第7話 キリオの都合
キリオ・デールはシャーリー・イストラントことシャルの側近であり家庭教師でもあった。彼女の母がシャルの乳母であったので乳兄弟でもある。
少なくとも彼女はノーデル村では将来を約束されたエリートであった。シャルの信頼も篤く、彼女の将来を心配もしていたし、実はシャルが十九代目勇者アランを嫌っていた事を知る数少ない人物でもある。内々の話でシャルが捜索隊の指揮を任されたのはキリオの管理能力を見込んでの話である。
──是非とも君に実質の指揮をお願いしたい
セントリオ家の家令はキリオにそう詰め寄った。いくらエリートとはいえ本家の家令にそう言われて断れる訳はない。しかし理由がわからない。
──なぜ私が、というより姫が行かなくてはならないのですか?
当然の質問に対する回答は、つまり勇者の家系という巨大な事情が働いていた。
十九代目勇者アランが行方不明になったという話は、王家の極一部と、セントリオ家とその傍系だけの極秘事項であり、それ以外の有力者には知られていない。しかし薄々は感づかれており、セントリオ家はその不名誉を実績で繕わなくてはならない。
また十九代目勇者アランは幾つかの伝説の神具を携えており、本人よりそれらを回収しなくてはならなかった。その神具は勇者の血を引くもののみ力を発現させる事ができ、かつ勇者の血を引くものはその在処を感知する事ができる。
つまり勇者アラン救出及び神具回収のためにセントリオ系統の誰かが行かなくてはならず、かつ二重の意味で説明力がある人間でなくてはならない。
二重の意味とは、表向き勇者アランは行方不明になっていないのだから、探索隊のような部隊を出すのはおかしい。その人物が出国しても本件と関係ないという体裁になるような人間でないと国王や他の有力者に感づかれる恐れがある。
裏向きの理由としては、万が一勇者アラン行方不明という秘密が漏洩した場合にも、ある程度は斟酌してもらえそうな人間が好ましい。例えば14歳の少女が許嫁を探す旅に出たと言えば、批判も出るだろうが同情も買えるだろうという目論見である。
そこで目をつけられたのがキリオであった。もちろんシャルに神具探索機以上の役割など期待できる筈がなく、その周囲の者で能力があり信頼でき、かつ動いてもさほど目立たず、トルニア自体にも影響のない者というと彼女しか居なかったのだ。
呆れもしたし迷惑な話でもあったが、乱世の官吏らしく貪欲な出世欲を持つ彼女は、家の中でもこれと言った者と、はぐれ暗黒騎士とその仲間を連れ立って、事情を巧く糊塗しつつ、この幾つもの意味で危険な冒険を請け負ったのであった。
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