第7話 ありがとう
夢愛は二十一歳になりました。
私はこの頃肩や腰に痛みを感じ、年をとったなと感じます。
夢愛の物語が世に出て何年かして、その物語はアニメ化されました。舞台化もしましたし、コミカライズにもなりました。
夢愛は今や有名人です。
物語が映画化するというので、それの会見に行きました。
もう、この時はほとんど障害……という言葉は私の頭の中から消えていました。夢愛の担当の人は勿論ですが、夢愛を一人の人としてみて直すところや、課題点をしっかりと言ってくれます。
夢愛は、名前を呼ばれて会場に出ていきました。行く前に、私にこういいました。
「お母さん、ありがとう。ここまで支えてくれて」
そんな、支えるだなんて……と私は息をのみました。
支えられていたのはこっちの方だ。と、夢愛に本音を言いました。夢愛は驚いた顔でこちらを見た後、
「何言ってるの? だって、お母さんが物語書いていっていったからやろうと思ったんだよ」と、夢愛は言って会場に行きました。
夢愛にはそう見えたのかも知れないと思いました。
私が夢を支えた素晴らしい親……というように。
しかし実際は、育児放棄仕掛け子供のことをしっかり見えなかったダメ親でした。にもかかわらず、夢愛は誠実に育ってくれて本当に優しく、前向きな子供になりました。子供が宝物。とはこのことなのでしょうね。
夢愛は会場に出て、話をしました。
途中、横から「え? 目が見えてないの?」、「障害者?」といった、差別するような言葉が聞えました。その言葉は何度も夢愛が子供の頃から聞かされていた言葉でした。
夢愛が小さいとき、其れは私にとって呪いのようなものでした。
私という人間が可哀相な人間。とでも言われているような気持ちになるものでした。でも、今ではそんなこと気にしなくなりました。
夢愛は会見で言いました。
「私は目が見えません。一人では、物語を書けません……」
会場はざわめいていたと思う。
「しかし、支えてくれる担当のかたや読んでくださる皆さんからのお手紙、そして何より、支えてくれたお母さん。皆がいたからこそ、私は物語を書けました。私は支えられて生きている、こんなにも優しい人に……だから、私はこの感謝の気持ちを忘れず、これからも誰かのために物語を書いていきたいです」
と、夢愛は言い終えてお辞儀をしてこちらに戻ってきた。
物語がかけることは、普通じゃない。そして、支えられながら生きている。と夢愛は言った。私は返ってきた夢愛を抱きしめました。
「痛いよ……お母さん」
最後の夢愛の言葉は、障害で苦しむ子にも元気や希望を与えれたと思う。もう、立派な物書きだ。
私は夢愛が誇らしくて彼女を力一杯抱きしめました。
もしあの時、娘としっかり向き合っていなかったら。
もしあの時、娘の夢を応援しなかったら。
夢愛が夢愛らしく生きるために、親として子供に愛情を持って向き合っていかなければなりません。そこに愛がないのなら、きっと子供は悲しい思いをずっとし続けると思います。
私の子供は障害を持って生まれました。
私の子供は、私を親の顔を見ることができません。そして、自分の父親は既に生まれたときには居ませんでした。
見えないのは不便か。
そうではないと思います。見えなからこそ感じられる世界、そしてより多くのものと触れ合おうとする気持ちがわくと思います。
そんな子供と、親はどう向き合っていくかです。
私は、障害を持った子を産みました。目が見えません……ただそれだけで、彼女を遠ざけていた時期がありました。今では、本当に恥ずかしくてたまりません。
私は、これから夢愛としっかり向き合い、彼女を全力でサポートしていきます。親として。
私の宝物の夢愛、産まれてきてくれてありがとう。
私と娘の透明な壁 兎束作哉 @sakuya0528
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