第28話:クイーンアント②

「これくらいならどうってことないんだよ!」


 鋭く振り抜かれた疾風剣。一度振るたびに二匹から三匹のソルジャーアントが絶命していく。

 それでも数の暴力は恐ろしいもので、竜胆を取り囲む包囲網は徐々に狭まっていた。


「はあっ! まだまだ、俺はやれるぞ!」


 それでも竜胆は焦ることなく、冷静にソルジャーアントの動きを見極めながら疾風剣を振るい、クイーンアントの動きにまで警戒を払っていた。


『……ギギ』


 勝利を確信していたクイーンアントも、ここまで竜胆が粘るとは思っていなかったのか、徐々に余裕がなくなっていく。

 それでも負けるとは思っていないようで、いまだ動く素振りは見せない。


(このまま動かないでくれよ!)


 一方で竜胆は強気な発言を繰り返しながらも、内心ではこのままの状況が続いてほしいと願っていた。


(クイーンアントが動き出すその時までに、ソルジャーアントの数を減らさないと!)


 スキル【中級剣術】を手に入れた竜胆にとって、ソルジャーアントがどれだけ飛び掛かってきても問題にはならないことが分かった。

 だが、そこにCランク相当の実力を持つクイーンアントが加わったらどうなるか、竜胆は考えたくもなかった。


『……ギギ……ギギィィ』

(頼む、まだ動くなよ!)


 どれだけそう思っていたのか分からないが、ソルジャーアントの数も目に見えて少なくなってきた。

 このまま進めば竜胆の思い通りに事が動く――しかし、ついに懸念していた存在が動き出した。


『…………ギギイイイイガガアアアアァァアアァァッ!!』


 耳をつんざくほどの奇声が再び発せられると、クイーンアントが満を持して動き出したのだ。


「……はは、ようやく重い腰を上げたか、クイーンアント!」


 それでも竜胆は自分の思い描いた展開により近いところまでソルジャーアントの数を減らせたことに安堵していた。


(もう少し削りたかったが、これくらいなら問題ないだろう)


 部屋の半分以上がソルジャーアントで埋め尽くされていたものの、今では四分の一以下にまで減っている。


(あとはクイーンアント自体がどれだけの強さを持っているかだが……こればっかりはやってみないと分からないからな)

『ギギギギガガガガアアアアッ!!』


 奇声と同時に残りのソルジャーアントが一斉に動き出し、同時にクイーンアントが持つ二四本もの節足が激しく蠢きだした。


『来たか!』


 円を描くようにして駆け出した竜胆は接敵したソルジャーアントを斬り捨てていく。

 足を止めることはせず、常に動き続けて巨体で機敏な動きができないクイーンアントの正面に立つことを避けていく。


『ギギギギ、ギギガガアアアアァァアアァァッ!』

『ギギガガッ! ギギガガッ!』


 竜胆を正面に捉えることができないクイーンアントは苛立ったのか、奇声でソルジャーアントに指示を飛ばして彼が移動できる範囲を制限しようとする。

 それでも竜胆は蟻の壁と化したソルジャーアントの群れに突っ込んでいき、そこで思う存分疾風剣を閃かせて死骸の山を築いていく。


『ギギギギッ! ギキャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 ここまでソルジャーアントが殺されるとは思ってもいなかったクイーンアントからは余裕が消え失せ、怒りに身を震わせた。

 そして、ソルジャーアントがいても構うことなく、節足の中でも特に太く逞しい二本の前足を大きく振りかぶった。


「これを待っていたんだよ!」


 竜胆が群れに突っ込んでいったのは、何も向かう先がなかったからではない。

 むしろ、逃げる先はクイーンアントによって準備されており、そちらに行ってしまえば待ち構えた攻撃を正面から受けることになるのは予想できていた。

 だからこそ、あえてソルジャーアントが作る蟻の壁に突っ込んでいき、そこへクイーンアントの攻撃を誘導したのだ。


 ――ドゴオオオオンッ!


 二本の前足による強烈な一撃によって地面が抉られ、石礫が周囲へ飛び散っていく。

 その威力は近くにいたソルジャーアントの肉体を粉々にするほどであり、石礫もまるでピストルの弾丸のごとく、ソルジャーアントを貫いていた。

 結果、クイーンアントの攻撃でソルジャーアントの数は激減したものの、竜胆を仕留められたのであれば問題ないと考えていたはずだ。だが――


「はあっ!」

『ギガッ!?』


 舞い上がる砂煙の中を、竜胆がクイーンアントめがけて一直線に駆け抜けてきた。

 近くにいたソルジャーアントは反応できず、脇の抜けていく竜胆をただ見ているだけだ。


『ギ、ギギガガアアアアァァアアァァッ!!』


 今度は体を捻り長大な胴体で擦り潰そうと試みる。

 クイーンアントの動きからどのような攻撃が来るかを予測した竜胆は大きく跳び上がり、胴体による擦り潰し攻撃を回避するが、ソルジャーアントはそうもいかなかった。

 クイーンアントによる再びの蹂躙を受けて、ついにソルジャーアントの数は九匹にまで激減してしまった。


『ギ、ギギギギ、ギギギギガガガガアアアアッ!!』

「そうやって苛立っていろ! お前の仲間は、もういないぞ!」


 さらに竜胆は、その残った九匹のソルジャーアントを各個撃破していき、ついにクイーンアントとの一対一へ持ち込んだ。

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