第33話 かすみとれん


 その後、今日の探索が開始された。


「果澄の……バカッ!!」

『ごめんね』


「アンタ一人が減ったところでそこまで差が出るわけないじゃない……ッ、アンタには、いてほしかった……。食糧よりもアンタがいてくれた方が、問題解決できたかもしれないのに……っ」


『言い出したら、きりがないよ』


「ええ、そうね……これは、このデスゲームから脱出できても、果澄は戻れないってことが分かって八つ当たりしてるだけだから……っ」


『    』


 野上が持つホワイトボードには、文字がなかった。

 かける言葉が、見つからない。


「一緒に、戻りたかった……帰りたかった。一緒に卒業旅行に、いきたかったのに……」


『ごめん、れん』


 すぐにペンが走る。


『でも、それをぼうにふってでも、れんを守りたかったの』


『いやなおもい、させてごめん。これはじこまんぞくだって、やっと気づいたよ。のこされたがわは、私よりもつらいんだって、れんのかおを見れば分かるから』


「遅いのよ、バカ……ッ」


 野上が思い出したのは、シャルルだった。

 彼女を含め、他の面々は探索にいってしまったので、この場には二人だけ――。


 ……気を遣ってくれたのかもしれない。

 給食室に残された野上と榎本は、とても恵まれているのだと再確認する。


『こうして、しんでから大切な人に会えたのは、めぐまれてるよ』


『だって、うらかわくんは、うつぎさんに会えないまま、いっちゃったから』


「……浦川か。聖良も果澄も、一目置いてるみたいだけど、アタシには分からないわ。空木の身内だから注目されているだけで、一人では目立たない方でしょう?

 ヲタクたちとは違う感じだけど……。昔は輪の中心に立っていた、なんて聞いたことがあるけど、アタシが見た限りだと、輪に混ざれない……陰キャって感じなのよね……」


『うつぎさんを守るため、なのかも』


「なにそれ。やっぱアイツ……過保護でしょ……」


『でも、おかげで私たちは三日目をむかえられた。

 うらかわくんがいなければ初日でぜんめつしていたかもしれない』


「それは、そうだけど……」


『初日でぜんめつをふせぐために、彼はぎせいになった。彼じしんがのぞんで、それがさいぜんのさくだってみぬいたから。そのかくごに、しょくはつされたところもあるんだよ。うらかわくんほど、私がしたことはさいぜんでもさいてきかいでもなかったけど』


「そんなことは……いや、そうね。正解ではないわ。

 果澄が生きていた方が、脱出成功率は上がったはずだから――」


『それはわからないけど』


「絶対に上がったのよ!!」


『そう?』


「…………許してないからね」


『    』


「許してほしければ、このデスゲーム中は一緒にいなさいよ……手伝って。みんなが助かる方法を、賢いアンタの頭で考えて――――いいわね?」


『まかせて。このしんだ「いのち」、れんのために使うから』



 白骨模型を持ち運ぶ際、重要になるのが、カゴである。

 体育祭で使われたカゴらしく、リュックのように背負うことができる。その中に、白骨模型の野上を入れて、背負った――……他の生徒に頼んでおいたが、まさかこれがくるとは思っていなかった榎本だ……彼女もさすがに驚いた。

 カゴでなく、普通のリュックを想定していたのだけど……等身大の白骨模型とは言え、折り畳めば入るだろうと思っていたのだ。


 入らないことを危惧したのか、結果、準備されたのがこれである……今度は余裕があり過ぎる。荒い運転だとカゴの中で野上が揺られてぐちゃぐちゃになっていそうだ。


『あんぜんうんてんね』


「分かってるわよ。……結構、カゴが大きいわね……玉入れのカゴだったんだっけ? 移動するカゴに玉を投げ入れる……、高さがない分、結構入ったりするのよね……。生徒による横移動が難関ポイントらしいけど、やってみれば簡単に入った記憶があるのよ……」


『れんがうまいだけじゃない?』

「果澄は苦手なの?」


『あんまり。クラスにこうけんできなかったよ』

「アンタがミスしても差なんてないでしょ」

『それはよろこんでいいの?』


 ご自由に、と答えた榎本の揺れで、カゴの中の野上がホワイトボードを落とした。


『    』

「言いたいことでもあるの? でも分からないから知ったことじゃないわ」


『は、はずかしいね、これ』

「読みづらい」


 榎本は相手にしなかった。


「分からないけど、がまんしなさいよ。それじゃあ、いきましょうか……探索へ。天死が食糧を隠しそうなところに、心当たりとかあったりする?」

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