第三話 生き人形と母親

「はぁあああ…なんで俺まで駆り出されるんだ?」


そこには赤い毛並みの狼の青年が

白い狼の女性と草むしりをしていた


「あぁ?テメェがハズレくじ引いたからだろ?」


機嫌悪そうに白狼の女性が答えた

彼女の名前は違部星 切魔(イブセイ セツマ)

腕の無い白狼だ


性格は品性下劣

とても女性とは呼べないが

どこかカリスマ性のあるヒトだ


腕が無い代わりに

周りに浮遊する4つの手を

使っているらしい


紹介が遅れたな

俺の名前はべイクス

べイクス・フィンフォード

フリーのプログラマーだ


何故俺がこんな事をやってるかというと

それは2時間前に遡る…



2時間前…


俺は人形の事を聞きにフィギュアの所へ

行っていたんだ


「おーい、フィギュア!いるか〜!」


俺がドアを開けた時

フィギュア達はいかにも農家みたいな姿で

俺を見ていた


「お、べイクスじゃん!どうしたんだ?」


「あー…人形の事聞きに来たんだが、お前こそ何しに行くんだ?そんなカッコして…」


フィギュアは後頭部を掻きながら言った


「あぁこれ?これから草むしりの依頼しに行くんだよ」


「へぇ…一人で行くのか?」


「いや、あと二人いるな」


そういうと直ぐに奥のトビラが開いた

そこには腕の無い白狼の女性と

小さな子供の人形が準備万端と

ばかりに出てきた


「あらぁ?べイクス様ではないです事?」

「あぁ、赤狼か…」


前に数回会った事がある

お嬢様みたいな話し方の小さな猫の子が

確か「ヴォミット」世にも珍しい

呪物人形なんだとか


もう一人は違部星 切魔

何でも研究で自身の腕を切り落として

魔術で新しく手を増やしたんだとか


「あっ、どうも。ご無沙汰してます。」


「久しぶりでございまし〜べイクス様〜!」

「久しぶりだな、赤狼」


ヴォミットが足に抱きつき

切魔の手が軽く肩を叩く


「おう、テメェも行くよな?草刈り?」

「えっ?なんです?」

「行くよなァ…草刈り…?」


始まった…どうやら俺は

この人に振り回される運命らしく

彼女と合う度なにかかしら頼まれる


そんな俺を横目にヴォミットは目を光らせ

フィギュアはまたかと

言いそうな顔をしている


「行きますよ、今日は仕事も無いですしね…」


切魔の押しというよりもはや脅迫だが

それ以前に俺は頼み事は

断れないタイプだった


そして今に至る


あらかた草むしりも終わりが近づいていた

しかしそこにとある珍客が現れた

その客がこれから起こる災いの引き金に

なるとも知らずに…


「やー!どうもどうも!我々ネメシスTVの取材班でございます〜!」


「は、はぁ…どうも…」


「取材班だぁ?テメェら頭が高ェな?何様のつもりだ?」

「まぁまぁ切魔、俺が話付けるから…で、俺らに何の用です?」


切魔を宥めながらフィギュアが

彼らに尋ねる


「いやー実はですね!ここに世にも珍しい呪物人形がいるとの事で…それでぜひともTV出演してもらいたいと思いまして!」


「ほう…ヴォミットをか…」

「ママー!呼んだでございましか〜!」


ヴォミットが切魔に駆け寄ると

取材班の目の色が変わった


「おぉ〜!この子が呪物人形!可愛らしいですね!見た目はぬいぐるみですがしっかり動いてる!中の骨格は無いようだ。うむ、少々臭うがデオドラントを使えば訳無い」


ヴォミットをぐりぐりと

おもちゃを扱うが如く身体中を動かす


「うわわわわ…ま、ママー!」


「止めろ!嫌がってるだろ!」


フィギュアがすかさず止めに入る

しかし親であろう切魔は止めず

不気味な笑みを浮かべていた


「お、おい、いくら取材班とはいえ今のは酷すぎるだろ!」


俺は思わず声を上げた

許せなかったいくら呪物人形と

言われてもちゃんと彼女には

意思もあるし感覚もある


れっきとした人形だ


それをあんなモノ扱いするなんて…


「あっ、いやーすみません!つい興奮してしまいまして!以後気をつけます…」


まるで反省していない様だった

それを裏付ける様に後ろの

カメラマンらしき人の股間が

大きく膨らんでいたのが見えた

息も少し荒くなっている


「では今日の特番の『心霊現象100連発!世界の呪物集めてみました!』に生出演という事で!報酬は100万GDで!」


「幾らなんでもお前らに預ける訳には」

「いいぞ」


「なッ?!」


俺は驚いた。切魔が二つ返事で

了承を得たのだ


「但し、全ての責任は貴様が取れよ?」


切魔が今までに聞いた事の無い気色の悪い声

そして顔で言った


「ハイもちろん!丁重にお預かり致します。」


ニンマリと取材班は答えた


「あい分かった…ヴォミット、一人で行けるか?」


「ママ…でも…」


ヴォミットが言葉を詰まらせた時だった

切魔が彼女に耳打ちをすると


「分かりましたわぁ…楽しみでございます…」


突如彼女は妖しげな笑みを浮かべて

一人で行くと言い始めたのだ


俺たちは彼女の意志を尊重するしか無かった



こうしてヴォミットは取材班に連れられ

俺らはフィギュアの事務所へ

戻るしかなかった


その夜……


「そろそろ9時か…」

「だな、おっ始まった…」

「何も無いといーんだけどね〜」

「…………」


家に戻ると用事を済ませたドールと

グリムと四人で見ることになった


「さーあ始まりました!『心霊現象100連発!世界の呪物集めてみました』が始まりました!」


不気味な音楽と裏腹に陽気な

司会者が話し出す


「さぁ今日は極上の心霊写真、ビデオ、そして呪物を集めてみました!」


「そして今夜…貴方は恐怖を体験する!」


「こちらァ!」


司会者の後ろが明るくなる

その後ろには大量の呪物が積まれていた


「なッ…?!殆ど壊れてるじゃない!!」


ドールが声を荒らげる


「壊れてる?どれも普通だそ…」

「!…そうか!俺らヒトには見えない損傷か!」

フィギュアが勘づいた様に話す


「…ひっどい…見る気無くすわー」


グリムが乱暴にソファーに座ると

再び口をあける


「確かヴォミット居るんでしょ?どこにいんのさ?」


「そうだヴォミット!アイツは?!」


彼女は一番上で静かに座っていた…

よく見ると口の周りが液体で汚れている


それを見たドールは血の気が引く様に

青ざめていた


「…いけない…フィギュア!!切魔は?!」


普段の彼女では絶対に聞かない声で叫んだ


「えっ?!アイツならヴォミットを迎えに行くって……」


「いい!この部屋から出たらいけないわ!」


「えっ…いやでも俺そろそろ戻ろうと」


俺がドアのノブに手をかけた時だった


「出るなあぁぁぁぁッ!!」


ドールのココロの叫びに俺は止まった


いや、叫ぶ寸前


外でなにかドス黒いものか俺のココロに


殺すと囁いた


それにビビったのだ


(なっ、何だ今の?!外に何が居ると言うんだ…)


「さぁ今回は、数多くの霊媒師に集まって頂きました!皆さんこれらの呪物を見てみていかがですか?!」


「ふむ、見る限りこれらの殆どは偽物ですねぇ。どれも霊力が弱過ぎる」


「しかしなぜあの人形は一番上なのですか?あれには霊力が感じられない」


「いえ、あれは棺桶ですね。あの人形はおよそ400年前に作られた人形型の棺桶です。そして霊が見える方なら分かりますが…」


次のこの霊媒師の言葉が俺たちを凍らせた





この棺桶の中の霊










全員怒ってますよ









しかも百人千人じゃない










言うなれば一つの国のヒト達









およそ一千万人が全員








「は、はは…ご冗談を…そ、それではスペシャルゲスト!世界一の霊媒師!フリューゲル!」


入口の幕が開く

そこにいたフリューゲルは

ひたすらぶつぶつと唱えていた


「ふ、フリューゲルさん…?」


「き、貴様ら…貴様らなんてものを持ち出したのじゃ!!」


「えっ…」


司会者の額から大量の冷や汗が流れる


フリューゲルが静かに話し始める


「あの人形は元々400年前に戦争で落とした国の国民を弔う為に、怨念を封じる為に作られた人形…しかも、使い回されておる。本来一国につき一体の人形の筈が…どうして…」



次の瞬間フリューゲルは叫んだ


「トーチャー!貴様!何が目的じゃ!殺戮か?!それとも…」


次の言葉を紡ぐ前に

ヴォミットの声がかき消した


「生け贄ですわぁ〜」


「今まで乱雑に、ボロ雑巾の様に扱った恨み…」





「晴らさせて貰います♡」



次の瞬間だった


ドールがチャンネルを

変えようとしたが

変わらず


テレビからは叫び声が聴こえたと思うと

画面には鮮血が飛び散り


ヒトだったものが横たわり


うるさかったテレビから次第に

音が消えていった…


最後に見えたものは


ママと泣き叫ぶヴォミットを


血溜まりから拾いあげる


切魔の姿があった


その姿は


あまりにも


あまりにも


無垢で


哀しく


美しかった



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