第26話 神の声
『まーた少ない再生数だなあ……、もしかして放置プレイでもしてんのかあ?』
『いや…………』
介入こそしていないが、その『彼女』は、自身が運営しているデスゲームをよく観察している。巻き込んでおいてこんなことを言うのは最悪だが……、できるだけ、苦しんでいる人たちを見たくないのだ。できることなら今すぐにでも解放してあげたいが、当然、できない。
これは趣味ではなく、仕事なのだから――。
『……無理だよ、私にはできないと思う……向いてない、からね……ゲームマスターなんて』
『それでもやらなくちゃいけねえことだろ? あたしたちは神共のご機嫌を取るための道具なんだからさ。あんた、このままだと「最下級」天死止まりで、最終的には落第で処分されるぞ? ちゃんねる消滅は死を意味する――役目を貰えない天死は一度白紙にして再設定した方が早いからな……神共はそれを普通にやってくる。だからあんたも心を入れ替えろ。なんでもする……それくらいの気概でいかないと、再生数は膨らまねえよ』
天死の世界では、自身が持つ『ちゃんねる』の、その再生数が成績となる。
視聴者は神だ……だからこそ、神からの評価が分かりやすく数字になるのだ。
神に認められた天死は価値があると判断され、長く活動を続けられる……逆に言えば、無価値だと判断されれば、容赦なく切り捨てられる。
神の道具であり、代わりがいる存在だ……、
削ることになんの感情を持たないのが神であり――
同じく、ゲームマスターとして人間を殺し合わせることになんの感情も抱かないのが天死のはず、なのに……。
『…………』
『ま、追い詰められればなりふり構ってもいられねえだろ。昔からあんたはそうだったよな。達観してそうで、結局のところ、最後の最後には死にたくないからってスイッチが入る。最初からそれをしろよと思うけど……それがあんたの性格なら、仕方ねえ部分だしなあ――』
『……あ、』
『ん? あんたのデスゲーム……、なんだよ、代役のデスゲームマスター、自殺してんじゃねえか。こりゃつまらねえ結果だな……。
参加者も残り数人になって絶望して、このままだと心中するだろうな……もう挽回は無理っぽいぞ。今回の大会は締めた方がいいな……これを追っても、残る神は少ない……いや、いないんじゃないか? ほら、早速、離れていく神共がたくさんいるぞ』
リアルタイムで視聴していた神が減っていく。
それが数字で分かるのだから――絶望へのカウントダウンは、かなり早かった。
――天死ちゃんねるのキリンTV、視聴者は0です
『…………』
『評価も悪くなるだろうな……まあまあ、落ち込むなよ、また新しく始めればいいだろ? テキトーな人間を持ってきて、同じようにデスゲームに巻き込めばいい……、今回はあんたが選んだ人間が悪かったんだ、次の人間に賭ければいいだけだ――』
『レオン、は……』
『ん? あっ、悪いなキリン、あたしのデスゲームで動きがあった――高評価が期待できる騙し合い、殺し合いが白熱してるみたいだ……、過剰に煽っておいて良かったぜ……っ。このままテンポ良く人数が減ってくれれば固定の視聴者もつきそうなんだよな――期待するぜ』
『…………』
忙しく仕事をする天死の仲間であるレオンは、自分の悩みに共感などしてくれないだろう……それだけ、自分が異端なことには自覚がある。打ち明けても鼻で笑われて、荒療治の修行をさせられるかもしれない……それは最後の手段だ。
自分のこの感情は正しいだろう……そう思いたかった。
周りに流されて自分を曲げてしまうには、もったいない感性だと思ったから――。
天死コードネーム『キリン』は、人間の痛みに、心が苦しくなる。
こんなことしたくない……だけど神の退屈を埋め、楽しませるのが天死の役目だ。
トレンドはデスゲーム。
この流れに乗らなければ、それだけでいらない子扱いをされる。
時代を待つことも一つの手ではあるだろうけど、ここでは通用しない。
働かない天死など、速攻で捨てられてしまうのだから。
だから今日もまた、天死は人間をピックアップして、デスゲームを開催する……。
巻き込まれ、殺し合って、恐怖と絶望に狂って壊れていく人間たちを見ながら。
唇を噛みしめ、震える手で動画を配信するのだ――。
『――天死キリン、一つアドバイスをしよう』
と、神からメッセージが届いた。
順調に思えたデスゲーム運びだったが、視聴している神からすれば、かなり遅い展開らしい……。一日に一人、死者が出ているのだから順調だ、と思っていたのは、これまでのキリンのデスゲーム運びが遅過ぎたからだった。
キリンの勘違いである……今回の速度は、普通よりも少し遅いくらいらしい。
『天死ちゃんねるのレオンゲームは、相当早いゲーム運びらしいぞ……、一日で五人は死んでいるようだ』
……五人? なにをどうしたら、そんなにも犠牲者が出るのだろう……。
天死が前のめりになって介入しなければ、死ぬ数ではないように思えたが……?
『……アドバイスとは、なんでしょうか?』
聞いた上で実行するかどうかは選択肢がある、ように見えて、実際のところ拒否権はない。
なぜなら相手は神であり、天死とは道具であるからだ。
神の言うことは絶対だ。アドバイスと濁してはいるものの、ようするに命令である――神から天死への、絶対に逆らうことができない命令であり……。
キリンも、それが分かっていた。
だから諦め、肩の力を抜く……、なにを言われても実行するつもりなら、緊張もしない。
『(皆様、申し訳ありません……今後のデスゲームは、よりハードになるでしょう……)』
……このデスゲームは大事に育てていきたかったが、仕方ない。
退屈だ、と神が言うのであれば、それをどうにかするのが、キリンの仕事である。
(浦川様の手腕で、今後面白くなりますよ、と説得するのは……無理でしょうね。実績がない私が言っても、低評価の判が押されるのを後回しにさせているようなものですし……、こんな延命手段、許してくれるはずもありませんから……)
言えば、すぐにでも低評価を押されてしまうかもしれない……現時点で最下級の天死である。
これ以上、悪い評価を下されたら……、キリンが先に始末される……。
浦川たちのゲームは、別の誰かが引き継ぐとは思うが……、それだけは許せなかった。
自分が死ぬことよりも――。このゲームを、きちんと最後まで見届けたい……だって。
初めて、代役のデスゲームマスターが長生きしている……この進行を台無しにしたくない。
『天死、キリンよ――潤沢な食糧の大半を、奪ってしまいなさい』
そしてその命令は、すぐに実行されたのだった。
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