第50話 開戦!【アンノウン・フラッグ】!!
聖良の指摘を、シャルルは気にしていた……。
大勢の中では、まだ誤魔化しが利いていたけど……少数となれば嫌でも目につく。
空木シャルルは無能以上に、人の手を埋めてしまう、お荷物だと――。
「やっぱり、いいよ……たいしょー、あたしも、一人でなんとか、」
「俺がいるんだから頼ればいいだろ……。俺がいなくなってから一人で立ち上がろうとするのはいいけどさ……、今、なんのために俺がいると思ってんだ」
「…………あたしを守るためじゃないよ」
「シャルルを守るために、俺は、」
「違うでしょ?」
「…………なにを」
「たいしょーは本来なら、人の輪の中に入れたんだよ……。だって、昔はみんなの前に立って、みんなを引っ張っていってた……だけどあたしがきてから、たいしょーはあたしを優先して、あたしの傍にいることで人の輪から出てしまった……。
それは、あたしのためだって分かって嬉しかったけど、でも……望んでいたわけじゃない。みんなを引っ張るたいしょーのことだって、好きだったんだから……っ」
シャルルが出会った頃の浦川は、『リーダー』だった。
今のように、輪から外れて一人でいることの方が多い男の子、では、なかったのだ。
「あたしのために、たいしょーの可能性を潰したくなんかない……っ」
「そんなこと……」
「もう頼らないって、言ってるわけじゃないよ? たいしょーが死んじゃったって思い込んで、一度は『ちゃんとしなくちゃっ』って思ったんだから……実際、たいしょーがいなくても、これまでやってこれたんだから」
本人は。
そう思っているらしいけど……。
「(いや、危ない場面がいくつかあっただろ……)」
木野に襲われていた、あの時。
キリンと入れ替わっていた浦川がいなければ、今頃は――。
「ん? たいしょー……?」
「なんでもないよ」
「頼る時がくれば頼る……でも、一人で立つことも覚えないと」
今になって、一人ではなにもできないってことが、恥ずかしいことだと知った。
「決別じゃなくて。これは……ちょっとした、兄離れなんだよ」
「…………」
「それとも、たいしょーの方が……妹離れできてない?」
シャルルから向けられた、挑発的な瞳――。
「……心配だよ」
「そんなに、あたしは頼りないかな?」
「だってさ……俺の中では……、初めて会った時のイメージのままだからさ……。放っておけない」
両親を失い、親族も不明――天涯孤独の女の子。
自分を犠牲にして傷つけてしまった浦川が言えることではないけれど、もうあんな悲しい顔は、今度こそ――二度とさせてはいけないのだ。
「傷ついてほしくない。どんなに小さなつまづきでも」
「…………、かほごー」
「なんとでも言えばいい」
「うん……ありがとね」
「……え」
「気持ちは嬉しいよ……けど、たいしょーが離れないなら、あたしが離れるだけだよ」
震える手は、まだ収まっていなかった。
シャルルだって、不安でいっぱいいっぱいだ。
井の中の蛙、ではないけれど、大海をこれから知るのだから。
「できるところまでは……一人でがんばってみる」
「待っ、シャルル!!」
離れていく妹の小さな背中を追いかける浦川の耳に届いたのは、最終ゲームの、開始アナウンス――。
「各メンバーの転移位置はランダムとなります……分散することになりますので、合流場所は決めておいた方がいいかと思います」
キリンの説明など、浦川に届いてはいても、内容は入ってきていない――今はそんなことよりも、ここで手離せば二度と取り戻せない焦燥感に駆られ、浦川が手を伸ばす。
……けれど。
数歩、距離を取っただけのシャルルが、遠くへいったように感じてしまう――。
手が、届かなかった。
「シャルル!!」
「見つけてね?」
そして――、最終ゲームが、始まった。
〇
これまで通りの、教室の扉を開ければ別の場所……ではなく、強制的に移動させられた。
まばたきをしているその一瞬に、景色が変わっている――瞬間移動か。
もう、驚くこともない。
五人それぞれが、別の場所へ移された。
まずは自分が校舎のどこにいるのかを把握するところから始まる――。
浦川は職員室に転移したようだ。敵を発見するよりも先に、近くのデスクの陰に隠れる。
「(敵がいてもいなくても、無防備な状態は危険だな……、シャルルは……そういうことをちゃんとやっていればいいけど……)」
ゲームマスターとして安全地帯 (でもないが)で見ていた浦川にとっては、初めての戦いである……しかし、知識はあっても、やはり不利だろう。
「(異能がない……から、どうしたって不利なんだけどな……まあなんとかなるか……?)」
不利だから、と文句を言ってもフォローがあるわけではない。
現状を理解し、今ある手札でどうにか危機を脱出するしかないのだ……。
ゲームマスターとしての経験も、役に立つかもしれないし。
這って移動し、扉を開けて廊下を覗く……すると、いた。
天死レオン『チーム』の一人、だ。
同年代だ。知らない顔なので、別の学校の生徒……だとしても、隣の地区でもなさそうだ。見たことがない制服なので、他県なのかもしれない。
そんな彼女は迷いがない足取りだった。真っ直ぐに――浦川の元へ向かっている。
(狙いは俺……、ってわけでもないか。職員室に用がある?)
顔を引っ込め、デスクの陰へ戻る。
扉が、がらら、と開き、彼女が職員室へ入ってきた。手間がかかっていそうな編み込んだ髪である。デスゲーム中にそんな余裕が? と思ったが、毎日のルーティンを続けることでこんな状況でもまともでいられる、という儀式なのかもしれない。
浦川は息を潜め、彼女をやり過ごすことも考えたが……、
(……隙だらけか? ……いや、でもおかしいだろ。思えば最初から変だった……、デスゲームに巻き込まれたなら心が壊れてもおかしくはないけど……でも。友達が死んで、閉鎖空間に閉じ込められて、だからと言ってここまで無気力になるか……?)
まるで魂が抜けたみたいに。
そこにいるのは、抜け殻だけに見える……。
それでも、戦う意志だけはあるのだからおかしな話だ。
――少し、顔を出し過ぎたかもしれない。興味を優先し過ぎて他が疎かになっていた……浦川の肘が、デスクに当たる……――がたっ! という音が響いた。
「(やべっ)」
ぐりん、と彼女の首が回った。
音に敏感だ。その反応と、動きはまるで――
(機械みてえな奴だな……っっ!)
恐る恐る、という様子はない。
音が出た場所へ、真っ直ぐに向かってくる。
浦川の元へ近づいてくる。そこで、試しに、落ちていたペンを別の方向へ投げてみると――別の場所で新しい音が響いた。
彼女の首が音の方へ回った。そして……、足音が遠ざかる。
「(……もしかして)」
自動操縦のロボットのような挙動である。
無気力なのも、だったら納得だ……。彼女は、心を殺され、別の誰かに洗脳されている……? リアルタイムで操縦こそされていないが、条件に当てはめれば自動的に行動する今の状態は、操縦されているのとなにが違う?
既に、彼女は他者によって支配されている……、誰、に……?
たとえば。
――天死……レオン?
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