第3章

第16話 恋モカ雅【仲良し?三人娘】


『――えっ、れん!? その髪どしたん!?』

『染めた』

『染めたって……いや、いいんだけどね……。面倒なことになりそーじゃん。もしかしてシャルルに対抗して銀髪にしたの? わっかりやすー。対抗心バリバリじゃーん。うちらと違って小学校が同じなのに、今更髪色で対抗するの? 恋がなにかしたところで影響ないんじゃないの?』


『うっさいわね……っ、空木に意識してほしいわけじゃないし。既に意識はしてるんじゃない? あの子は全員と仲良くなりたいようだしね!』


『そう言えば、確かシャルちゃんは転校生なのよね……、途中からやってきて、あっという間に恋ちゃんが引き連れていたクラスの信仰心の大多数を持っていかれた……だから根に持ってるんでしょう?』

『それで銀髪に? え、意味ある?』

『自己満足だけどなにか文句でも? ……昔は空木とアタシで二分していた派閥も、今やほとんどが空木のものよ……、アタシと仲良くしてくれる子なんてアンタらしかいないほどに減っちゃったわけよね――』


『え、うちら仲良しなの?』

『アウトロー同士、つるんでいるだけよねえ?』

『…………』


『冗談なのにぃ。でも、薄々感じてはいたんじゃないのお? 私たちは仲良しのお友達ってわけじゃなくてぇ。利用価値、ってほど冷たい言い方はしないけどね。他にいないから……ひとりぼっちは嫌だから一緒にいようって続けていく内に、自然と打ち解けた間柄ってところかしら?』

『そーそー。だからきっかけがあったら、いつの間にか離れてるね、なんてこともあるわけじゃん』

『アンタらは同じ小学校だから……付き合いは長いでしょ。結局、アンタらまでアタシから離れていくわけね……』

『いや、離れていくって決めたわけじゃないけど……まあべったりってわけでもないし……期待されても困るから拗ねてていいけどねえ』

『あははー、拗ねてるねー。うちらは慰めたりしないからねー? そういうのは自分でご機嫌を取ってくれないと……ね、恋ちゃん?』


『……はあ。ほんと、アンタらって接しやすいわね』



『は――? ちょっ、榎本さん!? なによその髪色!!』


『うわ……早速、うっぜえ奴に目をつけられたわ……』

『見逃されると思ってた? 無理っしょ。シャルルよりも目敏く変化に気づく非公式のクラス長を欺くのは不可能じゃん、ばっかだなあ。そんな派手な色にしておいて見逃せって言うのも都合の良い話だよねー』


『見逃されるとも思ってないけど。気づくだろうしこうして注意してくるのも分かってた……あれはダメこれはダメ、ルールだからやめなさい、の一点張りでさ……それでアタシが納得しないことは昔からの付き合いで分かってるはずなのに……変えないわよねえ、野上は』


『ほらっ、私、黒染めの道具借りてくるから、すぐに戻そう? 手伝ってあげるから――』

『いらないのよ、うざい。好きでやってることなんだから邪魔しないで』

『でも、染めるのはルール違反なのよ……きちんと守って楽しく生活しましょう?』


『アンタさ、まず最初にどうしてアタシが染めたのか聞かないの? 普通は事情を聞くものでしょ……空木ならそうしてた。だけどアンタはアタシじゃなくて、ルールしか見てないじゃない……、そんな奴の言い分に従うわけないでしょ』

『あなたは……そうやって昔から……ッ』


『アンタも昔からそうでしょ。矯正させたいなら踏み込んできなさいよ、踏み込まないなら干渉してくるな。踏み込まれても嫌だけど、空木くらい吹っ切れてくれた方がマシね……逆に、空木にくっつく浦川は、一切興味を持たないところが好感が持てる。だけどアンタは、一番ダメだ。中途半端が一番、ムカつくんだよ……ッッ!』


『そ、それでも、ルールを破っているのは榎本さんでしょう……っ! どうせ先生が気づくわよ、指導が入ると思う……、それでもいいなら好きにすればいいでしょ……っ!』


『言われなくても好きにさせてもらうけど? 怒られるのが嫌で染めてくるわけないでしょ……全部、覚悟の上だから。……偉そうに説教してくんな。クラスのまとめ役だかなんだか知らないけど、アンタは一回も、生徒会に入ったこともクラス委員長になったこともないじゃない。役職もないのに正義感の一本槍で入ってくんな。いいや、アンタは入ってきてもいないわ……アンタは人の心の扉を乱暴に叩いているだけ……入ってくるつもりはないのよね。そんなやり方で誰もが心を開くと思わないことね』


『…………榎本さんのためよ』

『うっざ。それを言えばノルマ達成? もう放っておいてくれる? つーか喋りかけてくんな。アタシの人生の邪魔をしないでくれる?』


『……絶対に、後悔するわよ……』


『しない人生なんて、それこそ異常でしょ』



『あーあ、修復不可能なほどに亀裂が走った感じー?』

『いつも以上にピリピリしてたわねえ』

『……途中からいないと思えば……アンタら、随分とまあ距離を取っていたわね……』


『迂闊に近づいて、野上の八つ当たりを受けたくなかったしなー。だって、恋のせいで野上も不機嫌になってたしさ』

『よく見る光景ではあるんだけどねえ……今日のはやっぱり、ちょっと違ったわね』

『そうね、もうこれきりで、会話もなくなるかもしれないわね――』

『恋ちゃんが避ける気なんでしょう?』

『野上も避ければ、もう交わらない……こっちはせいせいするわよ』


『恋ー』

『なによ』

『野上の追及からは逃れられるけど、せんせーからのは受け入れるしかないよねー? はい、呼んでるよー、ほら、あそこ。教室の外から、声をかけずに手招きしているところが怖いよねー』


『なにその髪! って反応は嫌というほどされているはずだから、そこを飛ばしてくれているのかもねえ……配慮があっても、指導が短くなるわけではなさそうな感じねえ』

『……はぁ、こればかりは避けられないから受けてくるわ……黒染めされても、また銀色に染め直せばいいわけだしね。だってこれは、アタシの気持ちの問題だから』

『ふーん、じゃあまあ、がんばって』

『陰ながら、心の中で応援してるよう、振る舞うつもりでいるわね』


『興味ないのか……ないか、ないわよね、そりゃあね……っ!』



『あ、ちょっと待って、恋……いく前に一ついい?』

『なによ、職員室に連行されそうなんだけど、助けてくれるの? そんなわけないよね?』

『あったりー、そんなことするわけないじゃん。じゃなくて、宿題なんだけど、写したいからカバンの中、漁ってもいいよね?』

『アタシの? 白紙でもいいなら勝手にすれば?』


『とかなんとか言いながら、恋はちゃんとやってきてるから信用できるの……じゃあ漁るね!』

『いいけど……小さいポケットは漁らないようにね』

『え、コンドームでも入ってんの?』

『入ってねえわ! 仮に入ってても見られてもいいでしょ!』

『じゃあいいじゃん』


『目的が宿題なら他はいじるな……いいわね!?』

『はーい』


『マジで漁るんじゃないわよ!?』



『……ねえモカ、漁ってみる? あれだけ言われたら「漁って」って言ってるようなものじゃない?』

『やめておいた方がいいわねえ、……恋ちゃん、今ならブチ切れるでしょ』

『それはそれで見てみたいかも……ま、今日はしないでおこっかな』

『別の機会に漁ってみるつもりなの?』


『うん、だって気になるじゃん……モヤモヤするし。こういう時に限って大したことない中身だったりするんだけど……答えの中身で納得、じゃないんだよね、答えが出たことが重要だから。別に、中身はなんだっていいわけなのよぅっ』

『もしかして……サプライズプレゼントが入っていたりして、ねえ?』

『は? プレゼント? 誰に――』


『ん』

『うちに? なんで――』

『だって、今日はみやびちゃんの誕生日でしょお?』


『……え、そうだけど……プレゼント? 恋が、うちに?』

『分からないけど……期待は、しない方がいいかもねえ……。はい、じゃあこれ、私からのプレゼント』

『え!? プレゼン…………ト……って、おい、なにこれ』


『単三電池。単四が良い? あるけど……、最近は充電ばっかりだから、こういうのもたまにはいいでしょう?』

『いや、電池を使う道具なんか、今時持たなくない……?』

『人によるわねえ。使い道がないなら作ってくれないと。せっかくプレゼントしたんだから、充分に活用してくれないと、私、悲しいわ……』

『電池を選んでおいて!? 普通にケーキとかで良かったじゃん……っ』


『だるいのよ、買うのが。そこまで仲が良いわけじゃないし……電池がちょうどいいのよ』

『…………まあ、期待してなかったからいいけど……随分とハードルが下がったから、恋のプレゼントがどれだけしょぼくても許せる気がしてきた――』


『プレゼントがない場合もあると思うけど……それは考えてないの?』

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