第4章
第24話 彼女だけが知る大問題…発生
中間報告
デスゲーム開始 一日目
第一ゲーム開始 犠牲者――浦川大将(現デスゲームマスター)
二日目 第二ゲーム開始
第一試合終了 死亡――矢藤喜助
そして、三日目――第二ゲーム第二試合が始まる。
……のだが、その前に、時間は少し遡る……三日目の早朝である。
〇
「……え?」
給食室にやってきた野上は、冷蔵庫の中を見て唖然とする……、ないのだ。
食糧が。
ごっそりと。
誰かが空腹に堪えかねて盗み食いをした、というレベルではない……、食材をまとめて抱えて持っていったような形跡だ。
少しの食糧を残しているのは、罪悪感からくるものなのか、それとも――食糧を全て奪うことは、今後のことを考えて避けたのか……。
減らすことが目的であり、奪うことが目的ではない……?
今の野上では、そこまでは考えられなかった。
「調味料はあるのね……、でも、そればかりがあっても……。一週間分は、少なくともあったはずなのに……それが、いくら節約しても三日か、二日でなくなる分量にまで減って……」
誰かが独占している。
……とすれば、誰が?
「ふあぁ……おはよう野上ちゃん……ん? 顔を青くして、どうしたの? 体調が悪かったりする? モカちゃんに相談すれば、そういう日だったら気を遣ってくれると思うよ」
まだ寝ぼけているのか、シャルルが無意識に給食室へやってきた。
お腹が空いたからだろうか……、昨日、たくさん食べていたので朝食くらい抜きでも大丈夫だと思っていたが、シャルルは別だったようだ。
「あ、うん、分かってる……お世話になったことあるし……大丈夫、疲れてるだけだから――それで、朝食っ、なんだけど、軽く作るよ……なにがいいかな? と言っても、選べるメニューは少ないんだけどね……」
「節約だもんね」
実際は、食糧が減っていることでメニューが限られてしまっているのだが、明かすこともないだろう……、共有するべきだとは思うが、犯人を刺激したくはない。
それに……、これ以上、みんなを不安にさせたくない――。
だからこれは、野上が抱えることなのだ。
「じゃあ、カロリーが少ないのがいいかなあ……」
「空木さん、ただでさえデスゲーム中で疲弊してるのに、ダイエットまでしたら……ダメな痩せ方をしちゃうと思うよ?」
「ダイエット……? 違うよ、野上ちゃんの労力があまりかからない料理って意味で!」
「あ、そういう……、気にしなくていいのに。どれもそう変わらないし……、そういう気遣いは、がっつり食べる時に見せてくれるとありがたいよ。……パンでいいかな? 朝はお米じゃないと嫌だ、とかある? レシピがあるものしか作れないんだけど……」
残っている食糧でなら、軽くなら作れるだろう。
「パンで大丈夫だよ……ほら、あたし、外国生まれだから」
「もう日本にきて長いでしょ……うん、分かったわ、準備するね」
準備を始めていると、遅れて顔を出したのは、戸田とモカだった。モカは寝起きに弱いのか、ボサボサの頭で顔色も悪い……、調子が悪いと言うよりは悪い気分のようで……、単純に、気持ち良く寝ていたところを無理やり起こされて苛立っている、と言った様子だ。
「おっはっ、野上とシャルル――腹へったからなんか作ってくれ!」
「あ、戸田さん……おはよう。パンでいい?」
拒否されてもパンしか準備できないけど……。
「ふぁあ……、もう。寝相が悪い雅ちゃんのせいで寝不足なのに、しかもその雅ちゃんに叩き起こされるとか……最悪ね……」
「叩き……? そんなに酷いの?」
「シャルちゃんは布団が遠いから分からないんでしょうけど……」
以前、検討していた『寝室代わりの教室の移動』は今のところ実行されていない。拠点となる三年二組の両隣のままだ――。
探索している最中に空き教室こそいくつか見つけたが、わざわざ移動しよう、と思う生徒はいなかった……。男子はそのままでいいと言っているので、動くとしたら女子なのだが……、女子も、この環境で部屋を移動し、布団や日用品を持っていくのは億劫だと感じたのだろう。
布団の位置も、初日から固定になっている。
「誰か代わってくれないかしら……。
雅ちゃんのかかと落としが、何発もみぞおちに入るのよねえ……」
「え、知らないんだけど!」
「そりゃ、雅ちゃんはのん気にぐーすか寝ているわけだしねえ……」
顔を出した二人に、ストックしていたパンを出し、野上が訊ねる。
「二人とも……これ。あと……恋は?」
「まだ寝てるぞ。恋は朝弱いからなー」
「雅ちゃんの寝相の悪さでもびくともしないのって、すごいわよねえ……」
「そうなんだ……」
まだまだ、知らない一面がどんどんと出てくる。
「そうなのよ……だから恋ちゃんを起こすのは野上ちゃんに任せたわ……。寝起きの恋ちゃんは機嫌が悪いと思うから……覚悟しておくようにね――」
「え、私が?」
「今後のモーニングコールを任せようと思ってるんだから……練習よ、練習」
自力で起きられないの? と疑問に思ったシャルルだったが、それができれば早々に解決している話だ。悩みが出るということは、もういくつか策を打って、失敗しているということである――少なくとも、モカと戸田は諦めている。
「恋ちゃんさえ、改善する気がないからねえ……」
「分かったわよ、いくつかパンを用意してから、起こしにいってくるわ」
「おい、飯は」
「そこにある。……自分で用意しようとか思わないの?」
時間が経つにつれて、続々と顔を出すクラスメイトたち。
身なりを整えない女子も多い中、聖良は最低限、身なりを整えてから顔を出している。
そのあたりのエチケット感覚はあるらしい……。
「食糧の管理はお前だろ、野上……。榎本がまだ寝てるなら、お前に頼むしかねえじゃねえか。それとも、勝手にいじっていいのかよ」
「はあ。場所を教えるから、勝手に――」
と、そこで、食糧がごっそりと減っていることを思い出す。
聖良にばれたら厄介だ……、遅かれ早かれ、だとは思うが、今は避けたい。
「いや、私が管理するから、一声かけて」
「なら文句を言うな……ったく。パン、貰うぞ。昨日が豪華だったせいか、こんなんじゃ足りねえな……まあ、食った分、栄養は摂っているからしばらくは質素でも平気だろうっつう計算なのかもしれねえが――」
「教室には、まだいる? 何人くらい起きてるの?」
「半分くらいか。女子は知らねえ。……こっちは、朝食はいらねえって奴も結構多いな……、節約に協力するって奴もいる。
思ったよりも食糧を使わなさそうだな……誰かの分、オレが貰ってもいいんじゃねえか?」
「ダメに決まってるでしょ。節約だって言ってるのに……」
「冗談だ」
皿の上のパンを掴み、乱暴に齧る聖良は給食室を出ていく。
彼の体の大きさを考えれば、まったく足りないとは思うが……、がまんしてくれているのだろう……。恐怖によるクラスの支配者だが、こういうところでの遠慮ができるところも、彼がリーダーとして最後のところで信用されている証拠だ。
「聖良のやつ、何人起きてて、朝食が必要か不要か把握してたな……大雑把だったけど関心はあるんだなー。リーダーの自覚がちゃんとあるようでなによりっ!」
「雅ちゃんも、同じくらい関心を持った方がいいわよ?」
「え、うち、リーダーじゃないし」
「そうでなくとも。だって、情報は武器になるもの――」
パン一つだけではさすがに味気ない、ので、追加でレタスとハムを挟んでおく。それをいくつか準備しておいて(これくらい、みんなもできるだろうと思うけれど、今は食糧の残数を勝手に見られるのは困るので、野上の仕事である)――野上は榎本を起こしに寝室へ向かった。
外の光が差し込んでいるので電気を点けていなくとも充分に明るい教室……。布団を敷いたまま雑談している生徒も多い……その中で、未だに眠っている(染めた)銀髪の少女が一人。
身内(?)贔屓かもしれないが、可愛い寝顔である、と野上は思った。
彼女の横に座り、そっと、頬に手を添える。
起こさないように優しく撫でて……起こしにきたのに、矛盾した手つきだ。
「……恋、朝が弱いのね……」
もしかしたら……。
この寝顔を、独占できる立場に立つことができるかもしれない――なんて考えてしまう。
「もっと色々なことを、知ることができるのかな……」
「野上様、おはようございます」
「っ!? て、天死……さん……っっ」
窓の外から、翼を広げてやってきた天死である。
白い羽根が散って床にばら撒かれるが、数秒もすれば消えてしまうのはいつもの通りだった。
突然現れることはいつものことなので、驚かない、わけではない。やはり不意を突かれてしまえば驚くし、今の野上は、より驚いただろう……、起こさないように頬を撫でていたのだから尚更だ。天死も、声をかけたことを申し訳なさそうにしていた。
「ごめんなさい、お取込み中のところ……」
「いや、そんなことは……。ところで、なんの用ですか? 女子の寝室に入ってくるなんて……隣の教室にいけばリーダーもいますし、事務連絡ならそっちに――」
「聞きたいことがあるのではないですか? 野上さんが、私に」
「…………」
「場所を変えたければ、先にいってますよ……どうしましょう?」
ここでは話せないことである、というのは野上も天死も理解していた。天死の登場に戸惑っている周りの生徒には、聞かれたくない話なので、ここはテキトーに話を切り上げてもらい、別室で細かいことを聞かなくてはならない……というわけで。
「……誰もこないであろう、理科室でいいですか?」
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