、それは竜胆にとってありがたくもあり、迷惑でもある内容だった。
「新人プレイヤー用の扉に入れるけど、矢田さんと一緒でなければ許可されない?」
どうしてこのような結論に至ったのかすぐには分からなかったが、すぐに別のメールが届き、そこに理由が記されていた。
「……なるほど、俺が大量のドロップ品を持ってきたから、協会に目をつけられたってわけか」
協会は竜胆のことを優秀なプレイヤーであると認識した。
だからこそ、今回の要望の可能であれば叶えたいと思う反面、何かあっては優秀なプレイヤーを失ってしまうかもしれない。
そう考えた協会側は、竜胆と面識のある恭介を同行させて守るだけでなく、彼の能力を測ってもらおうと考えたのだ。
「抜け目がないというか、なんというか」
竜胆としてはあまり知られたくはないスキルなだけに同行を拒否したいところだが、恭介と一緒でなければ入れてくれない。
食事の手を止めてしばらく考えていた竜胆だったが、いち早く強くなり、鏡花を苦しみから解放するためなら選択肢は一つだと返信を打ち込んだ。
「……それで、構いません。よろしくお願いします……よし、これでいいか」
竜胆は恭介の同行を認めることにした。
もしも同行者が恭介ではなく別の協会の人間であれば、竜胆は断っていただろう。
まだ短い付き合いではあるが、竜胆は恭介の人となりを信頼している。いずれ協会に自分の能力について知られる時が来るだろうが、彼ならこちらの立場が悪くなるような報告をしないだろうと考えた。
「それに、矢田さんはマジックバッグを持っているからな。ここで関係が切れることになったら、ドロップ品が勿体ないし」
運搬係とは思っていないが、恭介の持つマジックバッグが非常に役に立つのも事実である。
竜胆はメリットとデメリットを天秤にかけ、その結果で答えを出していた。
「おっ! 矢田さん、返信が早いな。……よし、それじゃあこれを食べたらすぐに扉へ向かうか!」
新人プレイヤー用の扉で待ち合わせと返ってきたこともあり、竜胆は急いで朝食を口に運ぶと、装備を身に着けて家を出た。
□■□■
――一方、竜胆を監視していた男性は大きな欠伸をしながら今もなお、彼の家が見える公園のベンチに腰掛けて見張っていた。
「……やっべ、ねみぃ」
瞼をこすり、首を大きく左右に振ってから目を開けると、竜胆が家から出てきたところだった。
「うおっ! ちょっと待て、すぐに追いかけないと!」
慌ててベンチから立ち上がった男性は、スマホを取り出して電話も掛ける。
相手は当然――岳斗だ。
『――……動いたか?』
「は、はい! 尾行しながらなんですが、おそらく向かう先は新人プレイヤー用の扉じゃないかと!」
『――くくくくっ、分かった。お前はしっかり見張っておけよ、いいな?』
「わ、分かりまし……また、切りやがった!」
グッとスマホを握る拳に力が入る。
あまり強く握ると壊してしまうのですぐに力を抜いたが、それでも男性の怒りは収まらない。
(……どうして俺だけこんな扱いなんだ! こっちは徹夜で見張ってたってのに!)
徹夜したからだろうか、男性の脳は冷静さを欠いており、怒りのまま思考が加速していく。
(俺だって頑張っているんだ! それなのに岳斗さんは認めてくれない! これならいっそのこと、裏切った方がいいんじゃないか?)
そう思いながら、男性は竜胆の背中を見つめる。
(……ここで俺が岳斗さんが狙っているって教えたら、あいつはどうするんだ? 協会に言いつけるだろうな。そしたら俺はどうなる? 情報を提供したわけだし、助かるよな?)
男性の心臓が急に早鐘を打ち始める。
このまま竜胆を尾行して岳斗に協力するか、それとも岳斗を裏切り竜胆に暴露するか。
ここで竜胆の側に付ければ彼の人生は一変していただろう。しかし――
(…………また、殴られたくないしな。それに、今はよくてもあとから俺がターゲットになるのは、マジでごめんだ)
結局、男性は岳斗の恐怖に抗うことができず、無言のまま竜胆を尾行し、ついには新人プレイヤー用の扉がある港に到着してしまった。
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