第27話:クイーンアント①

 ソルジャーアントに囲まれた状況で、さらには通路で倒した数とは桁違いと戦っていた。

 それでも中級剣術に進化したスキルのおかげか、圧倒的不利な状況下にあっても竜胆は余裕を持ってソルジャーアントの群れを討伐することに成功していた。


「……すごいな、中級剣術。息切れもしていないぞ」


 身体能力の上昇とはいえ、体力には限界がある。それすらも上昇させているスキル【中級剣術】に、竜胆は驚愕を覚えていた。


【100連以上のガチャが行われました。案内を短縮します】


 そして100連以上のガチャが発動すると、竜胆はスキル熟練度が当たることを大いに願った。


【レア装備、レアアイテム、装備、アイテムを合計四五個獲得しました。内訳は後ほどご確認ください】


 ここまでは予想通り。問題は次の案内表示だ。


【スキル熟練度を7.5%獲得しました】

「……7.5%? なんか、中途半端な数値だな?」


 希望のスキル熟練度が当たっていたものの、その数値は希望とは程遠いものだった。


「……もしかして、中級剣術になったから、獲得できる熟練度も少なくなってしまったのか?」


 同じ数値を獲得できるのであれば、スキルの進化もあっという間だろう。

 そうならないよう上位互換のスキルからさらに進化となれば当然のことかもしれないと、竜胆は自分を納得させた。


「それでも7.5%は間違いなく上がったんだ。このまま繰り返していけば、さらに上の剣術スキルへの進化も夢じゃないぞ!」


 さらに強くなる希望が見えてきたことで、竜胆はグッと拳を握りしめる。


「下級剣術がEランク相当のスキルだとしたら、中級剣術はどの程度になるんだ?」


 もしもCランク相当であれば、クイーンアント討伐には相応のスキルということになる。

 とはいえ、簡単に誰かに聞けるわけもない。何故なら竜胆はスキル【下級剣術】でプレイヤー登録をしているからだ。


「……虚偽申請って、ルール違反になるのかな?」


 結局のところ、竜胆は調べれば分かるかという結論に至り、目の前の状況に集中することにした。


「この通路の奥にクイーンアントがいるのか」


 小さく息を吐きながら、竜胆は改めて気を引き締める。

 相手は今まで戦ってきたモンスターとは比べ物にならないほど強い個体だ。その周囲にはここで倒したほどの数ではないにしろ、ソルジャーアントの群れも待ち構えていることだろう。

 だが、竜胆は引き返すつもりなど一切なかった。


「……よし、いくか」


 ゆっくりと歩き出した竜胆は、周囲への警戒も忘れない。

 だが、ソルジャーアントが隠れているということはなく、最奥の部屋が見えてくるまでモンスターと遭遇することはなかった。


「……真正面から殺そうって魂胆か」


 そうして竜胆が最奥の部屋に足を踏み入れると――


『ギギイイイイガガアアアアァァアアァァッ!!』


 耳をつんざくほどの奇声が巨大なモンスター、クイーンアントから発せられた。

 天井や壁から砂埃が落下し、地面に落ちていた小石がカタカタと揺れている。竜胆も思わず両耳を押さえながらクイーンアントを睨みつける。


『ギギギギッ! ギギギギッ!』


 続けてクイーンアントを守るようにして正面に群れていたソルジャーアントが動き出す。

 すでに疾風剣を握りしめていた竜胆は構えを取ったが、今までのソルジャーアントとは動きが違っていた。


(……なんだ? こいつら、飛び掛かってこない?)


 こちらの動きを観察するかのように、ソルジャーアントたちはゆっくりと、しかし確実に竜胆を取り囲もうと動いている。


「……なるほど、これがクイーンアントの能力ってことか」


 蟻系のモンスターに限り統率することができるクイーンアントはその場から動こうとはせず、ソルジャーアントが竜胆を観察しているかのように見えたのは、クイーンアントが観察していたからだ。


(このままだと逃げられない状況が作られてしまいそうだな、それなら!)


 クイーンアントが理想とする形が作られる前に、竜胆から仕掛ける。

 ピクリと体を動かしたクイーンアントだったが、直接攻撃をすることはせずにソルジャーアントが飛び掛かってきた。

 ここでも中級剣術による補正が掛かり苦も無くソルジャーアントを斬り捨てていく竜胆だったが、ある程度の数が殺されると攻撃の波が止まった。


「こいつら、また様子見に入りやがった!」


 苛立ちが募る。

 このまま時間が掛かってしまえばいずれ体力に限界が訪れる。

 仮に体力がもったとしても三時間が経過すると恭介が入ってきてしまう。

 数を倒すのもそうだが、格上のモンスターを倒すことで発動する特典もあるかもしれないと考える竜胆にとって、それは生き残れたとしても嬉しくはなかった。


「強くなるためには絶対に時間内でお前を倒す必要があるんだよ!」


 一度波が引いたソルジャーアントの群れめがけて突っ込んでいく竜胆。


『ギギガガガガアアアアァァッ!』


 それを待っていたかのように奇声を発したクイーンアント。

 そして、ソルジャーアントの群れの左右が前進し、竜胆の後方にまで移動していく。

 正面にいたソルジャーアントが犠牲になる一方で、その後方には竜胆が斬り捨てた倍以上の数が存在している。

 最終的には完全に取り囲まれる格好となり、形勢は一気に逆転された。


『ギギギギギャギャギャギャ!』

「……なんだ? お前、もう勝ったつもりでいるのか?」

『……ギャギャ?』


 完全に取り囲まれ、数でも圧倒的不利な状況になっている竜胆が諦めたそぶりを見せず、クイーンアントは意味が分からないといった感じで鳴く。

 それでも勝利を確信している分、余裕があるのかクイーンアント自体はいまだに動いてこない。


「やれるもんならやってみろ!」

『ギギイイイイガガアアアアッ!!』

『ギギギギッ! ギギギギッ!』


 クイーンアントの合図をきっかけに、ソルジャーアントは前後左右から同時に竜胆へ襲い掛かってきた。

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