第32話 食糧難…発覚!
野上果澄、死亡直後のことである――。
「説明しろ、榎本」
「……やられたのよ、天死に――」
給食室の冷蔵庫の中を見れば、節約すれば一週間はあっただろう食糧が、ごっそりとなくっており……、これでは節約しても二日分ほどしかない。
食糧不足は、すぐ目の前にまで迫っていた。
「ほんとだ、食糧が全然ないね……」
冷蔵庫に頭を突っ込むように確認するシャルルが、冷気で体を震わせていた。
「……メニュー次第で日数を伸ばすことはできないのか? ……いや、一番料理ができる榎本が無理だと判断したなら無理ってことか……」
「野上ちゃんはどうかしら。この食糧難を乗り切る方法、あるかしら?」
モカが質問すると、カタカタ、と動く白骨模型があった……『彼女』は椅子に座っている。
白骨模型の中には、野上果澄の魂が入っていた。
『おもいつかない、ごめんなさい』
矢藤に渡したものと同じホワイトボードに、野上が文字を書いた。
難しい漢字は書けないが、矢藤よりは書きやすそうである。
「まあ、これはしょうがないわよねえ」
「……果澄」
『どうしたの、れん』
「言いたいこと、聞きたいことは山ほどあるけど……アンタ、なんで白骨模型なのよ……ッ」
『それは、たましいを入れたせらに言ってよ』
白骨模型が示した指の先。
榎本が視線を向けると、
「あん? あー、ちょうどいい容れ物がこれと人体模型しかなかったんだよな……矢藤が入ったようなストラップでもいいんだが、近くになかった――だから近場の、理科室のこれを選んだ。どうせ持ち運ぶのはオレたちなんだ、軽い白骨模型の方がいいだろ」
「でも、これじゃ自立できないでしょ……!」
「別の人体模型も、足が固定されてるからどうせ歩けねえよ」
白骨模型の方は支えがなければ崩れてしまうだろう……、比べれば人体模型の方は中身も詰まっており、しっかりとしているが……持ち運ぶことを考えたら白骨模型の方がいい。
それに、人体模型の方は内臓が剥き出しになっているため、人によっては不快に感じる場合もある……、白骨模型の方が総合的に見て適していると判断したのだろう。
「野上についてはもういいだろ……ともかくだ、食糧不足こそ、優先して解決するべき問題だろ。まあ、昨日、たらふく食った分の貯蓄がある……一日二日くらい、質素な飯でも死にはしねえよ。貯蓄がある内に、食糧をどうにか見つけねえとな……」
「見つける? どこにあるのよ……校庭に生えてる草でも摘むつもり?」
「天死が奪ったんだろうが。なら、どこかに隠してるだろ……まさか処分したってことはねえだろうし……、だとしても、ゴミ置き場に捨てられている可能性もある。
処分したなら、そういう場所を探せばいいんだから楽だ」
怪しい場所を選んで調べることができる……そうでなくとも、人数がまだいるのだ、人海戦術で全てを探せば、見つからないということもないはずだ――あれば、だが。
完全になくなっているなら、いくら探しても見つからない。
「それ、見つかったとして、食べられるかしら」
「選り好みしている場合か? 食材なら洗えばいい……加熱すればなんとかなる。餓死するか、食中毒で死ぬかのどちらかだ。まあ大丈夫だろ、火を通せば大体のもんは食える」
「危ない考えよねえ」
「嫌なら食うな。無理して食えとは誰も言ってねえよ」
モカの場合、嫌だから食べない、は普通にあり得る行動だった。
「じゃあ、消えた食糧を探す、でいいの? 探索が中心になるってことだよね?」
昨日と同じだね、とシャルル……だが、その言い方は聖良が引っ掛かったようだ。
「毎日が探索だろ。勝手知るオレたちの校舎だが、運営側の狙いで、知っている校舎とは小さな差があるかもしれねえ……。
変化を与えて、それを見つけるオレたちの反応でも楽しむつもりだろ。オレが運営ならそうする――それに、ゲームを盛り上げるためには、参加者に行動を起こさせる必要があるんだ。手っ取り早いのが、変化だ……、それがあると知れば、自然とオレたちは動くわけだしな」
その変化こそが、脱出への手がかりになると信じて。
……運営側が仕掛けたものなら、出し抜く手がかりになるわけもないが……。
少なくとも、ゲームに勝つためのヒントになっている。
「加えて、試合となれば舞台になるんだ……細かい地形を把握し、使えそうなものにあらかじめ目星をつけておく……それも戦術だ。
仕込みもできるしな……実際、役に立つかどうかは分からねえが――」
それを知る聖良を敵に回すのは、できればしたくないものだ。
だが、明かしてくれた以上、彼に対抗する手は、全員に与えられている。
「昨日探索して、全てを分かった気になるのは危険信号だ。逐一、チェックしておく必要がある……だから各々が、一日一回は校舎内を一周した方がいいんだが……そのへんは、個人の自由だな。大人数で探索すれば、隠されている食糧を誰か一人は見つけられるかもしれねえし……やらない理由はねえだろ」
「へえ……聖良くんって――」
と、シャルルが目を丸くして。
……聖良は嫌な予感を感じ、眉をひそめる。
「なんだよ。……おい、てめェ、なんか失礼なこと考えてんだろ?」
「意外、ちゃんと考えてるんだねっ」
「バカにしてんのか、ぶっ飛ばすぞ」
「褒めてるのにぃ……!」
ぶっ殺す、ではなく、ぶっ飛ばす、にしたところに、聖良の配慮が感じられた。
そんな意図はなかったかもしれないが……自覚がなくとも最低限の配慮はできるらしい。
デスゲーム中に『ぶっ殺す』は、禁句である。禁句でなくとも、冗談にはならない言葉だ。
本気にすれば、自衛のために反撃がくる――、言った側も、それは避けたいところだろう。
「できて当然のことだ、それをよくできました、なんて言われて喜ぶと思うか?」
「できないよ――普通はこの状況でそんな風に冷静でいることはできないもん。
……聖良くんの指示は的確で、たぶんこのデスゲームの……正攻法、なんだと思うよ……」
「だといいがな。こっちも探り探りでやってんだ、従えとは言ったが、妄信されても困る……提案はするが、最後は自己判断で動けよ?」
「あら、それこそ意外ね、聖良ちゃん」
「……それはどういう意味だ。あと、いい加減『聖良ちゃん』はやめろや。気持ち悪ぃ」
嫌悪感を見せた聖良の意見は切り捨てたモカだった。
彼女も、こだわりは譲れない。
「だって――『全ての責任はオレが取る、だからなにも言わずについてこい』――って、言うと思ったのにねえ」
「…………」
「恐怖政治で人をまとめて、支配したあなたがするべきことは、間違った方向へ進んでいたとしても責任を取ること――というところまで、含まれているのではないかしら?」
「言うじゃねえか……滝上……」
「言うわよ。こっちはあなたの意見を信じてついていっているのに、間違っていたらすぐに梯子を外されて、あとは自己責任でどうぞ、なんて……酷い扱いでしょう? それが人の上に立つ者の発言とは思えないわ……。
それとも、大口を叩いておいて、実は自信がなかったりするのかしら……。それならそれでもいいけれど、その場合、あなたの発言力は一気に下がるわね……、あなたが言うから信じて従うという層は少なくなると思うけど……どうするの?」
「……チッ」
聖良は言い返さない……それはその通りだと、認めたからだ。
「分かったよ――全員まとめて面倒見てやる……だからオレについてこい」
「はぁーい、ついていくわねえ」
「うちも! だから全部任せたぞ、ボス!」
「やめろッ、ボスって呼ぶんじゃねえ!!」
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