第34話 プール探索【前編】
「空木、俺も手伝うよ」
「え、あ、うん。木野くん、ありがとう。最近はよく一緒にいてくれるけど、いいの? 聖良くんとか他の人といつも一緒なのに。最近はあたしのことを気にしてくれてるよね。たいしょーがいなくなったからって、気を遣う必要はないんだよ?」
「空木だって友達だろ? 助けるのは当たり前だ。
気を遣ってるつもりはなかったんだけどな……邪魔になってたか?」
「ううん、そんなことない……じゃあ、手伝ってくれる?
天死ちゃんが隠した食糧を探そうと思うんだけど、どこに隠してそうかな……」
教室へ戻り、他のみんなと役割分担をして――探索に出ることになったシャルル。
手伝ってくれるらしい木野を連れ、教室の前の廊下で悩んでいると、別の声がかかった。
「それ、わたしも手伝うよ、シャルルちゃん」
「あ、久里浜ちゃん――と、ちっちゃな矢藤くんも」
「……チッ」
久里浜が教室から顔を出した。
ちら、と、横にいる木野を見て、
「シャルルちゃんと木野を、二人きりにはさせたくないからね……」
「警戒してるね。男が女を助けようとすれば、全部が下心の上で、と誤解される……そんなことないのにさ。久里浜は考え過ぎさ。まあ、それが美点であるとも言えるけどね」
「……白々しい」
その意見を、木野はスルーした。
「久里浜も手伝ってくれるなら効率も良いだろう……三人で探索をしようか。いや、矢藤も入れたら四人か」
「……あなた、浦川くんの立ち位置に、上手く入り込もうとしてるんでしょ? 無理だと思うけど……、シャルルちゃんが、その枠にあなたを入れると思う? あなたでなくとも、その枠に別の誰かを入れたがるわけがないと思うけどね――」
「だろうね。空木にとって、浦川の存在はかなり大きいだろうから」
「それが分かっていながら、入り込もうとするの? 今しかチャンスがないとか思ってる?」
「そもそもの話だけど、俺は空木を狙っているわけじゃないが」
嘘だ、と言うでもなく、久里浜は一段飛ばして、木野に言った。
「無理だと思う」
「……言うじゃないか。そのつもりがなくても、そう言われたら手を出したくなるね……。というか久里浜、普段はおとなしいのに、こういう時は気が大きくなるんだな……これが素なの?」
確かに、普段はこんなにも喋る方ではない。盛り上がる輪に混ざるでもなく、一人で読書をしているタイプだ……、そういうタイプにしては、カチューシャで前髪を上げ、顔を出しているのは珍しいが、それは彼女の性格である。
暗い性格だから前髪で顔を隠すのは、ありきたりで面白くない――だ。
逆に目立つのでは? と思い、シャルルよりも顔を出しているが、それはそれで、その通りなのだが、目立ってしまっている――が、久里浜は気にしてなさそうだ。
輪に混ざらずに一人を貫いているのは、しっかりとした芯があるからか……。
だからこそ、浦川とも気が合ったのかもしれない……。
芯があるから。
「――強い異能を貰って、自分が強くなった、と錯覚でもしたのかな?」
「なくはないけど……、でもそれ以上に、親友との約束があるからね……」
「約束? 親友? ……君に親友がいたなんてね……そうは見えなかったけど」
「たぶん、向こうは親友だって思っていないと思うけど」
それだけで、木野は相手は誰なのか、特定したようだ。
「なるほど、浦川か。それなら納得だな。あいつが久里浜に特別な想いを向けているわけがない。恋愛感情は、あり得ない。友達だとは思っていても、ただの言葉でしかないだろうね……。
あいつが久里浜のことをどう思っているのか……、たとえば偶然、同じ環境にいて、後々、花が咲くかもしれないから種を撒いていただけ――とも言えるか。正解かな?」
「死んだ相手の考えなんて、分かるわけがないでしょ」
「生前の話をしているんだよ。浦川ならそう思っただろう、ってね。
正解は分からない。けど、その可能性は高い……だろう?」
「……浦川くんとの約束があるからじゃない。まあ、それもあるけど、シャルルちゃんだって友達だから……、悪い虫がくっついていたら叩き落とすのが友達の役目でしょ?」
「それは友達と言うよりボディガードだね。
君がそれを友達と呼ぶなら、好きにすればいいけどさ……」
「だから……、シャルルちゃんは渡さない。まあ、あなたが口説ける相手じゃないよ」
「…………」
「デスゲーム中を狙って、最大限の吊り橋効果を狙ってるのかもしれないけど……それどころじゃないって断られる可能性はもちろんある。
脱出を前提として距離を縮めるのはいいけど、途中で死んだら無駄で終わるよ……片手間でデスゲームに向き合っているあなたが生き残れるとは思えない――」
木野が視線を逸らした。
その先には、矢藤とじゃれているシャルルの姿がある。
今の矢藤を犬かなにかだと思っているのだろうか……、小難しい(ように聞こえた?)木野と久里浜の会話は途中で聞くことを辞めたようだ。
それとも自分のことだと察して、避けたのかもしれない……、そういうところもまた、「魅力的」だと木野は言うのだ。
「いつどこで、誰が死ぬのか分からないのよ?
……こんな状況で異性を意識しているあなたなんか、輪の中にいても乱すだけよ」
「……いい加減にしろよ……なんでそこまで言われなくちゃならない。俺はただ、友達を助けたかっただけなのに」
「え!? ちょっと二人とも!?
こそこそ話していると思えば、喧嘩!? 喧嘩なら止めるからね!?」
シャルルは矢藤をぎゅっと握り締めており、フェルトの人形が、ぐしゃあ、と形を歪めている……、握られている矢藤に痛みがないのが幸いだった。
慌てて二人の中に割って入ったが、シャルルが心配するようなことはない――今は、まだ。
「違うよ、シャルルちゃん。これは注意なの。デスゲームを甘く見ているようだから、意識改革をしていただけで……気にしないで」
「気にしないでいいよ、空木。言いがかりだが、久里浜の意見は正論でもある」
喧嘩をしているにしては、熱量は二人とも低い……まあ、静かでも喧嘩は起きるので、鵜呑みにしていいわけでもないが……、シャルルはほっとしたようだ。
「そ、そう? 喧嘩してるわけじゃないならいいけど……。注意もいいけど、早く食糧を探しにいこうよ。見つけないと、今日の夕飯から出される料理が貧相になっちゃうんだし! 二人とも、美味しくてたくさんある料理を食べたいでしょ!?」
『小食だから、少なくてもいいけど』
「あたしが大食いみたいに言うのやめてよぉっ!!」
〇
「見つからなかったね……」
「そう簡単に見つかる場所に隠す天死じゃない、ってことだろうね」
「……他の班は見つけたのかな……」
「騒いでる様子もないし、まだだろうね。隠されているかどうかも怪しいんだけど……」
「え、じゃあもう処分されちゃった、とか?」
「天死は、姿を消すことが多いから、たぶん別室にいるんだと思うよ……。わたしたちが入れない場所に持っていかれたら、それって処分されているのと同じでしょ? だから、こうして探していても意味なんかないんじゃないかって思って――」
「二人とも」
離れた場所を探索していた木野が戻ってきた。
慌てた様子もないので、食糧を見つけたというわけでもないようだ。
「木野くん? どうしたの?」
「まだ探していないところがあるけど……いってみる?」
木野が提案したのは……プールだった。
「プール……」
嫌悪感を滲ませた久里浜の言いたいことは分かったが、もちろん、食糧が隠されているのではないか、というのが最優先だ。
「まだ誰も探索していないらしいんだ……、単純に後回しにされているだけだと思うんだけどね。食糧の保存なら冷蔵庫だけど、そこになければ水の中、ってことも考えられると思うんだ……、袋に密閉して沈めれば、常温以上には冷えるだろう? 冷凍ものはさすがにダメになるだろうけど、食材は保存できるはず……」
木野の発案だから、という理由で外すわけにはいかない場所だ。
「他にあてがなければいってもいいんじゃないかと思うんだけど……どうかな?」
いいよ、とシャルルが答えるよりも先に。
「……とかなんとか言って、プールで脱ぐシャルルを見たいだけなんじゃないの? ……この変態がッ!!」
「いや、水着になるわけじゃないだろう……? でもまあ、男なら憧れるシチュエーションではあるよな……。水に軽く足をつけるだけでも、肌色が見えれば目の保養になるね――」
「うわ……」
嫌悪感、敵意を越えて……久里浜の目はドン引きだった。
キモチワルイ。
「引くなよ。男なんてこんなもんだぞ? 俺はまだマシな方だと思うけどな……これでも女受けは良いわけだしな……気を遣って喋ってる。
性癖だって抑えてるし……これで引くなら、モテない男共の会話なんて聞いたら、卒倒するんじゃないか?」
「聞きたくない……」
「こっちだって聞かせたくないよ」
耳を塞ごうとする久里浜の手を掴み、こそっと、シャルルが耳打ちした。
彼女の視線は一瞬、木野に向いたが……、意識している、というような視線ではない。
「え、なに。木野には聞かせたくない話なの?」
「……水着、あるかな……プール、ちょっとくらい入って――」
「やめておきなさい」
自然とお姉さん口調になってしまう。
……この子は危機管理能力がないのだろうか、と頭を抱える久里浜。
「えー」
「えー、じゃなくて。シャルル……警戒くらいしてくれる……!?」
「空木、水着だったら職員室にスペアがあるんじゃないか? 忘れた人用に、何着かは置いてあるだろうし……さすがにサイズは少ないだろうけどさ……」
「黙れ木野」
そして、木野の視線はシャルルの胸へ……、シャルルは気にしてなさそうだが、それが分かった久里浜は木野を睨みつけている。これに関しては木野も自覚があったようで、久里浜の視線に気づき、さっと逸らした……弁明はなかった。
謝罪もなかったけれど。
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