第26話:スキル【中級剣術】

 群れを成すモンスターは危険だと言われている。

 それは敵めがけて一直線に突進してくるモンスターの壁と化し、プレイヤーたちを蹂躙してしまうからだ。

 だが、それ以上に危険だと言われているのは知恵を持ち、モンスターを統率することができるモンスターだ。

 知恵を持つモンスターの周囲に別のモンスターが少なければ脅威は小さくなるが、その数が多くなればなるほど、脅威は一気に跳ね上がる。

 クイーンアントには知恵があり、蟻系のモンスターに限り統率することができる。

 いわばこの洞窟はクイーンアントの巣であり、巣を守るソルジャーアントが大量に存在する最悪の環境だと言えるだろう。


「……はは、ソルジャーアントがうじゃうじゃしてるよ」


 竜胆は洞窟を進みながら最初こそモンスターに遭遇しないなと疑問に思っていたが、最奥の手前に来ると状況は一変した。

 通路で倒した数以上のソルジャーアントの群れが一二本の節足を忙しなく動かして地面を這いまわっており、最奥へつながる通路を守っているように見える。

 手前の部屋は広大であり、通路に誘い込んでの戦いも守りを優先しているモンスター相手では難しいと考えると、間違いなく囲まれての戦いが予想された。


「……新しく獲得した共鳴は今回使えなさそうだし、中級剣術でどこまでやれるかだな」


 竜胆は少し高い場所から手前の部屋を這いまわっているソルジャーアントの群れを見下ろしており、ここに至るまでにスキル【共鳴】の効果を確認していた。

 半径一〇メートル以内で一緒に戦っているプレイヤーの数に従い身体能力が増加するスキルは、一人で洞窟にやってきた竜胆には意味のないスキルだったのだ。


「こんなことなら矢田さんに来てもらうべきだったか? ……いや、自分で決めたことだし、ガチャについてはまだ知られたくないしな」


 スキル【ガチャ】は規格外のスキルだと竜胆は感じている。

 それは通常だと一つ、多くても二つのスキルを得ることが当然だと考えられていた中で、それ以上のスキルを獲得できるチャンスを得られるからだ。

 それだけではない。今回のソルジャーアントの群れを倒したことで得られた大量のドロップ品も、規格外だと判断する要因の一つとなっている。


「あれだけの数のアイテムを手に入れられるなら、星1の扉でも贅沢な暮らしができるだけの稼ぎが簡単にできる。変な奴に知られたくないし、情報なんてどこから漏れるか分からないもんな」


 情報は必要最低限しか出さないように気をつけながら、スキル【共鳴】はいずれ取捨選択で捨てることになるかもと考える。


「逃げる手段を用意しつつ、やれるところまでやってみるか」


 ドロップ品を恭介のマジックバッグに入れながら、竜胆は装備できるレア装備をいくつか身に着けてきている。

 スキルだけでなく装備も新調した竜胆は、集中力を研ぎ澄ませるとその場から飛び出すと、ソルジャーアントが這いまわっている下まで一気に駆け下りた。


『ギギッ!』

「先手必勝!」


 疾風剣を握る手に力が込められると、今まで以上に剣が手に馴染む感覚を覚える。

 それだけではなく、走り出した速度が明らかに速くなっていた。


(これが、中級剣術の力か!)


 剣術と名のつくスキルは、剣を扱う時の動きが良くなるだけでなく、身体能力も幾分か上昇させてくれる。

 竜胆は体感的に下級剣術の時に比べ、中級剣術では1.5倍の速度になっていると感じていた。


「これなら!」


 ――ズバッ!


 下級剣術であれば一振りで終わっただろう動きで、二度疾風剣を振ることができた。

 今までの倍以上にモンスターを狩ることが可能となり、一瞬のうちに二桁に迫る数のソルジャーアントが死骸となって地面に転がった。


「……これなら、いける!」


 手応えを感じた竜胆は、ソルジャーアントに囲まれている状況であっても自然と笑みを浮かべながら顔を上げた。


「いいぜ、この場にいる蟻たちを全部狩り尽くしてやるよ!」

『ギギギギガガガガッ!!』


 竜胆の挑発が伝わったのか、それともモンスターとしての本能が感じ取ったのか、ソルジャーアントは奇声を発しながら一斉に竜胆へ襲い掛かった。

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