第5話 ギフト(オア)スナッチ【後編】
アプリを起動し、表示された画面。
操作をする前に、シャルルの視界の端で、白い羽根が揺れた。
「読み上げない方がよろしいと思いますよ。それは重要な、あなたの武器となりますので」
「っ!? ……天使……」
「天死ちゃん、とお呼びください……。そのスマホの内容、他人に明かしても構いませんけど、あなたが不利になるだけかもしれません――」
それでもこちらは構いませんけど、と、黒い羽根がシャルルの手の甲に落ちた。
シャルルへ警告をした後、屈んでいた天死が立ち上がった。再び、教卓の前へ。
「それでは、第二ゲームのご説明を致します……今、返却されたスマホの、アプリ内で選択した『異能』を使用した『殺し合い』、となります……デスゲームですから、文句は受け付けませんからね。
細かいルールは、また当日に説明しますけど……今のところ一日一試合、一対一を予定しています。こちらが指定した人数まで、参加者が減った段階で、第三ゲームへ移ることとなりますので――」
「……殺し合いだと?」
「も、文句は受け付けませんから!」
「……ってことは、今、この時点で残っている全員で、ゲームをクリアすることは不可能ってことかよ……ッ」
「はい、それは、そうですね……不可能です……。
一回の試合で、必ず死者を出さなければいけないわけではありませんけど……指定の人数まで減らない場合、この校舎での生活が続きます。建物内の食糧も限られていますので、あまり長丁場には向いていませんね……校舎の外には出られませんし」
「……デスゲームを運営していて、私たちをこうして集めて無茶苦茶なゲームに巻き込んでいる相手に今更聞くことじゃないかもしれないけど……、ここはどこで、学校の人はどこにいったの? 私たちの親や先生は、私たちの失踪を知っているの……?」
「それはお答えできません。仮に、外で騒動になっていたとしても、ここがばれることはないと思いますよ? なので、助けもきません」
ちょっとは期待していたのか、聞いた野上が肩を落とした。
「答えるわけがねえ質問をするな……時間の無駄だ」
「……ごめん」
聖良は責めたが、はっきりと口に出してくれたことで理解した生徒も多い。
外から助けはこない。
ゲームのルールに則り、運営と戦うしかない……それが分かれば腹もくくれる。
「この校舎も、実物を参考にして作られたまったく別物ですので、派手に壊れたところで問題はありません……壊れることもないんですけど」
「おい天使……、この一日一試合って制限は、なんでだ? 一日に二試合、三試合をやってもいいじゃねえか」
「ハイペースで脱落者を出されても困りますし……、あと天死ちゃんです、覚えてください」
「なるほどな……引き伸ばしを図るってことは、長く楽しませたい観客がいるわけか」
「…………ど、どうでしょうね」
「試合以外の時間も見られてるか……で、そこでの会話も、観客にとっては美味い蜜ってところか? 長丁場の殺し合い生活の中で、壊れていくオレたちを見て笑うつもりか? チッ、クソばかりだな」
「私、頷いていませんけど……?」
「頷いたようなもんだろ。それに正解か不正解かはどうでもいい……オレがそう思っただけだ」
聖良の推測である。だが、天死の反応を見ると、遠い答えではないようだ。
彼女の態度が演技で、騙している線もあるにはあるが……騙す理由もないだろう。
カメラの存在で、見られている、ということは既にばれているのだから、それが実験なのかショーなのか違いを騙すのは、特に意味はない……。
ばれても困らないが、ばれていない方がやりやすい、と言ったメリットだろうか。
「分かった、てめえらに付き合ってやるよ。……今度の時間制限は、どれくらいだ?」
「試合に関してはありますけど、生活に関してはありません……ですので、食糧問題をどうにかできるなら、長丁場にして延命しても問題はありません……。ただ、他のグループでも、一ヵ月は持たなかったですけど……すぐに音を上げると思いますよ?」
「ふうん、巻き込まれたのは今にしろ、過去にしろ、オレたちだけじゃねえってことか……おーけーだ」
「……あっ、私っ、いま失言しました!?」
慌てて口を押えるが、遅い……そのリアクションが失言か否かの答えだった。
「お、おほん! ひとまず、私からの説明はこれで以上です。皆様、今日はごゆっくり休んで、明日からの第二ゲームに備えてください――それでは」
翼が広がる。ふっ、と足が浮いて、頭の上の輪っかが広がり、空間に空いた大きな穴の中に天死が吸い込まれていく――そして、姿が消えた。
しん、と静まった教室で……まず、野上が口火を切った。
やっと……天死が現れたことで、進展があった。
「聖良は……、なにか案でもあるの?」
「は? ねえよ。あの天死の言う通り、指定人数まで減らすしかねえだろ――こんなすぐに、ゲームの穴を突けるわけねえだろうが。
……とにかく今日は休むぞ。校舎にある食糧、設備の確認もしておきたいところだが……それは明日でいい。勝手な行動をするなよ? この場はオレが仕切る――」
聖良の横暴な決定に、反対意見は出なかった。ただ、彼がリーダーになることに不満があったとしても、指示自体は悪いものではなかった……、今日は色々とあった……。
デスゲームに巻き込まれ、クラスメイトが殺され、第二ゲームの詳細を聞かされた……情報が多い。今は体よりも脳を休めるべきだ。
「文句があるなら代わってやる……オレ以外でまとめ役を買って出る奴はいるか? いねえなら……オレが仕切る」
すると、すっと手が挙がる。
「俺もいいか? 交代じゃなくて、聖良のサポートをするよ。やり過ぎを止める役として志願するけど……いいかな?」
「
「私が?」
「そういう役目でもねえのにいつもまとめ役になってるじゃねえか。途中から合流するか最初からその役目に就いているかの違いだろ……適性があるんだからやれ」
「分かったわよ」
分かりやすいように、教卓の前に立った三人――聖良、木野、野上……。
女子の視線の多くが木野に集まるのは、彼の容姿が整っているからだった。
男女が共に認める美男子である。
女子側の整った容姿代表がシャルルなら、男子は木野だろう……異論は認められない。
そんな木野が、意識して優しい声音で話す。リーダーとして、聖良のような横暴な行動で皆を引っ張っていく力も必要だが、木野のように包み込むような優しさも必要だ……。聖良の足りない部分を、木野が――木野が持っていない部分を、聖良が担当する。
リーダーを二人にしたのは正解だっただろう……、そのどちらの要素も持つ野上は、隠れてはいるが、かなりハイスペックだと言えた。
「俺たちはまとめ役ってだけだからさ……俺たちに、みんなの命を扱う権利はない。だからみんなもさ、俺たちに絶対に従わなきゃいけないわけじゃないから……安心してほしい」
文句があれば聞く、と言っているわけだ……、余計な反発を許してしまうことになるが、抑圧して、限界の末に弾けるのとどっちがマシか、の話だ。
「恐怖で縛った方が、問題が出ない気もするけどな……」
「それをするのはまだ早いんじゃないか? 反発する人が出てきてからでも遅くはないはず……」
「反発してきた奴は第二ゲームで始末すればいいしな――ところで木野。お前が受け取った【異能】は、なんだ?」
「言うわけないだろう。それとも人の上に立つ以上は手の内を明かすべきか? ……それだと聖良も、野上も明かす必要が出てくるぞ?」
「嘘でも良ければ言うが?」
「嘘ならいい……ごちゃごちゃになっても損だし。一致団結するべき状況だけど、手の内を明かすほどに信頼し合うのは危険だな……。自分の武器はここぞという時まで隠しておくべきだ。みんなも、まだ明かさない方がいい……たとえ仲良しの相手でも」
仲良しの相手が信頼できても、その子が狙われ、情報を抜き取られる可能性がある……――重要な情報は、自分のところで止めておくべきだ。
今、絶対に必要ではない、と分かれば徹底して隠す――。
弱者は狩られる……そういう環境の中にいる。
「でも、万が一教えてしまっても、それをフェイク、ということにすれば、情報自体を武器にして戦うこともできる……使い方次第だね」
「そういうことを言うんじゃねえよ、共同生活が騙し合い、腹の探り合いになるだろうが」
「それを求めているんじゃないかな……ここを見ている、観客は」
カメラの先の誰かが――望んでいるのだ。
人間でも関係でもいいけれど……壊れることを。
――多くの視線がリーダー三人に集まる中、視線を落とし、スマホを見つめているシャルルがいた。彼女はアプリによって授けられた、自分の異能をよく考える……。
幻聴かもしれないけど、聞こえたのだ――声が。
「……たいしょー……あたしの背中を、押してくれたの……?」
――異能は自身以外を対象とします。
――あなたの異能は、【勇気】です。
与えるor奪う――どちらを選択しますか?
「あたし……は、」
――シャルル、生き延びろ。
「……今度は、あたしが」
――空木シャルル様、あなた様の異能が決定致しました。
――能力は、【勇気】を与える。
第二ゲーム開始まで、しばらくお待ちください……。
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