第5話 感謝
◆◇◆◇◆
死神の事がよく分かってきた。そりゃ、まだわからないことが多いけど、ちょっと寂しがり屋なところとか、隠したいことがあると、フードをかぶることとか。以外と、甘いものが好きだったこととか。一ヶ月一緒にいるとわかることが増えてきた。そんな、死神を私は目で追っていた。
時たまみせる、本当の彼の笑顔。道化とか、寂しそうな笑顔じゃ無くて無邪気な子供のような笑顔。年は三つ離れてて、死神は成人男性だけど。私はそんな死神に惹かれていた。
勿論、店のガラスケースの中の葬送華にも。葬送華を見るたび、胸が締め付けられる同時に、これほど美しい花は無いと、何時間でも見ていられる。時間を忘れ、客がきたのも気付かないぐらい惹き付けられる。魔性の花。
「ハナちゃん。買い出しに行こうか」
「はいっ」
死神に名前を呼ばれ私の心臓はビクッと跳ね上がった。高鳴る胸をさえ、呼吸を整える。死神を見つめているのがバレたら、またからかわれる。
「どうしたの? ハナちゃん。顔赤いよ?」
エプロンを脱ぐのに手間取っていると、いきなり死神の顔が目の前にヌッと現われた。長い白い前髪からのぞく綺麗な金色の瞳は私をうつし、照明の光をうつし輝いていた。童顔であるが、とても整った顔。
私の額に手を当て、熱が無いか確認する死神。さらに、体温がグッと上がっていき、頭が沸騰しそうになった。
「あついけど、大丈夫? 熱、ない?」
「あー! ありません、大丈夫です。さ、買い出しに行きましょ!」
私は、両手で顔を隠しながら後ろへ下がり裏返った声でそう叫んだ。
死神は「変な、ハナちゃん」と笑いながら、先に出てるよと店を出て行った。ああいう所が、するいよなあ。と私はその場でへたり込んだ。
買い出しはいたって普通だった。メモを片手に近くのスーパーに行き、籠に野菜やら肉やらを入れレジを通る。それから、余ったお金で最近出来たパンケーキ屋にいった。
甘いものが大好きな死神は、目を輝かせながらクリームがたっぷりのったパンケーキを頬張っていた。保冷剤をもってきたけど、肉が腐るといけないから、私達はそのことに気付いてからは急いでパンケーキを平らげ店を出た。
丁度夕暮時で、ビルの谷間に赤い、赤い夕日が沈みかけていた。黒いアスファルトに長い影が伸びる。
「さっきの、パンケーキ美味しかったですね。またいきたいです」
「ハナちゃんも甘いものいける派の人? 嬉しいな。うん、またいこーね」
と、帰り道他愛も無い話をして歩いた。歩きなれた道も、死神と歩くと特別に感じられた。
お父さんとお母さんが死で、学校を休んで、死神と花屋を切り盛りして。普通の日常とはかけ離れているけど、確かにそこに幸せはあった。大好きな花に囲まれて、ちょっと気になる人と働けて。生きていて良かったと思った。
あの時、死を選ばなくて良かった。死神が助けてくれて良かったと。感謝してもしきれない。
そんなことをぼんやり考えていると、死神が私の名前を呼んだ。
「ハナちゃん、信号青になったよ」
先を行く死神の後を追うように私は一歩踏み出した。すると、遠くから鼓膜が破れそうなほど大きなクラクションが鳴った。大きなトラックがいきなり突っ込んできたのだ。確か、反対側は、赤色で。
「死神さん、危ないっ」
ドンッ……、似たような光景が頭をよぎった。お父さんの顔。
私の視界は真っ白になった。
『私が死んだら、どんな花が咲くんだろう』
死神……さん、大切に育ててね。
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