第6話 いつまでも貴方と一緒
◆◇◆◇◆
――――、これは酷い。
と野次馬が集まって、口々に言う。肉の塊になった、ハナちゃんを、俺はただ呆然とみることしかできなかった。遠くから救急車のサイレンの音が聞える。
ハナちゃんの身体に触れようと、手を伸ばした瞬間彼女の身体から芽が出ていることに気がついた。『葬送華』。ハナちゃんの身体は消え、衣服と白い花だけになってしまった。
見覚えのある白い花。日光を好むその花の名前は「アングレカム」。
葬送華は、死人の最期の言葉だ。大切な人に送る最期の言葉、花。
彼女が脳内で話しかけてくるような気がした。
『死神さんと一緒にいても死なないので』
彼女の笑顔を思い出す。
「……嘘つき」
僕は、アングレカムを手にとって抱きしめた。頬を伝って熱い何かがこぼれ落ちる。甘く爽やかな香りを放つアングレカムは、とても美しく、寂しげで、何かを伝えようと必死に咲いてる。慰めようとしてくれている。大丈夫だよってハナちゃんの声が聞えてくる気がする。
アングレカムの花言葉は、『いつまでも貴方と一緒』。
それが、ハナちゃんの最期の言葉だった。
僕は、涙をぬぐい膝をつき立ち上がる。すっかり日は落ちてしまっていた。到着した救急車のサイレンはけたたましく鳴っていた。
僕はフードを被り、アングレカムを握りしめ暗闇へと足を進める。
「ぼくはやっぱり『死神』なんだ」
一輪の白い花は、死神の手によって大切に育てられている。枯れないように、君を忘れないように。
死神の華 兎束作哉 @sakuya0528
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます