第25話:洞窟の先へ
「ようやく終わったね」
「本当にありがとうございます、助かりました」
「いやいや、これくらい大したことはないさ」
がらんとした洞窟の通路を目にしながら、竜胆は恭介に向けて何度も頭を下げた。
「それで、これからどうするんだい? 一度協会に行ってアイテムを換金する?」
「それもいいかなと思うんですが……俺はそれ以上に洞窟の先がどうなっているのか、それが気になります」
そう口にした竜胆は、通路の先へ視線を向ける。
「ソルジャーアントの群れを倒したと言っていたね。これだけの数だ、おそらくこの先には女王蟻がいるだろうね」
「……クイーンアントですか」
新人用の扉には似つかわしくない強さを持つモンスター、クイーンアント。
そもそも、ソルジャーアントも三匹程度までならEランクプレイヤーでも問題なく倒せるとされているが、二桁にもなればEランクでは太刀打ちできなくなる。
恭介は一週間ごとにモンスター狩りを行っていると言っていたが、これだけの数のモンスターを放置していたとなれば、それはモンスター狩りとは言えないのではないかと竜胆は思ってしまう。
「……おかしいな」
「どうしたんですか、矢田さん?」
「先週のモンスター狩りの報告では、ソルジャーアントの群れなんて報告はなかったんだ」
「他の警備兵と一緒にモンスター狩りをしていたんですよね?」
「あぁ。私は別地区の担当だったんだけど、モンスター狩りをした警備兵は報告書の提出が必須で、私もこちらを担当したプレイヤーの報告書にも目を通しているんだけどね」
虚偽の報告がなされたのではないかと恭介は考えたが、今はそうも言っていられない。
「すまない、竜胆君。もしも君がこの先へ向かうのであれば、私も同行していいかな?」
「いえ、矢田さんはもう戻って大丈夫ですよ」
「えっ? だが、間違いなくクイーンアントがいるはずだ。クイーンアントの想定ランクはCランク。こう言ってはなんだが、Eランクの君では蹂躙されて終わってしまうぞ?」
厳しい意見ではあるが、これが一般的な意見であり、恭介は竜胆を心配してくれている。
そのことを十分理解している竜胆ではあるが、今はまだスキル【ガチャ】についてはあまり知られたくないと考えていた。
「そうかもしれませんが、今の力を試してみたいんです」
「……竜胆君。勇猛と無謀は紙一重だ。これだけの数のソルジャーアントを倒した実力を認めよう。だけど、クイーンアントの周りにはさらに多くのソルジャーアントが群れを成している可能性だってある。あまりに無謀過ぎるよ」
柔和な雰囲気を常に漂わせていた恭介だったが、この時ばかりは真剣な面持ちで、鋭い視線を竜胆へ向けている。
しかし竜胆も引くことはなく、彼の視線を真っ向から見つめ返し、認めてほしいと強く願った。
「…………はぁ、分かったよ」
「矢田さん!」
「私に他のプレイヤーの行動を力づくで止める権利なんてないからね。ただし、危ないと思ったらすぐに引くこと。それと、竜胆君が安心して攻略を行えるよう、洞窟の外で待つこと、そして三時間が経過しても戻ってこなかった時は救援のために私も中に入ることをを許してくれないかい?」
恭介の言葉に竜胆は申し訳なさそうな顔を浮かべてしまう。
「それだと矢田さんの負担が大きくなってしまいませんか? それに外のモンスターに襲われることもあるんですよ?」
「怪我でパーティを抜けたとはいえ、これでもCランクプレイヤーだよ? イレギュラーが現れない限り、星1の扉のモンスターに後れを取るなんてしないさ」
ここまで言ってもらって断るのは失礼かもしれないと考えた竜胆は、恭介の気遣いを素直に受けることにした。
「……ありがとうございます、矢田さん」
「構わないよ。それよりも、必ず無事に戻ってくること、それだけは約束してくれ」
そう口にした恭介が右手を差し出すと、竜胆は力強く握り返した。
「約束します!」
「それじゃあ、待っているよ」
「はい!」
こうして竜胆は、新たなスキルを試すべく、洞窟の奥へ向かった。
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