最終話 かくてワタシの行く末は?
ワタシの本名は、リュート・グレ。
ナムラ砂漠のラ・ムゥ・オアシスの族長の弟の正妃の息子と生まれたんだ。
でも、父は早逝して母は伯父の族長の第三夫人に治まった。
……というのも、伯父には子供がいなくて、弟のところには九人もいるんだから、母も俺たちのために、必死だったとと思う。
大して、後ろ盾のない異母兄弟なぞ、どうなっているのか……。
そんなこんなで、15歳で学び舎を飛び出して、リュートを片手に吟遊詩人の真似事を二年間ほどしていた。
ワタシの爪弾くリュートの音は、眠りを誘うらしくて、学び舎の教師には、音楽療法士になるように言われていたが、地道な努力が嫌いなワタシは、リュートを持って学び舎を後にした。
置き引きで捕まること三回。
年よりも若く見られることが幸いして、実年齢を誤魔化して言い逃れてきたのだ。
サントスの街で、声をかけられた男に尻を掘られ、『ミツバチの館』に売られた。
ここで七年も男に抱かれ続けていたのは、そんなことの方が性に合っていたのかもしれない。
『ハチミツの館』は、密偵たちの情報交換の場所だったようだ。
神殿は、この事を知っており、神殿の密偵も男娼の中にはいたという。
そして、『ミツバチの館』でのワタシの仕事は失くなった。
背中と顔のキズが残るから、商品価値が失くなったかららしい。借金は、とうに無くなっていた。
治療棟を退院する時に、賢者様がまた現れた。
「今度は、本当の名前を名乗ってくださいね。僕がオルランドで、オーリなんです」
賢者様は眩しい笑顔で言われた。
あぁ……賢者様が困った顔をした訳が分かった。
「それで? これからの当てはあるのですか?」
「ええ……まぁ……」
ワタシは、大きなため息をついてしまった。
もう少ししたら、シンヴァが迎えに来ることになっている。
今回の一連の事件や、男娼館にいた事までが姉の耳に入り、姉は倒れたようだ。直ぐにオアシスの母に連絡を入れようとしたのをシンヴァが止め、その分、目の届くところに置くという名目で、自分の嫁ぎ先に呼んで、甥たちの面倒を見させることが、母には知らせないという条件となった。
既に姉のご主人が、了承しておられるので、ワタシに選択肢は無かった。
賢者様は、ワタシの話を聞いて、
「嫌なのですが?乗り気ではないようですね」
ワタシは、下を向いたままだった。
「では、僕の養子になりませんか?」
ワタシは、何を言われたのだろう?
賢者様の養子に?
何故?賢者は世襲制ではないから、後継ぎが欲しいわけではないだろうに。
「僕だけの
プロポーズされている気になってるのは、何故だろう。
私は思い切り大声で「はい!!」と答えた。
そこにタイミング悪く、シンヴァがやってきた。
「にーちゃん、西風に乗って銀の森まで行くぜ!!」
「な……何で?」
ワタシは、真っ赤な顔でシンヴァに向かって言った。
「サントスの街と神殿を乗っ取ろうとした奴を見つけてくれたに―ちゃんに礼が言いたいんだって」
ワタシは、モジモジとしていたら、
「行ってらっしゃい。そして、また、サントスに帰ってらっしゃい。今度は、僕があなたを迎えます」
「いえ、賢者様を向かえるのは、そんなに苦痛だと思ったことはありませんよ」
ワタシは、真面目に答えたつもりだが、
「僕の(自主規制)が小さいと言いたいのですか……?」
「あ……いえ……」
しまった!!気にしてたんだ!!賢者様……。
(完)
朔月の逢瀬 ~賢者はリュートの音(ね)で微睡む~ 月杜円香 @erisax
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