第23話:一対多
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……くそっ、間に合わない!」
あまりに数が多すぎるからか、モンスターが迫ってくると同時に地鳴りが洞窟を揺らし、天井からパラパラと砂埃が舞い落ちてくる。
「……仕方ない、やるか!」
背後から大量のモンスターに攻撃されるよりも、真正面から確実に倒した方が生き残る確率は高いと踵を返した竜胆は、疾風剣を抜き放つ。
「幸いなことに、ここの通路は狭い。圧倒的不利な数のモンスターと相対する必要はないはずだ」
モンスターの足音が徐々に近づいてくる。
そして、ゴクリと唾を飲み込んだ竜胆の視界にモンスターの姿が映し出された。
「あいつらは――ソルジャーアント!」
『ギギギギギギッ!』
一二本の節足を忙しなく動かしながら前進してくる、蟻を巨大化させたような見た目のソルジャーアントは、基本的に群れで行動することが多い。
それは兵隊として縄張りを守るためであり、侵入者を確実に仕留めるためだ。
「でもまあ、ソルジャーアントとの戦い方も頭の中に叩き込んでいる。そう簡単にはやられないぞ!」
『ギギギギガガガガッ!』
ソルジャーアントの大きさ的に三匹ずつしか攻撃できない。
魔法のスキルを持っていない竜胆が生き残るには、確実に三匹ずつ倒すのがセオリーだと目の前の個体に集中する。
「はあっ! ふっ! せいっ!」
『ギギガッ!?』
流れるような剣術で先頭の三匹を倒した竜胆だったが、その後方からさらに三匹が押し寄せてくる。
それだけではない。何倍にも及ぶ数のソルジャーアントがたった一人の侵入者を殺すために殺到しているのだ。
「くそっ! はっ! どりゃああああっ!」
休む間のないソルジャーアントの突進を、竜胆は一歩、また一歩と後退しながら、それでも確実のその数を減らしながら生を繋いでいく。
体には致命傷にはならないまでも、細かな傷が大量に刻まれていく。
本当に一瞬だが攻撃の間が空いた時にはポーションを頭からかぶり傷を回復させて、再び疾風剣を振るっていく。
呼吸を整える時間はない。気を抜くなんてできるはずがない。常に集中力を切らさず、思考をフル回転させて最善の行動を導き出していく。
竜胆の感覚的には何時間という耐えの時間だったが、あまりにも一斉に押し寄せてきたことで感覚がくるっていた。
実際にソルジャーアントの群れと相対していた時間は――たったの三〇分だった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……も、もう、こないのか?」
どれだけの数のソルジャーアントを倒したのか、竜胆には見当もつかない。
だが、足元だけではなく、少しずつ後退したことで洞窟の通路には数えきれないほどのソルジャーアントの死骸が転がっていた。
「…………はああぁぁぁぁ~。今回はマジで死ぬかと思ったああぁぁぁぁ~!」
大きな息を吐き出しながらその場に尻もちをついた竜胆は、地面の感触を両手で感じながら、生きていることを実感する。
そして、生き残ったからこその楽しみが始まると考えると、気持ちは自然と高ぶっていた。
【100連以上のガチャが行われました。案内を短縮します】
「ひ、100連以上だって!?」
それは竜胆がソルジャーアントを一〇〇匹以上倒したことを意味しており、これだけの数を倒したのであればガチャの成果も期待できると満面の笑みを浮かべた。
【レア装備、レアアイテム、装備、アイテムを合計三七個獲得しました。内訳は後ほどご確認ください】
今は時間が惜しい。何故なら再びモンスターに襲われたら疲労困憊で戦える気がしないからだ。
案内の短縮、内訳の確認が後でできるというのは、竜胆にとってありがたいことだった。
【スキル熟練度を20%獲得しました】
「20%! 戦闘だけでも上がるんだし、もしかしたら!」
【スキル【下級剣術】の熟練度が100%に達しました。上位互換のスキル【中級剣術】に進化します】
「……やったああああっ!!」
拳を握りしめた竜胆は、両手をあげて喜びを爆発させた。
まさか扉に入って四時間ほどで目標を達成できるとは思っていなかった。
これで確実に強くなれると、今から次の戦闘が待ちきれなくなっていた竜胆だったが、ガチャはまだ終わっていなかった。
【ソルジャーアントのスキル【共鳴】を獲得しました】
「……えっ? ええええぇぇええぇぇっ!?」
熟練度をあげてスキル【中級剣術】に進化させただけでなく、ソルジャーアントのスキル【共鳴】まで獲得することができた。
これは予想外に嬉しいことであり、どういうスキルなのかすぐに確認したい衝動に駆られてしまう。
「これはまた、要検証だな。疲れもあるし、ひとまずは洞窟を出て安全な場所に移動するか」
一〇〇匹を超える数のソルジャーアントを倒したのだから、洞窟の中でも安全ではないかと考える者もいるだろうが、竜胆はそうはしなかった。
何故ならここは扉の内側であり、何が起きるか分からない場所でもある。
モンスターがどのようにして生れ落ちるのかも定かではない中、薄暗く、見通しの悪い場所が安全だとはどうしても思えなかったのだ。
「とはいえ……このアイテム、どうしようかなぁ」
スキル熟練度やスキルは実物が存在しないので問題ないが、獲得した各種アイテムはそうもいかない。
竜胆一人では持ち帰ることができない数のアイテムを前に、しばし思案するのだった。
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