第24話:レアアイテム

「……えっ? ドロップアイテムの運搬を手伝ってほしいって?」


 思案した結果、竜胆は一度扉から出ると、警備兵である恭介に協力を仰いだ。


「そうなんですが……ダメ、ですよね」


 すぐに頼れる人間が恭介しか浮かばなかった竜胆はダメもとでお願いしてみたが、彼の反応を見てダメだと思いため息をつく。


「いや、ダメじゃないよ」

「えっ? い、いいんですか?」

「竜胆君が頼んできたんじゃないか」

「それはそうですが……仕事の手を止めてしまっていいのかと」


 竜胆が心配を口にすると、恭介は問題ないと教えてくれた。


「警備兵とはいっても、私一人でやっているわけじゃないからね。それに、新人が困っているのを助けるのも仕事の一環さ。ちょっと待っていてくれ、待機室にいる別の職員に声を掛けてくるから」

「あ、ありがとうございます!」


 何度も頭を下げる竜胆に笑みを返しながら、恭介は一度その場を離れた。

 しばらくして戻ってくると、先ほどまでの警備兵の格好ではなく、一プレイヤーの格好で戻ってきた。


「矢田さん、その恰好は?」

「新人用の扉とはいえ、モンスターの巣窟に足を踏み入れるんだ。準備は万全にしないとね」


 たかが新人の頼みと侮らず、こうしてしっかりと準備してきてくれた恭介を見て、竜胆は頼れる先輩とはこういう人のことを言うんだなと感心していた。


「それじゃあ行こうか、竜胆君。案内してくれるかい?」

「はい! よろしくお願いします!」


 こうして竜胆は恭介を伴い、再び扉の中へ入っていった。


 ――そして数分後、恭介は表情を引きつらせていた。


「……こ、これが全部、ドロップ品、なのかい?」

「そうなんです。一人では持ち帰れないし、どうしようかなって思っていたんですよ」


 苦笑いの竜胆を横目に見ながら、再び大量に転がっているドロップ品に目を向ける恭介。

 二人であっても一度に全部は持ち帰れないなのだが、恭介はなんとか我に返ると、小さく息を吐きながら腰に提げていた小さなポーチを取り外した。


「全く、すごい量だね。これを持ってきておいてよかったよ」

「矢田さん、それは?」

「これはマジックバッグといって、中が異空間になっていてね、見た目以上にものが入るようになっているレアアイテムだよ」

「マジックバッグ! ……は、初めて見ました」


 星6以上の扉からしか出ないとされているマジックバッグは、プレイヤーが喉から手が出るほど欲しいとされているレア中のレアアイテムだ。

 星の多い扉を攻略しようと思えば思うほど物資が大量に必要となり、荷物を持つ専用のプレイヤーが必要になってくる。

 だが、そうなると行軍速度はどうしても遅くなってしまい、またモンスターに襲われた時に荷物持ちがやられたり、分断されてしまうと一気に物資不足に陥ってしまう。

 マジックバッグが一つでもあれば、慣れたメンバーで扉攻略に乗り出すことが可能となり、バッグを十分な実力者に任せることが可能となり、少なくともやられるという確率は少なくすることができる。


「私の場合は運がよかったんだよ。星6の扉攻略中にたまたまレアモンスターと遭遇して、倒すことができたんだ」

「それってもしかして、トレジャーゴブリンですか?」

「その通り。私がいたパーティはドロップ品の取得者をローテーションで決めていてね、その時がたまたま私だったというわけさ」


 パーティを組む場合、ドロップ品の分配で揉めるケースが多々あると耳にしていた竜胆は、レアアイテムでも揉めなかった恭介が組んでいたパーティはルール決めがしっかりしていたのだろうと感心する。


「今は協会職員をしていますけど、抜ける時に揉めたりはしなかったんですか?」

「私もマジックバッグを譲ろうかと聞いてみたんだけど、それはお前のだからいらない! って突っぱねられてしまったんだ」

「……いいパーティメンバーだったんですね」

「本当にね。私も怪我がなければずっと同じパーティでいたかったよ」


 そこまで話をした恭介は、やや苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。


「はは、ごめんよ。少し自分語りになってしまったね」

「いえ、貴重な話ですし」

「そう言ってもらえると助かるよ。それじゃあドロップ品をマジックバッグに入れていこうか」

「はい!」

「おっと、その前に……竜胆君、こういう時はちゃんと気をつけるんだよ」


 アイテムをお願いしようとしたところで、恭介は急に竜胆へ注意を促す。


「えっ? 何をですか?」

「マジックバッグというのは、持ち主と許可を得ている者にしか中身を取り出せないようにもできるんだ」

「そうみたいですね」

「……竜胆君? 私が君のドロップ品を盗んでしまうという可能性もあるんだよ?」

「……あー、なるほど」

「…………君、そこまで重要視していないだろう?」


 やや呆れたように呟いた恭介だったが、竜胆も警戒していないわけではない。お願いした相手が彼だったから、何も言わずにアイテムを預けようと思ったのだ。


「恭介さんのことを信頼していますから」

「昨日会ったばかりの人間だけど?」

「それでもです。昨日も心配して探しに来てくれましたし、今日の話を聞いてさらに信頼できると感じました」

「……まったく、そんなことを言われたら裏切れないね」

「裏切るつもりもなかったですよね?」

「まあね。そんなことをしたら、協会職員を首になってしまうよ」


 軽く肩を竦めながら恭介がそう口にすると、竜胆は笑いながらドロップ品を手渡した。


「このお礼は必ずします。なんなら、換金した金額の一部をお渡ししますよ?」

「非常に魅力的だけど、それも協会的にはNGなんだ」

「そうなんですか? ……それなら、微力ですが俺が力になれることがあったら言ってください。必ず力になりますので」


 そう口にした竜胆からドロップ品を受け取りマジックバッグに入れた恭介は、大量のドロップ品を横目に見たあと、ニコリと笑い頷いた。


「これだけの実力を持つ新人は久しぶりだよ。もし力を借りたいことがあったら声を掛けるから、その時はよろしくね」

「はい!」


 それから二人はドロップ品をマジックバッグに詰め込んでいき、全てを詰め込み終わるのに三〇分以上掛かってしまった。

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