第13話 ゲームなのっ。

 夕花がハイテンションになっているなか、僕はみんなのコメントに対して怒りを露わにする。

「エッチの対象にすんなよ」

 低く唸ると、コメントが勢いづいていく。

《今更なに?》《有名税有名税www》

「は。有名だからなに? だったら何を言ってもいいわけ? 有名人に人権はないの?」

《別にいいじゃんwww》

《ジョークジョークwww》

「何言っているの? それで傷つく人がいるんだよ? 人を傷つけるのって正しいの?」

《何必死になっているの?www ワロスwww》

「それで人が死ぬんだぞ。分かっているのか? くそ野郎ども」

 僕は吐き捨てるように言うと、夕花が配信を止める。

「なんだよ。止めるな」

「炎上しちゃうよっ。こんなの望んでいないよっ」

「……ごめん」

 ポタポタと涙を零しながら夕花は声を上げる。

「夕花、ホントは汚い人間なのっ。エッチぃことで稼いでいるのっ」

「それは……」

 悪いこととは言えなかった。

 夕花の家は神社だけど、そんなに儲かっていないらしい。信仰心が薄れていくし、少子化が顕著に表れているらしい。

「でも夕花、嬉しかったっ。ふーまるに愛されているものっ」

 嬉しそうに身体を絡めてくる夕花。

 夕花のスマホが振動する。

「バイブじゃないよっ!?」

「分かっているから、出て上げなさい」

「マネージャーからだっ!?」

 スマホを手にした夕花は少しおっかなびっくりで話を聞いていた。

 ええと。大丈夫かな?

「はい。はい。すみません」

 いつもの覇気がなくサーッと青ざめていく夕花。

 そしてブツッと切れる電話の音。

「炎上、しちゃったっ。てへぺろっ!」

「ええ……それってマズいんじゃないの?」

 なんでそんな平気そうなのさ。

「で、でもっ! 注目度が上がっているってっ!」

「ん。まあ、バズと実質は変わらないけど……」

 炎上は悪い意味で注目されているけど、バズなら良い意味で注目されているからね。実質似たような動きをする。

「そ、そう! バズっているんだよっ!」

 目を輝かせて僕のポジティブシンキングに乗る夕花。

「だって、カラフル先生が純粋すぎるって内容だから――っ」

 血の気が引いていくような顔をする夕花。

「ん。なんで夕花ががっくりしているのさ?」

「だって、夕花が汚れているみたいな意見が――。あっ!」

 僕に気を遣ったのか、言葉を途中で止める夕花。

「そうなのか? でも夕花は夕花だよ」

「んっ。ありがとっ!」

 僕が事実を言うと、夕花は照れくさそうにはにかむ。

 ちょっと顔が赤い。

「大丈夫? 熱ある?」

 僕は熱を測るため、彼女のおでこを近づける。

「いや、そういうのじゃないのっ!」

 さらに赤くなる夕花。

 おや? この反応は……?

「でも、そんなことないよね?」

「なんの問い?」

 僕が呟いたことに疑問を覚える夕花だった。

 僕たち幼馴染みで家族みたいなものだし。意識するのはなんだかちょっと違うよね。

 やっぱりさっきの反応は気のせいだね。

 うんうんと頷いていると夕花は怪訝な顔をする。

「……暇なら、夕花と遊ばないっ?」

「え。ああ。いいよ」

「やったっ!」

 夕花はあぐらをかく僕の膝元に腰を落ち着かせる。

 ほ、ほわぁぁぁぁあぁっぁぁぁ!

 な、何してくれちゃっているのさ!?

「こんなに密着したら、いろんなところが触れちゃうよ!?」

「いいのっ。触られるの、好き……だしっ」

 はぁぁっぁっぁぁ!

 夕花の奴、どうしたんだよ。まるで僕のことを意識しているような。

 いや待て。最近、僕は一ノ瀬と一緒にいることが多かった。

 だから寂しい思いをさせていたのかもしれない。

 そうだよな。僕以外に幼馴染みいないものな。

 昔からそうだった。

 僕の後ろをついてくるような、いじらしいのが夕花だった。

 少し甘えた声も、弱気で内気な彼女らしい姿と言える。

 うん。前からは成長して、友達もいるし。と安心していたけど、気を張る子ではあったね。

 そのストレスに気がつかないほど、僕はダメダメになっていたのかもしれない。

「ほら。大丈夫だよ。夕花ちゃん」

 そう言って僕は彼女の頭を撫でる。

「ふぇっ!?」

 昔はよくこうしていたっけ。

 懐かしむ思いを味わいながら、彼女の頭を撫でる。

 心地良い時間だね。

 ピコピコとなっているゲーム画面が激しく震えている。

 ん? 夕花?

「も、もうしかたないなっ! 撫でられてあげるっ!」

 でれーっと嬉しそうに顔を破顔させている夕花。

 可愛いなっ! でも妹みたいな感じなんだよね。

 距離が近すぎるというか。家族みたいな感じがするよね。

 でもあの事件以来避けていたようにも思えたけど。

 撫で続けると、夕花はどんどんとろけていっているように思える。

「そろそろゲーム始めようか?」

 僕が提案すると、惜しむようにか細く声を上げる夕花。

「む。しょうがないのっ」

「それで何をするんだ?」

「んっ。乱〇パーティっ」

 突然の下ネタに僕は吹き出す。

「間違えたっ。乱闘パーティ」

「お、おう……」

 間違えるのだろうか? いや間違えるに決まっている。

「どんなゲームなんだ?」

「いろんな乱〇、乱闘が行えるのっ。楽しいよっ!」

 なんでさっきからちょいちょい下ネタを挟むのさ。

 まるで変態みたいじゃない。大丈夫かな、夕花。

「さっ。やろっ?」

「え……」

 黒髪を揺らし、不思議なものを見るように首を傾げる夕花。

「ゲーム、しないのっ?」

「う、ん。やる」

 何を期待してしまったのか。

 これじゃあ、本当に童貞じゃないか。童貞なのだけど。

 一ノ瀬の言う通りでなんだか悔しい。

「じゃあ、最初にキャラを選んでっ!」

「うん」

 僕は画面を見て、キャラを選ぶ。

 どれがいいのかな。

 おっ。このイケメンいい。

 小麦色の肌に、金髪オールバック。サングラスをかけたキャラを選ぶ。

「いつも思うけど、ふーまるのセンス謎だよねっ」

「え。そう? 格好いいと思うのだけど?」

「そうだねっ。でもふーまるは可愛いが似合うと思うんだっ!」

 男にとって『可愛い』はマイナスなイメージだけど、彼女は本気でそう思っているみたい。

「そっか。ありがと」

 そう返すと、満足そうに頷く夕花。

『始まるよ~』

 気の抜けそうなボイスが再生されて、いよいよゲームが始まる。

 ミニゲーム各種があり、そこからランダムで選ばれたものを競うモードと、協力プレイができるモードがある。

 僕は迷わずに協力プレイを選択する。

「夕花ちゃんとは争いたくない」

「きゅんっ♡」

 夕花の中で何かが弾けたみたいに身体をビクッと跳ね上げる。

 何が起きたのか分からずに困っていると、夕花が続きを促す。

「やるのっ!」

「うん」

 僕は画面を見て操作を確認する。

 Aボタンで落ちてくる果物をキャッチ。Bボタンで落ちてくる虫を跳ね飛ばす。

 というゲームらしい。

 落ちてくるものが何かを瞬時に判断し、ボタンを間違えずに押す。

 それだけの簡単なゲームだ。

「これなら余裕、余裕!」

 ちなみに二人で百点を獲得したらクリアになるらしい。

「え。でも、難しいよっ?」

「そうなの?」

『レッツゴー』

 音楽が始まると同時にゲームが開始される。

 落ちてくるものを見極める。

 それだけのゲームなのに、ボタンは間違えるわ。タイミングが合わないわ、で苦戦を強いられる僕たち。

 そのうち、段々とペースが速まっていき、落ちてくるものを見ている余裕もなくなる。

「うそでしょ!?」

「難しいのっ」

 時間がくると、僕は持ち点をみる。三十点。

 マズい。

「夕花がなんとかしてあげたのっ」

 七十二点をとった夕花が自慢げにどや顔をしてくる。

「うん。夕花ちゃんのお陰でクリアできたよ。ありがと」

「よっしゃ――っ!」

 夕花はガッツポーズをとる。

「ん。なんでもない」

 嬉しがっていたのが恥ずかしかったのか、すぐに手を引っ込め、冷静になる夕花。

 そういったところも可愛いんだけどね。

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