第3話:覚醒
「――はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……くそっ!」
剣を手に甲冑モンスターへ飛び掛かっていった竜胆だったが、あまりにも重い一振りを受けて剣が半ばから折れてしまった。
剣が安物だったのか、すでにボロボロだったのか、竜胆の扱いが下手だったのか、はたまたその全てか。
どちらにしても、竜胆はこれ以上なすすべがなく、甲冑モンスターを引きつけながら逃げ惑う結果になってしまった。
「だけど、甲冑モンスターを引きつけることには、成功した! はは、やってやったぞ! 俺は、あの女の子を、助けられたんだ!」
最初から一人で甲冑モンスターを倒せるとは思っていない。少女から引き離すことが目的だったのだ。
あとは自分が生き残るだけだと、竜胆は路地へと入り、角を何度も曲がり、甲冑モンスターを撒いてやろうと試みた。だが――
「はぁ、はぁ……嘘だろ? 行き止まり?」
そう思った瞬間、竜胆は勢いよく後方を振り返る。
すでに足音は聞こえてこない。ならば、甲冑モンスターを撒いたのだろうと、自分をなんとか言い聞かせるようにした。
(……大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だいじょう――)
――ガシャン。ガシャン。
「……大丈夫じゃ、なかったか」
詰んだ、竜胆はそう確信した。
プレイヤーではない自分がどれだけ努力したところで、モンスターに勝つことはできない。
プレイヤーに憧れたところで自分は一般人であり、少女を助けたのだって自己満足だったのだと今では思えてならない。
自分だけが逃げていれば、鏡花を一人にすることもなかった。
「…………そうだ、鏡花。鏡花を残して、死ぬわけにはいかないだろう」
そう思い直した竜胆は、折れた剣を握る手に力がこもる。
半ばから折れたことで、片手でも十分に振れる重さになっていた。
呼吸を整えようと何度も深呼吸を繰り返し、先ほど走ってきた曲がり角に視線を向ける。
『…………コオオォォォォ』
「……来たな、甲冑のモンスター」
角から姿を見せた甲冑モンスターを睨みつけた竜胆だったが、その姿は最初に見た時とはかけ離れたものになっていた。
(こいつ、なんでこんなにボロボロなんだ? まさか、途中でプレイヤーに攻撃されたのか? それなら俺じゃなくてプレイヤーをターゲットにしたらよかったのに)
モンスターの中には一度ターゲットを決めると、命の危機に瀕しない限り追いかけ続ける個体が存在している。
まさか自分がその個体に引っ掛かってしまうとは思わなかったが、それでも今の甲冑モンスターとならやり合えるかもしれないという希望も浮かんできた。
「ボロボロのお前と、半ばから剣が折れた一般人の俺、どっちが強いか決めてやろうぜ!」
『ォォォォ……ォォオオオオォォオオッ!』
ガシャン、ガシャンと甲冑の音を響かせながら、それでも足取りはおぼつかない甲冑モンスターが剣を振り上げる。
間合いでいえば間違いなく甲冑モンスターの方が有利だろう。何せ竜胆の剣は半ばから折れているのだから。
しかし、道幅の狭い路地裏であれば話は別だ。
剣を振り上げ、そのまま袈裟斬りを放とうとした甲冑モンスターだったが、剣先が壁に当たり勢いが減速してしまう。
その隙を見逃さなかった竜胆は残る力を振り絞り全力で駆けだすと、プレイヤーからの攻撃で傷ついた甲冑の隙間めがけて折れた剣を叩きこんだ。
「うおおおおおおおおっ!!」
『オオオオォォオオォォッ!!』
――ザシュッ!
竜胆の剣と甲冑モンスターの剣、先に振り抜くことができたのは――竜胆だった。
本来、現代兵器ですら傷をつけることができなかったモンスターだが、今となってはスキルを駆使して作られた武具が出回り、プレイヤーの装備も向上している。それも、一般人でも様々な奇跡が重なればモンスターの一匹なら倒せるほどにだ。
ボロボロになっていた甲冑モンスター、その傷めがけて振り抜かれたのがスキルで作られたモンスターをも倒すことができる剣だったからこそ、竜胆でも倒すことができた。
……いや、それだけではないだろう。竜胆自身がプレイヤーになることを諦めず、努力を欠かさなかったことが一番の要因と言えるかもしれない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……た、倒せた、のか? 一般人の、俺が?」
死ぬつもりはなかった。だが、一般人である自分がモンスターを倒せるとも思っていなかった。
何が起きたのかすぐには理解できず、竜胆はその場に立ち尽くし、ゆっくりと振り返ると地面に転がったまま動かない甲冑モンスターに視線を向ける。
「……本当に、倒したんだな」
自分がモンスターを倒したとようやく実感できた――その時だった。
【スキル【ガチャ】が発動します】
「……えっ?」
プレイヤーにしか見ることができないと言われているウインドウが、突如として竜胆の目の前に現れた。
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