最終章

第47話 不意打ちの再会


「たい、しょー…………?」


「…………」


 突然の再会だった。

 もう二度と、会えないと思っていた……、それは浦川が死んだと思い込んでいたシャルルだけでなく、浦川大将も……。

 シャルルを救い出した後に、自分は殺されるものだと思っていたのだ。なんにせよ、二度と、こうして対面することはないと覚悟を決めていただけに、いざ実際に再会してみると、言葉が出ない……。感動して抱きしめることも――シャルルは「どうして今まで姿を見せなかったのっ」と怒ることもなく……長く感じる一瞬が過ぎ、


「……(さっ)」

「あっ! なんで目ぇ逸らすのぉ!?!?」


「いや……、その……」

「こうして再会できたのにっ、なんでそんなにも冷たいんだよぉ!!」


 これが浦川大将である、と分かっているのは他ならぬシャルルのはずだが、さすがに彼女でも、今の反応にはショックを受けたらしい。


「だってそりゃお前……、負い目があるからだよ……」


 シャルルを助けるためとは言え、満場一致の犠牲者に志願したこと……。デスゲームの裏で、デスゲームマスターとして支配していたこと――浦川も監視されている身だったので、好き勝手にできたわけではないが、彼の一手で死んだ生徒がいるのだ……、負い目は消えない。


「勝手に死んだことを気にしてるの?

 でも……、たいしょーはこうして生きてるもんっ! もう気にしてないから……」


 歩み寄ろうとしたシャルルを止めたのは、浦川の「待て」の手だ。


「……それもある、けど……そうじゃなくて。

 俺がこうして生きているのは、どうしてだと思う……? まさか死んだフリをしたまま、大事に棺桶の中に入って保管されていたわけじゃないんだ……、聖良を見てみろよ、俺を睨んで、今にも殴りかかってきそうじゃねえか。あいつは、気づいていたんだよ――」


「気づいて、た……? 生きていることを……?」


 浦川がゆっくりと、首を左右に振る。


「俺が、【ゲームマスター】だったことに」


「てめェ、浦川――やっぱお前が、裏で全部を操っていやがったのかッ!」


 殴りかかりはしなかったが、聖良の手が、浦川の胸倉を掴んだ。


 すぐさま止めに入ろうとしたシャルルを、浦川が視線で止める――いらない、と。


「全部じゃない、けど……まあ、影響は与えているな……。少なくとも、異能と対戦カードを決めたのは俺だ。だから――、矢藤と、野上……木野が死んだのは俺のせいだ」


 既に木野は死亡している……、ついさっきまでゲームマスターだった浦川は先に知っていたのだ……。天死レオンの鎌ではなく、久里浜との試合で既に死亡していた……。


 きっかけを作ったのは、対戦カードを決めた浦川大将のせいである。


「……言い訳をしねえんだな」


「したところで意味ないだろ。どうせお前は俺を殴る……、それでいいと思ってる。そうじゃないと、死んだ奴らが浮かばれない。このデスゲームが終わっても、死んでしまった奴は生き返らないんだ……それだけは、どうしたって変えられないんだから――」


「覚悟があるなら結構なことだ……、矢藤を殺したオレも同罪だが……けどよ、天死の口車に乗ったのか、条件を出されたのかは知らねえが、デスゲームを主導し、オレらを殺し合いの渦中に引きずり込んだのはいただけねえな……。仕方のない理由があったとしても」


「…………」


「空木が贔屓されているように感じたのは、お前が裏にいたから、なら――納得だな。分かりやすい贔屓がなくとも……だが、空木が生き残れるような展開だった。

 ……踏み台にしたんだろ……いや、その前か。オレたちを踏み台にできるように、空木を含め、デスゲームの渦中で鍛えていた……違うかよ?」


「意図は、そうだな……まあ、上手くいってはいないけどな。こうしてクラスメイトは、ほとんど殺された……、デスゲームを全員で生きて脱出できるとは思っちゃいなかったけど、こうも大幅に減るとは、想定外だった……。俺だって知らなかったよ。まさかもう一人、天死がいて、しかも別のところでもデスゲームがおこなわれて、こうして合流する予定だったなんて――」


「いや、そんな予定はないんですけどね……」


「あたしの思いつきだよ……文句あんのか?」


 前と後ろ。二人の――対局に位置する天死に挟まれる。


 合流する予定ではなかった? ……なら。


 レオン側で、なにか問題でも発生したのだろうか?


「……人数を一気に減らし過ぎて、展開の天井を見たのか……?」


 あり得る。レオンという天死は、後先考えずに思いつきで行動するから……、酷い有様になって困っている顔がすぐに思い浮かぶ。実際、今だってそうだろう……。


 他人のチャンネルに介入するのは、当然、推奨されてはいないことだろうと分かる。

 邪魔をした、という批判を受けるのはレオンの方だ。


「おい、こっちの事情なんか知らなくていいだろーが……やるぞ。こっちは選りすぐりのメンバーを連れてきたんだ、負けるつもりは毛頭ねえよ。キリンが育成したガキ共と、あたしが育成したガキ共……さて、強いのはどっちだろうなぁ?」


 乗り込んでくるくらいだ、相当の自信があるのだろうと分かる……。


「……視聴者は、ずっと俺たちを見ていたわけじゃないのか……」


 別のデスゲームが開催されていたとなれば、目移りするだろう……、テレビ番組と同じで、神々もザッピングして、面白いチャンネルを視聴するのだ。


「マスターの行動を常に見続けていた神もいるでしょうけど……でも、退屈だったかもしれませんね……」


「退屈だったのか?」


「一日一人の脱落者は、順調ですけど、面白さで言えば低い方です。スローペースであったことは否めませんね……だからと言ってレオンの速度は早過ぎますけど」


 塩梅が難しい。

 一日に二人か三人くらいが、ちょうどいいのかもしれなかった。


「人間と神の価値観は違います。見たいのは裏切りや暗躍です……、つまり試合以外での殺し合いを目的に見ている神が多いということですね……、だけどこのチャンネルではそれがなかった――神は退屈するでしょうね」


 けれど、それが良さである、とも言えた。


「……試合以外での殺しは、推奨していなかったんじゃないのか?」


 ふと、疑問に思った聖良が質問した。


「推奨はしていませんよ? 禁止とも言っていないはずです――」


「え、でも天死ちゃん――」


 と、シャルルが思い出したのは、木野に殺されかけた時、天死に助けられた一件だ。


 あのまま放っておけば、面白い展開になったのではないか……?


「……こっちの判断ですよ」

「そうなんだ……」


 事情があった、ということを察してくれたシャルルは、それ以上は詮索しなかった。


 あの時、天死の中にいた魂は、浦川大将であることは想像もしていない。



「いい加減やろーぜ、キリン。神も待ちくたびれてるだろ……、他のチャンネルに移動される前に、あたしらが合体したチャンネルに視聴者を集めるんだよ。

 八百万の神がどれだけ評価してくれるか分からねえけど、評価の数であたしらの成績が上がるんだ――ひひひっ、早く【極楽浄土】へ入れるようになりてーなー」


「遊んで暮らしたいだけでしょ。……煩悩の塊よね……、それが天死の生き方なの?」


「神に従属して使い回されるだけの存在はごめんだね。

 あんたはそれが性に合っているみたいだけど、あたしは無理だな……、だからさっさと高い評価を受けて上へいく。あんたを見下ろす雲の上へ、だ」


 評価に固執しているのは、天死の世界では、それが重要視されるからだろう。


「……よく分からないけど、天死……――」


 そう言えば、天死はこの場に二人いる。

 キリン、と呼び直すべきか悩んでいる内に、彼女が振り向いた。


「付き合わせてしまってすみません、マスター……どうしました?」


「……お前は味方、なんだよな……?」


 その認識に、引っ掛かったのは聖良だったが、口を挟むことはなかった。


「……デスゲームに巻き込んだのは私です……当然、敵のはずですけど……」


「でも今は、お前の敵がいる……、敵、だよな? 知り合いっぽいけど、対立構造を取っている以上は、敵として認識していいのか?」


「まあ……はい。一応、形式的には私――キリンとレオンが、互いに持つ駒を戦わせる試合になりますからね……」


「堂々と駒って言うんだな……いいけどさ」


 天死の認識をあらためる意味でも、駒扱いしてくれる方が浦川たちもやりやすい。

 中途半端に人間味があるキリンには、油断すると感情移入してしまいそうになる。


「とにかく、敵の敵だ……なら、目の前の敵をどうにかするために、俺たちは手を組む……今だけは、キリン――お前を味方と考えるぞ?」


「……マスターのお好きなように」


「もうマスターじゃないんだろ? ……なら、キリン。残った俺たち五人は、どうすれば揃って、生きて脱出できるんだ?」

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