第17話:上位種

「……こいつ、まさか上位種か?」


 モンスターの実力にも個体差は存在するが、目に見えてはっきり分かるような差が出ることはほとんどない。

 しかし、稀に実力差がはっきり分かる個体が現れることがあり、それらの個体を上位種と呼称していた。


「ったく、ここは新人プレイヤー用の扉じゃなかったのか?」

『……フシュウウゥゥゥゥ』


 下級ポーションを使ったことで傷は塞がったが、痛みが完全に引いたわけではない。

 噛みつかれた左足もそうだが、いまだズキズキと痛みを伴っている。


(これ以上モンスターが増えたら万事休すだ。ここでこいつを倒して、いったん引こう)


 このまま逃げることも選択肢には含まれている。

 しかし、竜胆は上位種を倒すことでガチャの特典が発動しないかという期待を持っていた。


(初回ガチャ、五匹討伐、一〇匹討伐で特典ガチャが引けたんだから、上位種の初討伐特典なんてものがあってもいいんじゃないか?)


 そんな願望を抱いたことで、逃げるという選択肢は排除された。


「……よし、いくぞ!」

『フシュウウウウッ!』


 竜胆が駆け出すと、それを見た上位種が獰猛な声をあげる。

 一合、二合……八合、九合、一〇合を超えて剣と剣を打ち合わせていく。

 最初こそ互角に打ち合わせていたが、一分ほど経過すると戦況は徐々に傾いていった。


「ふっ! はっ! はあっ!!」

『……!?』


 これが突然プレイヤーに覚醒した人間であれば、上位種に押し切られていたかもしれない。

 しかし、竜胆はプレイヤーに憧れ、いつか自分もプレイヤーになれると信じて自身を厳しく鍛えていた人間である。

 体つきも同年代の一般人と比べるとがっしりしており、体力も備わっている。

 さらに知識としてモンスターの特徴についても調べていた。

 ゴブリンやワイルドウルフ、当然ながらゴーストナイトの情報も頭に叩き込まれている。

 お互いに動かず剣を振り続けていたのだが、ついにゴーストナイトが一歩後退した。


「隙あり!」

『――ブジュアッ!?』


 腰を落として足に力を溜めると、それを爆発させて一気に前に出る。

 疾風剣の間合いのさらに内側へと踏み出した竜胆は、そのまま上位種の脇をすり抜けながら、加速を乗せた横薙ぎを脇腹へ叩き込んだ。

 上位種の鎧が半ばから両断され、ガタガタと体を震わせている。


「終わりだ!」


 モンスターは死の間際が一番危険だと理解していた竜胆は、確実な死を与えるため即座に振り返ると、勢いそのままに袈裟斬りを放ち上位種を完全に両断した。


『ゴボボブジュルリャリャアアアアァァァァァァァァ……ァァ……』


 先ほどのゴーストナイト同様に鎧がバラバラに地面へ転がったのを確認した竜胆は、初めて肩の力を抜いて大きく息を吐き出した。


「ふううぅぅぅぅ~……か、勝てたぁ~!」


 あまりの緊張感に座り込んでしまった竜胆だが、手にした勝利を噛みしめながら転がっている上位種の鎧に目を向ける。


「……そういえば、ガチャ以外のドロップ品もあるんだな」


 地面にはゴーストナイトと上位種の鎧だけでなく、ゴブリンの棍棒も転がっている。

 他には何も落ちておらず、それらが今回の戦闘で手に入れることができたドロップ品だ。


「本来ならこれだけで終わりなんだけど……おっ! きたきた!」


 一般的なアイテムはモンスターを倒して手に入るドロップ品か、異世界のどこかにある宝箱からしか手に入れることができないとされている。

 しかし、竜胆の場合はガチャというスキルで獲得できる可能性もあり、モンスター討伐におけるドロップ品の獲得率は二倍以上といえるだろう。


【一一回のガチャでアイテム【下級ポーション】を二個、装備【鉄の籠手】、スキル熟練度を10%獲得しました】


 ウインドウの表示を見た竜胆はグッと拳を握りしめる。

 それは何故か――今回の戦闘で竜胆が倒したモンスターの数が一二匹だったからだ。


【初めての上位種討伐特典ガチャです。倒したモンスターのスキルを獲得します】

「……えっ? 倒したモンスターのスキルってことは、もしかして?」

【ゴーストナイトのスキル【下級剣術】を獲得しました】


 すでに持っているスキルの獲得に、竜胆は愕然としてしまう。

 だが、ウインドウにはまだ続きがあった。


【スキル【下級剣術】はすでに獲得済みのため、熟練度に変換されます。スキル熟練度を25%獲得しました】

「……はああぁぁぁぁ~。いやまあ、無駄にならなかっただけマシだけど、まさか同じスキルになるとはなぁ」


 これなら上位種討伐は別の機会に取っておくべきだったかと考えなくもないが、時すでに遅く、今はスキル熟練度が上がったことを喜ぶべきだと頭を切り替える。


「普通のガチャでもスキル熟練度を獲得していたが、今はどうなっているんだ?」


 普通のガチャで10%、特典ガチャで25%のスキル【下級剣術】の熟練度を獲得しており、竜胆はスキル覧から現状の確認を行う。


「……下級剣術の熟練度が48%に上がっているな。これ、普通にモンスターと戦っても上がるってことか?」


 モンスターを倒すことでガチャが回せて、スキル熟練度も上がると分かり、竜胆のやる気に火が点いた。


「一度戻るつもりだったけど、また下級ポーションも手に入ったし、もう少しだけモンスター狩りをやっていくか!」


 結局、竜胆はこの日だけで八時間扉の中でモンスター狩りを決行した。

 普通の新人プレイヤーであれば長くても三時間ほどで戻ってくるのが通例で、心配になった警備兵の男性に呼び戻されることになったのは言うまでもなかった。

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