第4話 取らぬ竜の金算用

エルフとドワーフの仲が悪いのは事実であったとしても、それは外交という生存戦略の妨げにはならない。居住地域が大幅に異なるふたつの種族は、表面上むしろ他の種族よりも友好的に協調関係を築くことができた。内心でそれぞれ「産廃業者」「未開人」と思っていたとしても、面と向かって言わなければいいのである。


なので森エルフと石ドワーフの抗争が勃発した時、列強は意外にも思ったし納得もした。そしてそれに乗じて我が利を得ようとするのは、まあ群雄割拠の時代ならではの当然の行為であり道徳であった。我が方を利する可能性には全力で乗るべきある。


その道徳に従い、トルニアは抗争の発端となったディズリー金鉱に根を下ろした竜退治に十九代目勇者アランとその一行を差し向けたのである。


──これは追い払うという意味です

トルニアは森エルフに対してそう言った。エルフたちにとって竜は神聖なものであり、逆に黄金は、その価値を認めつつも卑しいものという認識があるからである。森エルフたちは竜の降臨を心理的には歓迎したが、貿易資源となりうる金鉱に手が出せなくなるのは困るのである。


──当代の勇者の力をとくとご覧あれ

石ドワーフに対してはそう言った。ドワーフたちにとって竜は邪悪以外の何者でもない。なにせ苦労して採掘した貴金属を全てせしめようとするからである。ドワーフの社会では竜は可能であるならば絶対に駆逐すべき対象であり、つまりこの温度差が抗争の引き金となったのであった。


そしてもちろん、ヒュームの国であるトルニアにとっては竜など追い払おうが退治しようがどうでもよく、ディズリー金鉱への利権にねじ込めればいいのであった。


そうして三者三様の「それぞれの事後しか考えていない」外交的竜退治支援はものの見事に失敗した。詳細は不明ながら第十九代勇者アランは行方不明、唯一の生還者である魔法使いイシムは失敗を報告して意識を失い、今も病院で絶対安静であった。


さて、本来全く関係ないのに勝手にしゃしゃり出て「失敗しました」ではトルニアという国の威信に関わる大問題である。当代の勇者が行方不明というのも問題である。これは何がなんでも成功させなくては最悪お家取り潰しまであり得る話であった。

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