第4話:スキル【ガチャ】

「……な、何が起きたんだ?」


 すぐに理解が追いつかない中でも、ウインドウのメッセージは移り変わっていく。


【初回特典のガチャです。倒したモンスターのスキルを獲得します】

「……も、モンスターのスキルを、獲得だって?」


 すると突如として眼前に虹色の魔法陣が顕現し、同色の光が浮かび上がると、その光が竜胆に降り注いだ。


「……な、なんだ? 力が、漲ってくる?」


 折れた剣を握る腕に力が漲り、自然と剣に視線を向けていた竜胆だが、次にメッセージが浮かぶと再び顔を上げる。


【ゴーストナイトのスキル【下級剣術】を獲得しました】

「……か、下級剣術だって!?」


 最初は何が起きたのか理解できなかった竜胆も、攻撃系スキルである【下級剣術】を獲得できたと知り驚きを隠せない。

 まさかという思いから折れた剣を構えてみると、スキルの力なのか剣をどのように振ればいいのか、どう構えればいいのか、頭の中で鮮明に分かるようになっていた。


「……すごい。これが、スキルなのか? これが、プレイヤーなんだ!」


 ここでようやく最初に出てきたウインドウの意味が理解できてきた。


「モンスターを倒したことでプレイヤーに覚醒したのか。それで、俺が授かったスキルが【ガチャ】ってことか!」


 だが、一人につき一つのスキルが基本とされており、二つ以上のスキルを持ったプレイヤーは貴重とされている。


「でも、俺に【ガチャ】と【下級剣術】のスキルがあるってこと、だよな? これがガチャの効果なのか?」


 スキルを授かったばかりは分からないことが多いものだ。

 特に聞いたことのないスキルであればなおさらで、プレイヤーに憧れ、プレイヤーについての知識を貯め込んでいた竜胆であっても、スキル【ガチャ】に関しては一度も耳にしたことがなかった。


「……確か、ステータスウインドウでスキルの詳細を見ることができるんだよな?」


 徐々に冷静になれたことでステータスウインドウから詳細を見れることを思いだした竜胆だったが――モンスターは待ってくれなかった。


『……キヒィィ』


 時間を使い過ぎたと自分の失敗を悔いた竜胆だが、不思議と先ほどまで感じていた恐怖はどこにもなかった。


「……ゴブリンか」


 灰緑の肌が特徴的な小柄な人型モンスターであるゴブリンが、曲がり角から姿を現す。

 数は三匹いるが、竜胆は小さく息を吐きながら冷静に剣を構えた。


「今の俺なら、やれるはずだ!」

『ギヒャアアアアッ!』


 手に持っていた棍棒を振り上げて駆け出してきた三匹のゴブリン。

 竜胆は先頭のゴブリンをターゲットにし、姿勢を低くして突っ込んでいく。

 お互いに前に出ているからか、彼我の距離が一気に縮まり、それぞれが間合いに入った。


『ギギャアアアアッ!』

「はあっ!」


 棍棒が振り下ろされる前に剣を切り上げて右腕を斬り飛ばし、返す剣で首を刎ねる。

 自分でも驚くほどスムーズに体が動き、竜胆は驚きの表情を浮かべる。

 だが、驚いていられたのも一瞬だけだ。

 残る二匹のゴブリンが怒りに任せて棍棒を振り回して突っ込んできた。

 今までの竜胆であれば最初のゴブリンを前にして体が硬直し、そのまま頭蓋を割られていたかもしれない。

 しかし、プレイヤーに覚醒した竜胆はゴブリンの動きを冷静に見極め、カウンター一閃で折れた剣を二度振り抜いただけで倒してしまった。


「……すごいな、下級剣術は」


 あっさりとゴブリンを倒せたことに驚いていた竜胆だったが、さらに驚きの光景が目の前に広がった。


【モンスター討伐によりスキル【ガチャ】が発動します】

「……えっ? ま、また?」


 再びのガチャ発動に竜胆は困惑を隠せない。


「まさか、またスキルを獲得でき――」

【三回のガチャによりアイテム【下級ポーション】を獲得しました】

「…………か、下級ポーション?」


 スキル獲得を期待した竜胆だったが、ガチャから獲得できたのは、今となってはどこでも購入することができる下級ポーションだった。

 それも、三回のガチャと表示されていたにも関わらず、魔法陣から出てきたのは一本だけ。

 それがさらに竜胆の困惑を深めてしまう。


「ダメだ、分からないことが多すぎる」


 時間があればスキル【ガチャ】の検証を行いたいところだが、今はそうも言ってはいられない。


 ――オオオオオオオオォォォォン。


 モンスターの咆哮が響いてきており、スタンピードの鎮圧にはいまだ至っていないことが分かってしまった。


「……俺ももうプレイヤーなんだ。まずは人命救助が最優先だな」


 手にしているのは折れた剣である。それでどれだけのことができるのか定かではないが、人命救助であれば可能だろうと判断した。


「自分にやれることをやろう。検証はそのあとだ」


 こうして竜胆は行き止まりから来た道を戻り、大通りを目指して駆け出した。

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