各々の都合

第5話 ドーグの都合

ドーグはトルニア領内のオーベルという港町で生まれ育った。生まれつき姓はない。父はおらず、元踊り子の母と一緒に暮らしていたが、十代半ばになる頃にはストリート・ギャングの一員となっていた。


そのうちにドーグは名誉ある者ジ・オナーの構成員と関わるようになり、いつしか準構成員アソシエートとして半ば組織の一員となった。本来名誉ある者ジ・オナーは政治的秘密結社であるが、それは上位の幹部たちの事であり、その下の準構成員はいわゆる闇社会の人間であった。


──お前なら正規構成員ワイズガイも夢じゃない

ドーグの事実上の上役、本物の兵士ソルジャーたる男はそう励ましてくれた。厳しいが優しく気前のいい男で、上役というよりドーグの師匠であり兄貴分だったが、ある時に抗争に巻き込まれて死んでしまった。


名誉ある者ジ・オナーの準構成員の立場は、それを擁してくれる直属の上役、つまり正規構成員の立場により大きく左右される。正規構成員の最下位たる兵士は、しかし数十から数百人単位の準構成員たちを統括している大親分でもある。


その大親分たる兵士が死ぬと、他の兵士の下に組み込まれるわけだが、もちろんその兵士には既に数百ほどの配下がいるわけで、そういう直参たちを差し置いて正規構成員になどなれるものではない。いやなれるにしてもそれは一体何年後の事か。


そうして一応は新たな兵士の下で準構成員として報復に勤しんでいたドーグであったが、ある時に妙な話がきて、考えた末にその話に乗ったのであった。

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