第18話:説教と手応え

「八時間も扉の中にいるやつがあるか!」

「……ほ、本当にすみませんでした!」


 警備兵の男性が怒鳴ると、竜胆は素直に頭を下げた。

 自分でもガチャや熟練度のためとはいえ、扉にこもり過ぎたと反省している。

 頭を下げたままの竜胆を見て、警備兵の男性はこれ以上は怒鳴れないと思ったのか、大きく長いため息をついた。


「はああぁぁぁぁ~。……だがまあ、無事でよかった」

「ご心配をお掛けして、本当にすみません」

「いや、私も怒鳴り過ぎたよ」

「でも、それは俺を心配してのことですよね? ありがとうございます」


 両親を亡くしてからは自分のことを心配してくれるのは鏡花だけだったこともあり、他人とはいえ心配されるのは嬉しいもので、竜胆は自然とお礼の言葉を口にしていた。


「それと……すみません、名前を聞いてもいいですか?」

「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は協会職員もしている矢田やだ恭介きょうすけだ」

「天地竜胆です」


 自己紹介を終えた二人が握手を交わすと、そのまま恭介が言葉を続けた。


「それで、ちゃんと生きていたということは、成果もあったんだろう?」


 モンスターが多いタイミングで八時間も狩りを続けていたのだから、恭介も成果が気になったのだろう。

 竜胆もしっかりとした手ごたえを得ていたので、ニヤリと笑いながら頷いた。


「いろいろと試すこともできましたし、ばっちりです」

「それはよかった。モンスター狩りもしてくれていたようだし、これでまた一週間は問題ないだろうね」


 今回は楽ができたと恭介は笑った。


「あの、矢田さん。こちらの扉には一度しか入れないんですか?」

「いや、そういうわけではないよ。協会からの許可証があれば何度でも入れるが……普通は入らないだろうね」


 それから恭介は、新人プレイヤー用の扉よりも、別の星一つの扉の方に他の新人プレイヤーは集まってしまうと説明した。


「ここは攻略してはいけない扉だからね。星一つとはいえ、攻略した時に得られるアイテムが強力なものが多いし、新人プレイヤーとしては早く強力な装備が欲しいから、どうしても別の扉に行ってしまうんだよ」

「そうなんですね」

「天地君もここにこだわらず、別の扉の攻略をした方がいいと私も思うよ」


 普通のプレイヤーであればそうなのだろう。

 しかし、竜胆には竜胆の目的があり、それを達成させるには他のプレイヤーに邪魔されない新人プレイヤー用の扉の方が得だった。


「俺はまたここに来たいんですけど、明日も来てもいいですか?」

「明日かい? でも、モンスターは結構な数を狩ったんだろう?」


 まさか連続で来たいと言われるとは思っておらず、恭介は驚いてしまう。


「まだまだ行けてない場所もありますし、ここで出会えるモンスターとの戦闘は経験しておきたいんですよ」

「私としてはモンスター狩りの手間も省けるしありがたいが、本当にここでいいのかい?」

「ここがいいんです」


 疑問に思いながら問い掛けてきた恭介だったが、竜胆は苦笑しながら首を縦に振った。


「うーん、まあ確かにここは広大だからね。多くのモンスターが生息しているし、協会も新人にはうってつけだと新人プレイヤー用の扉として攻略を禁止にしているわけだからね」


 恭介は納得したかのようにそう口にした。


「俺のスキルは下級剣術なので、あまり無理して別の扉に行っても無駄死にしてしまいそうで……だから、剣術が体に馴染むまではここでしっかりと体を動かしたいんですよ」

「なるほどね、そういうことなら納得だ。まあ、下級剣術ならすぐだろうけどね。そうなったらまた、私たち警備兵でモンスター狩りをすることになるんだろうなぁ」

「あはは、そうかもしれませんね。それじゃあまた明日、よろしくお願いします」

「あぁ、気をつけて帰るんだよ」


 最後は冗談半分で口にした恭介と別れた竜胆は、その足で鏡花が入院している病院へ向かった。


 病院の警備員詰め所に顔を出すと、今日も一哲が待機しており、彼に疾風剣を預けた。


「お見舞いの度にすまないな」

「いえ、規則なので仕方ないですよ」

「竜胆君はほぼ毎日、妹さんのお見舞いに来ているが、武器持ち込みの申請を出してみるかい?」


 何気なく一哲が聞いてみると、竜胆は驚いた表情で顔を上げた。


「……そ、そんなものがあるんですか?」

「プレイヤーの場合はある。とはいえ、申請が通るのに時間が掛かることもあるし、申請を出してもしばらくは今日のように預けてもらうことになるがね」

「それでも、申請が通ったら今日よりも早く妹に会いに行けるので、ダメもとでお願いしてもいいですか?」

「おう、構わねぇよ。ちょっと待っててくれ」


 竜胆が出したいと答えると、一哲は一度詰所の中に戻ると、一枚の書類を手に戻ってきた。


「これに必要事項を記入してくれ。あとは俺が出しておくからよ」

「えっ? いいんですか?」

「一応、俺って警備員の中でも上の立場なんでな、パパッと処理できちゃうってわけよ」


 そう口にした一哲が豪快な笑みを浮かべて見せると、竜胆はクスクスと笑いながら書類を記入していった。


「……はい、記入終わりました」

「どれどれ? ……よし、問題ねぇな。それじゃあ今日は預からせてもらうが、申請が通ったら詰め所に顔出した時に教えてやるよ」

「よろしくお願いします。それじゃあ俺は妹に顔を見せてきます」

「おう! 早くいってこい!」


 一哲に見送られながら、竜胆は鏡花が待つ病室へ早足で向かった。

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