第14話:初めての扉

 港に到着した竜胆は、地図に記された七番倉庫へ向かう。

 倉庫の入り口には若い警備兵の男性が立っており、竜胆の姿を見つけると鋭く睨みつけられてしまった。


「ここになんの用だ?」

「新人プレイヤーの天地竜胆です。新人プレイヤー用の扉に入るため来ました。こちらが許可証になります」


 竜胆が許可証を取り出して警備兵に手渡すと、彼は驚きのまま確認し、許可証が本物だと分かると表情を一変させてニコリと笑った。


「……うん、間違いないね。先ほどは失礼した」

「気にしないでください。柳瀬さんに聞きましたが、あまり来るプレイヤーもいないみたいですしね」


 竜胆がそう口にすると、警備兵は苦笑しながら頷いた。


「その通りなんだ。実のところ、新人が来ないと扉の中のモンスターが増えてしまってね、私たちが定期的に狩りを行っていたところなんだよ」


 警備以外の仕事までこなさなければならないと、警備兵の男性は愚痴をこぼす。

 扉の内側にはモンスターの縄張りが存在しており、数を減らさなければ当然増え続けてしまう。

 新人プレイヤー用の扉と宣伝している以上、新人が戦える環境でなければさらに誰も寄り付かなくなる。それどころか運用ができないと判断されればそのまま攻略対象になるかもしれない。

 せっかく新人プレイヤー用にと協会が準備してくれている場所なので、これから登録する未来のプレイヤーのためにも、竜胆は可能な限りモンスターを狩り尽くそうと決めた。


「今はどういう状況なんですか?」

「一週間に一度狩っているんだが、明日で一週間が経過するところだったよ」

「ということは、モンスターが比較的多い日ってことですか」

「そうなるね。心配なら私もついていけるが、どうする?」


 ついてきてもらった方が生き残るだけならいいのかもしれない。

 しかし今回の竜胆はスキル【ガチャ】の検証をしなければならず、それならば人目は可能な限り少ない方がいい。


「……いいえ、大丈夫です」

「そうかい? だが、危ないと思ったらすぐに引くんだ、いいね?」

「分かりました、ありがとうございます」


 警備兵の男性に心配されつつも、竜胆は七番倉庫を空けてもらう。

 薄暗い倉庫の中が視界に広がると、倉庫の中央に異質で巨大な扉が存在していた。


「……これが、扉か」

「星一つとはいえ、モンスターはどれも危険な存在だ。気をつけてくれよ」


 竜胆が扉を見て緊張しているように見えたのだろう、警備兵の男性が声を掛ける。

 だが、竜胆は緊張していたわけではない。扉の前に立つことができている自分に感動し、本当にプレイヤーになったのだと実感していた。


「……大丈夫です、いってきますね」

「あぁ、いってこい」


 竜胆が扉に触れると、巨大な扉が大きな音を立てて開かれていく。

 中に入ればそこは異世界であり、地球の常識が通用しない場所になる。

 今の自分がどれだけやれるのか? スキル【ガチャ】の検証を行い何ができるのか? そしてどれだけ強くなれるのか?

 それらを知ることが最大の目的なのだが、竜胆の心は高ぶっていた。

 扉の中は青と白の筋が渦を巻いており、この中に飛び込めば異世界へ移動することができると言われている。

 実際に移動できるのだが、扉に入ったことのない竜胆からすれば未知の体験であり、扉を前にしてから初めて緊張していた。


(……よし、いくか!)


 覚悟を決めた竜胆が一歩を踏み出して渦に触れる。

 直後、体が吸い込まれていく感覚に襲われると――次の瞬間には全く別の光景が目の前に広がっていた。


「……なんだ、ここは?」


 倉庫の中にあった扉に入ったはずなのだが、視界には青空と大草原が広がっており、空気も澄んでいるように感じられる。

 ここが本当にモンスターが跋扈する異世界なのかと、竜胆は疑問に感じてしまう。


「本当に異世界なのか? むしろ、地球のどこか大自然だと言われた方が信じられる――」

『ゲヒヒッ!』


 そう口にしていた竜胆だったが、彼の言葉を遮るようにして嫌悪感を覚える声が耳に入った。


「……ゴブリンか」

『ギヒャギャギャッ!』


 錆びたナイフを手に飛び掛かってきたゴブリン。

 直後には竜胆の体が動いており、疾風剣を抜き放ちゴブリンを縦に両断していた。


「……ふぅ。他のモンスターはいないみたいだな」


 戦闘を終えて疾風剣を鞘に納めると、続けてガチャが発動する。


【モンスター討伐によりスキル【ガチャ】が発動します】

(さて、何が当たるかな?)


 そう思った直後、竜胆の予想外のウインドウが表示された。


【一回のガチャが【ハズレ】を引きました】

「……はい?」


 まさかのハズレ判定に、竜胆は唖然としてしまった。

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