第6話:疾風剣
『ギャインッ!?』
折れた剣を投げつけられたソードウルフが悲鳴をあげると、直後には竜胆の疾風剣が振り抜かれる。
(速い!)
竜胆の予想以上の速度で振り抜かれた疾風剣がソードウルフを捉えると、刃と化した体毛を意にも介さず胴体を両断してしまった。
『ガッ! ……グ、グルルゥゥ』
刃の体毛に絶対の自信を持っていたソードウルフは仲間が両断されたのを目の当たりにし、三匹とも前に出るのを躊躇ってしまう。
「はああああっ!」
驚いたのは竜胆も同じだったが、彼は動きを止めることなく、今がチャンスだと見るや一気呵成の攻めに転じた。
この一瞬の判断の違いが、勝敗を分けることとなった。
竜胆が前に出たのを見てから再び動き出そうとしたソードウルフだったが、間近にいた一匹の首が一瞬のうちに刎ねられると、返す刃で頭部を切り裂く。
この時点で動き出していた残る二匹が左右から竜胆へ襲い掛かってきたのだが、竜胆はその場で横回転、疾風剣の横薙ぎが閃きほぼ同時に上下に斬り捨てた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……この剣、すごいな」
病院へ向かっていたソードウルフを仕留めた竜胆は、その手に握られている疾風剣に視線を落とす。
すると今回もガチャが発動するというウインドウが現れた。
「まあ、そうなるよな」
いまだ検証ができていないスキルだが、現時点までは竜胆に不利益は出ていない。
今回も何か良い結果が出てくれるのではと思っていたが――まさにその通りになった。
【一〇匹のモンスター討伐特典です。倒したモンスターから獲得できるレアアイテム・装備、もしくはスキルを獲得します】
「ん? 今回はスキルや装備確定じゃないのか?」
今まではスキルやレア装備が確定していたが、今回はアイテムも含めて確率で獲得できるものが決まるようだった。
「とはいえ、特典ガチャなわけだから、レアであることに変わりはないってことか。……どうせならスキルか装備がいいな」
これからプレイヤーとして活躍するには確実に強くなれるスキルか装備が欲しいと願ってしまう。
(だけど……鏡花のためを思うなら、俺は……)
そこまで考えると、ガチャが終わり獲得したものがウインドウに表示された。
【レアアイテム【上級ポーション】を獲得しました】
「……上級、かぁ」
市場価値で見れば上級ポーションは貴重品であり、売れば数十万円の価値があると言われている。
しかし、今の竜胆から見れば初級も中級も上級も同じものにしか見えなかった。
「……はっ! は、早く病院に行かないと! モンスターがこれだけじゃない可能性だってあるんだ!」
ガチャが終わったことで我に返った竜胆は、落ちたままだった鉄の胸当てを拾い装備すると、再び病院へと駆け出した。
幸いなことに、病院までの道のりで他のモンスターと遭遇することはなかった。
スタンピードの一報が病院にも届いていたのだろう、正面の入り口には武装した警備員が数名立っており、竜胆の姿を見つけると警戒のため武器を抜いた。
「止まれ!」
「お、俺は敵じゃありません! ここに入院している患者の兄なんです!」
「今は緊急事態だ! 誰も中に入れられない!」
「そんな! 妹が、妹が入院しているんです! お願いです、緊急時だからこそ会わせてください!」
「ダメなものはダメだ! それに君、武器を持っているじゃないか! それでは緊急時でなくても院内へ入れることはできん!」
プレイヤーになり、武器を手に入れたことで門前払いになるとは思っておらず、竜胆は愕然としてしまう。
「ま、待ってください!」
しかし、そこへ入り口の騒ぎを聞きつけた病院の関係者が慌てた様子で声をあげた。
「そ、その人は大丈夫です! 中に入れてあげて下さい!」
「あ、
バタバタと慣れない感じで駆け寄ってくると、病院の先生である絢瀬
「よ、よろしいのですか、絢瀬先生?」
「は、はい。……私の、担当している患者さんの、お兄さん、なんです」
「分かりました。ですがまず、呼吸を整えてください」
「は、はひ……ふぅ……す、すみません……もう、大丈夫、です」
環奈は大丈夫だと口にしているが、誰がどう見ても呼吸が乱れている状態に、警備員だけではなく竜胆ですら心配になってしまう。
「と、とにかく、竜胆君は大丈夫、ですから」
「あの、すみません。この剣は皆さんが預かっていてくれませんか?」
環奈が許可を出してくれたものの、武器を持って院内に入れないというのもルールで決められている。
鏡花に会いたいがためにルールを一つ破ってもらうのだから、さらに破らせるわけにはいかないと疾風剣を警備員に差し出した。
「いいのかい?」
「はい。帰りにまた声を掛けますので」
「……分かった。協力、感謝するよ」
「それと、これもいいですか?」
「これは……折れた剣?」
竜胆は病院へ向かう前、鉄の胸当てだけでなく、モンスターに投げつけた折れた剣も回収していた。
誰のものか分からない剣だが、もしかすると遺品になるかもしれないものだ。
門が現れた場所から遠く離れた場所に打ち捨てられてしまえば、誰のものか分からなくなるかもしれない。もしかすると、そのまま誰にも発見されずに記憶から消えてしまうかもしれない。
そう考えると、勝手に持ち出した竜胆としては置いていくわけにはいかないと思ってしまった。
「お願いします」
「まあ、これも武器ではあるからな。一緒に預かろう」
「よろしくお願いします」
「それじゃあ行こうか、竜胆君」
「はい」
こうして竜胆は、環奈と共に鏡花の病室へと向かった。
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