第4話 恐怖
幼稚園に入り、もう夢愛は年長になりました。その頃には、夢愛はできることは一人で何でもするという子供になっていました。
まあ、それでも誰かが手をかさなければならないことはあります。
しかし、家にあるクレヨンの色は何故だかもう覚えてしまっているようで、「お母さん、何色とって」と言わなくなりました。
夢愛は、目が見えないので、聴覚に優れていました。多分、見えないぶん、聞いて取り入れようと思ったのだと思います。そして、一度でも触れたものは忘れない、凄い記憶力も兼ね備えていました。
数年のうちに、こんな凄いものを習得していたのだと思うと、やはり子供の成長には驚かされます。
しかし、夢愛とスーパーに買い物に行った時です。
あれは、帰り道だったと思います。信号待ちに知り合いにあったもので夢愛から目を離し話に夢中になっていると、いきなり夢愛が消えました。
「夢愛?」
夢愛は赤信号の横断歩道を渡ろうとしていました。多分、早く帰りたかったからだと思います。夢愛は小さくて、運転手には見えていないようでした。
私は、夢愛を抱き寄せました。間一髪のところで車が通りました。
もし、私が気づかなければ夢愛は……
私は夢愛の体を揺さぶり、怒ったと思います。
その時の記憶は曖昧でしたが、何て恐ろしいことをするのだと、正気か。など思ったんだと思います。
夢愛は、何度も謝りましたが、こちらを向いていません。自分のやったことが悪くない何て言っているように見えてしまい私はさらに夢愛を怒ったと思います。
「何で分からないの! 危ないでしょ!」
「ごめん……なさい」
夢愛はとうとう泣き出しました。
周りに居た人の目も私達に集まり、私は恥ずかしくなって夢愛を連れて家に帰りました。それから、家に帰って怒っていたと思います。記憶にないのでなんとも言えませんが。
でも、我に返って考えれば目の見えない夢愛は何で怒られているか分からなかったと思います。それに、真っ暗な視界の中に聞える大人の怒鳴り声に怯えていたと思います。
見えないのに得体の知れない何かが自分に迫ってくるのですから、そりゃあ怖かったと思います。
怖い。
それは夢愛にしか分からなかったと思いますが、もし私だったら耐えられないと思います。なのに、私は夢愛を叱りました。恥ずべき行為です。見直すべき行為です。
夢愛はそんな恐怖に耐え、私に必死に謝っているのだと思うと、なんだか情けなく、自分が惨めに見えてきました。
虐待。
そう言われても可笑しくなかったかも知れません。寧ろ、言われて直すべきだったかも知れません。
私はまだ、夢愛のことを心から好き……じゃなかったのだと思います。
親として叱るのではなく、他人として危ない行為をした子供を叱る感覚だったと思います。もっと酷いものだったかも知れません。
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