第一話 パートナーの選び方

「さーて…そろそろ来るはずなんだがな…」


ぎしりと錆びれたイスが鳴る


「まぁ…来なかったらそれまでって事ね、この何でも屋は」


ドールが酒を煽りながら適当に言う


「おいおい待てよ、ここの評判知ってるだろ?それなりにここは良いんだぜ?評判…」


だらだらと本を読みながら

たわいのない会話をしていると

入口からノック音が聞こえてくる


「おっ!来た!グリムはコーヒー入れて、ドールはそこどけ!」


やれやれといった表情でドールが

イスから立ち上がると

グリムがコーヒーを入れ始める


するとカチャリとドアが開く


「す、すみません…依頼をお願いした者ですが…」


そこには冴えない気弱な男性が立っていた


「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。こちらへどうぞ!」


おどおどしながらも男性は

さっきまでドールが寝転がっていた

イスに座る


「で…早速本題ですが、依頼というのは?」


「ハイ、実は…人形が欲しくて…ですがまるで知識が無いもので、どう選んだら良いのか…」


少し頭を抱えながらぽつりぽつりと話す


「お待たせーコーヒーです。どうぞ〜」


「あっ、どうも…」


二人にコーヒーが渡され

男性は静かに飲み始める


「ふむ、人形が欲しい理由とかってありますか?」


「あ、あぁ…自分独り身ですので、やっぱり寂しいんです。それに家事をしてくれるパートナーがいると何かと便利ですし…」


話すのに慣れてないのか

少し動揺した様に話す


「なるほど、ちなみにご予算は…」


「あぁ…ここに電子マネーで100万GD(ゴーストドル)あります。これで足りますか?」


「えぇ、勿論!それじゃあ早速行きましょうか」


おもむろにフィギュアが立ち上がる

すると男性がきょとんとした顔で言う


「え、行くってどこへ…?」


「決まってるでしょ?人形が売ってる場所ですよ!ドール、グリム!一緒に行くぞ」


嫌々ドールが立ち上がるのに対して

グリムは壁にかけてあるサイドバックを

ウキウキしながら付けている


準備が終わり一行が外に出ると

外は賑わいを見せていた

露店が立ち並び

ヒトが大きな声で呼び込みをしている


「ここら辺は賑やかですね…」

「ここらは魔術市場が盛んなんですよ、向こうは機械市場で、電子機器がほとんどです」


露店の狭い道を進んで行く

しばらく進むと古い倉の様な建物が見える


「あっ、アレですよ。アレが人形が売ってる店ですよ」


近くに来ると【稲荷人形工房】という

看板が立っていた


「早速入ってみましょう!」

「は、はい…」


店に入るないなやわらわらと

和風のメイド服を着た狐の

女の子が取り囲む


「いらっしゃいませ〜」

「新規のお客さんだ〜」

「わ〜!カフェのお客さんですか?」

「な、何か飲みますか…?」


「悪い…今回は人形を買いに来たんだ…また今度お話しような〜とりあえず責任者を頼むよ」


取り囲んでいる狐の子達の頭を撫でながら

奥へと進んでいく


「ちなみにさっきの子達は…」

「あぁ、全員人形だよ。ちゃんと働く為のライセンスも持ってる」


「は、はぁ…」


奥へ進むと銀色の毛並みの狐の女性が

番台で佇んでいた


「おや、フィギュアじゃないか…いらっしゃい、今日は買いに来たのかい?」


「いや、オレじゃあない。買うのはコイツだ」


後ろにいる男性を指差す


「ど、どうも…」


「ふむ…少々待っていろ…」


番台から立ち上がると人形達のもとへ向かう


「何をしてるんです?」

「ここでは番台の彼女がその人に合った人形を選ぶんだ。」


「へぇ…あれ?あの子は…」


ふと男性の視線を追うとそこには

隅に黒髪の白い猫の女の子がいた


男性は近づいて話しかける


「君は…こっちに来ないのかい?」

「?!…あ、アタシは…別に…こっち来ないで!」

「あ…あぁ、ごめんね…」


「すまない、遅れてしまった。連れてきたよ」


後ろに二人の狐の人形を連れてきた


「右の子は小南(コナン)、左の子は小波(サザノハ)だ。二人とも挨拶を」


「こんにちは、小南と言います。よろしくお願いいたします!」


彼女は元気良く挨拶した


「小波と申します。どうぞよろしゅうお願い致しやす。」


小南とは対照的に丁寧な口調で挨拶する


「小南はこの子達の中でも元気が良くて明るい性格だ。お前さんをグイグイ引っ張ってくれるだろう。小波は物静かで寄り添う性格、他人を支える強いココロの持ち主だ。」


男性は暫く二人を見た。そして

静かに口を開いた


「あの…そこの隅にいる猫の子は…」


「あぁ…その子か、少々問題がある子でね…」


番台の女性が重い口を開く


「彼女は少々人付き合いが苦手な子でね…名前を猫子(ニャコ)と言う。彼女は分かりやすく言うとツンデレという奴で、少々言動に問題があるんだ…しかも1年前からここに居るからそのせいで売れ残っている事にコンプレックスを持っている。彼女はキミには少々…」


「私…彼女が、猫子がいいです!」


この話が聴こえたのか

猫子が驚いた表情でこちらを見ていた


「だ、だっ、誰がアンタみたいなナヨナヨした男の下で一緒に暮らすのよ!!それに…それにアタシなんか…」


猫子の目からは涙で溢れていた


「わ、私は…こんな事言うのは可笑しいと思うけどキミに一目惚れした…将来的に、結婚も出来るならしたい…それでもダメかい?」


「アタシは…アタシは…う、うああああぁぁん!」


彼女の気持ちが溢れて大声で泣き出す

今までの想いが流れ出す


「私がキミを幸せにするからね…」


猫子を優しく抱きしめて囁く


「良かったな、猫子。もう書類はまとめてある。いつでも行っていいぞ…」


番台にも涙が流れていた


それから暫くして…


「今日はありがとうございます。」

「いいよ、今日は良いもん見せてもらったしな。幸せにしろよ!」


「もちろん幸せにしますよ。ね、猫子。」


「べ、別にまだ認めた訳じゃないし…」


口をどもらせながら恥ずかしそうに話す


「それじゃあ、私達はこれで…」


彼が振り向いたその時


不意に猫子が彼の頬にキスをする


「……ッ?!」


「ばーか!早く帰ってご飯にしましょ!今日はアタシが腕によりをかけるんだから!」


彼女は満面の笑みでニシシと笑った


男性はフィギュアに軽く会釈すると

猫子に駆け寄り手を繋いで帰っていった…


「ふぅ…良い仕事したな…」


すると店の入口からドールとグリムが

アイス片手に出てくる


「お!仕事終わった〜?」


グリムが嬉しそうにフィギュアに

話しかける


「お前らなぁ…どこに居たんだよ?」


「隣のおきつねカフェでくつろいでたわ」

「コノヤロウ俺が仕事してる間に…!」


「別にいいでしょう?貴方も見てただけなんだから」


「そこは依頼者に決めさせないと意味が無いだろ?あともう一度行くぞおきつねカフェ!」


「え〜また行くの?!もう夕方だよ?」

「良いんだよ!夜になれば水タバコだって吸えるんだしよ!」


「仕方ないわね…水タバコ奢ってくれるなら付き合うわ」


「マジか……しゃーない!奢ってやるよ…」


自身のサイフの中身を心配しながらも

再び店内へと入って行くのだった…

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