第20話:取り調べ
――竜胆が新人プレイヤー用の扉でモンスター狩りをしている頃、プレイヤー協会にある取調室の一つでは、岳斗の取り調べが行われていた。
「おいっ! なんで俺様がこんな目に遭ってんだ!」
「あなたにはスタンピードに際に任務放棄をした疑いが掛けられています」
「あぁん? 誰がんなこと言ってんだ! あいつか、竜胆か!」
取り調べは複数人で行われており、岳斗の取り調べには協会職員の女性が一人と、もう一人は当日指揮を執った彩音だった。
「フロアでも申し上げましたが、彼だけの意見ではありません。それに防犯カメラ映像もあるのですから、きちんとありのままを証言することをオススメしますよ」
「うるせえっ! 俺様は自分の命を守ろうとしただけだ! それの何が悪いってんだ!」
最終的には開き直った岳斗を見て彩音はため息をつく。
「あなた、プレイヤーとしての自覚はあるのかしら? Cランクプレイヤーなんでしょう?」
「だからなんだ! Cランクだからザコ共を守れってか? ふざけ――」
「プレイヤーなのだからランクなんて関係ないわ」
岳斗が文句を言おうとしたが、被せるようにして彩音が関係ないと強い口調で言い放つ。
「プレイヤーはランクに関係なく、プレイヤーでない人々を守る必要があるんです」
「知るか!」
「だったらプレイヤー資格の剥奪も検討するけど、いいかしら?」
「なんだと!?」
彩音はAランクプレイヤーであり、現場指揮を任されるほど協会から信頼を得ている。
もしも彼女が資格剥奪を宣告したのであれば、岳斗はプレイヤーではいられなくなるだろう。
「……く、くそっ! そうだよ、逃げたよ!」
「素直に認められるじゃないですか」
「それでは尾瀬様には降格処分を言い渡し、Dランクとさせていただきます」
「はあ!? なんで、認めただろうが!」
協会職員が降格処分を通達すると、それに対して岳斗が怒りを露わにした。
「認めなければ資格剥奪とは言いましたが、認めたからといって処分がないとは言っていませんよ?」
「てめぇ、嵌めやがったな!」
「罪には罰を、当然じゃないですか」
「く、くそったれが!」
こうして岳斗は罪を認め、CランクからDランクへの降格処分となった。
取り巻きの面々もそれぞれランクが一つ下がり、さらに一ヶ月の活動禁止を言い渡された。
「次に同じようなことがあれば、一発レッドで資格剥奪ですから、気をつけてくださいね」
彩音が笑顔でそう告げると、岳斗は舌打ちをしながら取調室を出ていった。
「風桐様、お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
協会職員がそう告げると、彩音は笑顔で返した。
「それにしても、降格処分と一ヶ月の活動禁止ですかぁ」
「どうしたのですか?」
「ん? あー……いいえ、なんでもないです。それじゃあ私も行きますね」
協会職員から疑問を投げかけられたが、彩音は苦笑するだけで答えることはなく、足早に取調室を後にした。
(さすがに職員さんに処分に不満がある! なんて言えないわよねぇ)
彩音としては罪を認めたとはいえ、それでも一発レッド、資格剝奪が妥当ではないかと考えていた。
本音を言えばそのまま罪を認めずにルールの上で資格剥奪を言い渡したかったのだが、プレイヤーでなくなることを恐れた岳斗はあっさりと罪を認めてしまった。
こうなってはルールに沿った処分しか下せない。
(尾瀬岳斗って人、竜胆さんをものすごく睨んでいたし、心配だわ)
彩音は不安が現実にならないことを祈りながら、プレイヤー活動を開始した。
■□■□
「――くそったれがっ!」
協会ビルをあとにした岳斗は取り巻きたちに連絡を取り、薄暗い路地裏のたまり場に集まっていた。
近くにあったゴミ箱を思い切り蹴飛ばすが、気持ちは晴れない。
「何が降格処分だ! 何が活動禁止だ! ふざけやがって!」
取り巻きたちも次同じことがあれば資格剝奪を言い渡されており、これからどうしたらいいのか真剣に考えていた。
「……これも全部、あいつのせいだ、竜胆の野郎め! おい!」
「は、はい!」
怒声のまま呼び掛けられた取り巻きたちは慌てて返事をすると、鬼の形相のまま近づいてくる岳斗に恐怖を感じてしまう。
「てめぇら、竜胆がどこに行ったのか、調べてこい!」
「で、でも俺たち、プレイヤー活動を禁止されていて――」
「あぁん? てめぇ、俺様に逆らうってのか!」
「がはっ!?」
ただでさえ苛立っていた岳斗は、僅かな反論も許すことなく、取り巻きの一人の腹に拳をめり込ませた。
「ぉ、ぉぇぇぇぇっ」
「いいか、てめぇら! 絶対に竜胆を見つけてこい! そうじゃなかったら、俺様がぶっ殺してやるからな!」
取り巻きたちは一斉に走り出し、殴られて蹲っていた者もよろよろしながらその場を離れていく。
「……竜胆、てめぇは俺様が絶対にぶっ殺してやる! 活動禁止だぁ? はっ、知ったことか! 扉の中なら、何をしてもいいんだからな!」
怒りに我を忘れてしまった岳斗もたまり場を離れると、周囲に殺気を振りまきながら竜胆を探し始めた。
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