第5話:全力疾走
「……なんだ、これは?」
竜胆が大通りに出てみると、状況は一変していた。
「A班は前方の魔獣の相手を! B班とC班は左右に分かれて魔獣の捜索と殲滅をお願いします! 単身では動かないよう、必ず班で行動してください!」
「「「はい!」」」
最初に見た時にはプレイヤー側が劣勢だったはずだが、戻って来てみると別のプレイヤーが指揮を執っており、パッと見でもプレイヤー側が優勢になっている。
(……あの女性のプレイヤーが指揮を執っているのか。ということは、Aランク以上いのプレイヤーってことか)
プレイヤーは基本的に個人で活動している者が多い。
中にはパーティを組んで活動している者もいるが、アイテム分配で揉めることが多いということで少数派になっている。
しかし、ソロで解決が難しい案件には臨時で指揮官を置き、解決へ向かうこともある。
指揮官に任命されるのは最低でもAランクとされており、竜胆が女性プレイヤーをAランク以上だと判断した理由だった。
「
「ありがとう! でも油断は禁物よ、A班はこのまま周囲の警戒、B班とC班はさらに広範囲での捜索と殲滅に切り替えます!」
「……さらに広範囲ですか?」
報告に来た男性プレイヤーはやや困惑気味だったが、別の女性プレイヤーからの報告を受けてハッとさせられる。
「
「なっ! すでに包囲網を抜けられていたのか!」
「三方向か、それなら――」
風桐彩音と呼ばれたプレイヤーが思案顔を浮かべていると、視界の端で駆けだした影を捉え顔を上げる。
「あなた、待ちなさい!」
駆け出していたのは――竜胆だった。
「ここから北には病院があるんだ! 俺はそこに向かう!」
「待ちなさい! あなた……あなたは、誰なの!」
彩音の質問に答えることなく、竜胆は全速力で北へと向かう。
(くそっ! なんでよりによってここから北なんだ! そこにある病院には、鏡花が入院しているんだぞ!)
竜胆の妹である鏡花は過去、別のスタンピードが起きた時にモンスターに襲われ、大怪我を負ってしまった。
今もなお入院が必要な状況で、逃げろと言われてもすぐに逃げられない状態になっている。
「無事でいてくれ、鏡花! 俺が絶対に助けてやる!」
全力疾走しながら誰一人としていなくなった大通りを突き進むと、視界にモンスターが複数確認できた。
「よし、追いついたぞ!」
竜胆が声をあげると後方のモンスターが気づいて足を止める。
振り向いた直後、竜胆は折れた剣を振り下ろして犬に似たモンスターの首を斬り落とした。
(ソードウルフ! 体毛を鋭利な刃に変えることのできるモンスターだけど、そうなる前に攻撃できれば倒すことは難しくないはずだ!)
竜胆の知識はプレイヤーに憧れていた時からの努力のたまものでもある。
今まではただの知識に成り下がっていたものを、知恵に変えてモンスター討伐に活かそうと頭をフル回転させていく。
「次!」
短期決戦だと判断した竜胆は足を止めることなく、目が合った二匹目めがけて駆け寄り、踏み込みと同時に切り上げて胴を両断する。
「次いいいいっ!」
三匹目の体毛が逆立ってきたのを見て、竜胆は舌打ちをする。
(体毛を刃に変える前兆だ! その前に、斬り捨てる!)
強く一歩を踏み切ると同時に体を捻り、回転の勢いそのままに横薙ぎを放つ。
体毛が刃に変わるのが先か、竜胆の横薙ぎが先か、結果は――
――ザンッ!
竜胆の横薙ぎが間一髪で先だった。
眉間に刃がめり込むと同時に折れた剣がソードウルフを上下に分かち、真っ赤な血が周囲へ飛び散る。
大きく息を吐き出して顔を上げた竜胆が見たものは――先を進んでいただろう四匹のソードウルフの姿だった。
「はぁ、はぁ……四匹とも、体毛を刃に変えてやがるか」
プレイヤーになったとはいえ、竜胆はまだなりたてのプレイヤーである。
しかも装備は落ちていた剣だけで、それも今では折れてしまっている。
下級剣術のスキルを獲得できたとはいえ、この場を乗り切るには少々物足りないが、それでも乗り切らなければ鏡花を一人にしてしまう。
【モンスター討伐によりスキル【ガチャ】が発動します】
直後、ソードウルフを倒したことでガチャが発動した。
【二回のガチャにより装備【鉄の胸当て】を獲得しました】
(……二回? 三回じゃないのか?)
倒したソードウルフの数は三匹だったはずだと思っていると、ウインドウがもう一度現れた。
【五匹のモンスター討伐特典です。倒したモンスターから獲得できるレア装備を獲得します】
(れ、レア装備だって!?)
ウインドウが消えると同時に金色の魔法陣が顕現し、消えたのと同時に一本の剣が地面に突き刺さっていた。
「……これが、レア装備?」
【レア装備【ソードウルフの疾風剣】を獲得しました】
ソードウルフの疾風剣を獲得した直後、四匹のソードウルフが体毛を鋭くさせて突っ込んできた。
「くっ! 考えている暇はないか!」
竜胆は胸当てには目もくれず、折れた剣を牽制で投げつけると、地面に突き刺さっていた疾風剣を抜いて駆け出した。
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