第2章
第6話 デスゲームの裏側【前編】
「……うっ、眩しっ!?」
「おはようございます、気分はどうですか、【デスゲームマスター】」
白い光の蛍光灯を遮るように顔を出したのは、死ぬ直前に見た人物と同じ顔だった……。ここが天国か地獄かは分からないが、自分を殺した人間と……いや、『天死』と再会するなんて、意地の悪い冗談だった。
……だけど彼女は天死なのだから、死後の世界にいるのは当然なのか?
「…………天死、ちゃん……?」
「はい、天死ちゃんです……覚えててくれたんですね」
嬉しいと頭の輪っかが点滅するのだろうか……、分からないが、犬が尻尾を振っているような印象を抱いた。
「……死後の世界って、ここ……? 無機質な部屋だな……ミニマリストなのか?」
「必要最低限のものしか置いていなければこんな感じになると思いますけど……それで、ご気分の方はどうかな、と思ったのですけど……。実際にマスターは一度死んでいます。ここは死後の世界でこそないですが……蘇生したんですよ、天死の力で」
「…………殺したくせに、蘇生した?」
殺した後で罪悪感に苛まれて蘇生した、わけではないだろう。
蘇生するために殺した、と考える方が自然か……納得もできる。
理由までは分からないけれど。
「悪いとは思っています……蘇生をしたんですけど、体の不調を改善したわけではありませんので……蘇生をしたことで、体の不具合があれば、今の内を教えてください」
「…………頭が痛ぇ」
「それは……シャワーを浴びるとか……? 頭痛は、寝起きだからじゃないですか……?」
ふわふわとした指示だ。
天死はみんなこうなのか? 対応がテキトーである。
「人の眉間に弾丸を撃ち込んでおいてよく言う……絶対、あれの影響があるだろ」
「少しくらいは、そうだと思いますけどね……、あとは気持ちの問題もあるでしょう。ほら、不調だと思っていると本当に体調を崩すとか……そういうことが人間は起こるらしいじゃないですか。天死には分からないですけど」
「…………シャワーを浴びる。案内してくれ」
「はいっ! こちらです、マスター」
部屋を出ると、部屋の延長線上のような、似たような通路があった……。
白い……そして通路は長い。
もしも目の前が鏡だったら、きっとどこまでが道なのか分からないだろう。
「なあ、天死ちゃん……その、俺を呼ぶ時の、【マスター】って、なんなんだ? 俺は、だって、負けた、のか……? 勝ち負けじゃないと思うけどさ……、脱落したんだろ? 死亡したわけじゃないのは分かるけど……脱落しているのにマスターって、おかしくないか? 俺の今の立場って、どういう……?」
「きちんと説明しますよ、マスターの頭がスッキリした後で、ですけど。シャワールームはこちらになります。冷水を浴びて、さっさと意識を覚醒させちゃってください……、たんまりと仕事が溜まっていますので――」
「脱落したらデスゲームの雑用をやらされるのか……? 殺されるよりはマシ……と思えばいいのか……?」
「早くしてください、マスター」
「俺はマスターじゃないって」
シャワールームの扉を開けると、ここも真っ白である……、清潔に見えるからいいけれど、綺麗過ぎてどこかの研究所なのでは、と思ってしまう。白過ぎるのも不安になるものだ。
大がかりな実験に巻き込まれていたりするのだろうか?
「浴槽にお湯も溜めてありますけど……入りますか?」
「溜まってるなら入るよ……でも、急ぎじゃないのか? 長くなると思うけど……」
「数時間も入っているわけじゃないですよね? 男性は長くても早いと聞きました」
「まあ、シャルルや母さんはめちゃくちゃ長いから……それに比べたら全然早く出る方だと思うけど……じゃあちょっと温まるから」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
足下のバスケットに着替えと、バスタオルが置かれた。
「……俺が風呂に入っている隙に、悪巧みでもするのか?」
「いえ、しませんよ」
「…………」
「し、しませんっ」
「んー、これは悪巧みがあるから目を逸らしたのか、見つめられて照れて逸らしたのか分からねえな……まあいいけど。どうせ俺は脱落した身だ、こうして生きていても、どうせ俺にできることはなにもないわけだ――」
「…………」
「あ、そうだ天死ちゃん……入浴剤はある?」
浦川からすれば充分に長かったが、それでも早い方だろう……、シャルルが言うには、あっという間、らしい。
充分に浸かっているつもりだったが……これ以上はのぼせてしまう。逆に、倍以上も長いシャルルは、浴槽でなにをしているのだろうか……?
さすがに、中学に上がってからは一緒には入っていない浦川だ……、なので謎である。
「…………風呂から上がってきてみれば……早々、なにしてんの?」
ドライヤーが置いていなかったので、髪を乾かすことができなかった……自然乾燥でいいか、どうせ整えても天然パーマだし――と諦めて、先ほどの部屋へ戻る。
ほぼ一本道なので、迷うことはなかった――白く長い通路を戻り、元の部屋へ戻ってきた浦川は、綺麗な土下座をする天死ちゃんを見た……戸惑うしかない。
「――お願いがあります、マスター」
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