第12話 VTuberのティアラだよっ!
放課後。
僕は一人、家庭科の授業のお手伝いをしていた。
レシピのコピー、材料のチェック。
それくらいだけど、人数が多いからチャック項目も自然と増える。
メニューはクッキーらしい。
オーブンの使い方、注意点。
難しくはないけど面倒な調理実習。
一人暮らしをして分かるけど、こういったことは重要なのである。
毎日のように一ノ瀬さんに料理を作っていたけど、彼女は仕事で東京にいる。
まだ学生ということもあるし、仙台でもリモートワークでオーディションは受けられる。
だから、未だに地元に残り続けているらしい。
なんでそんな面倒なことをしているのか分からないけど。
家庭の事情があるとは聞いている。
まあ踏み込めないけどね。
スマホが振動し、僕は手にする。
画面を見てみると、【
「もしもし、どうしたの? 夕花ちゃん」
『もしもし? ふーまる? 一緒にしたいことがあるのっ!』
「したいこと?」
僕と何をしたいんだろう。
幼馴染みだけど、あの事件以降はあまり会わなかった。高校で再会したけどね。
でもだから、今彼女が何をしているのか、分からないんだよね。
趣味とか聞くとなんだか、こっぱずかしいし。なんだかお見合いみたいだし。
その趣味に付き合わされるとは思ってもみなかったけど。
「さてさて。今日は小説家の〝カラフル〟先生に来てもらいました!」
《カラフル?》
《あのブイトリの?》
《まっさかー!》
だからVTuberをやっているなんて知らなかったよ。
先ほどから3Dモデルを動かす夕花に見蕩れてしまった。
配信を開始してからやけにコメントが多い。
Vのモデルはロリっ子だった。
長い黒髪に、あどけなさを残した端正な顔立ち。猫耳のカチューシャに、全体的に幼い身体つき。
これがVTuberの外側、つまりガワである。
VTuberはそのガワを使い動画を配信する者のことである。
声が可愛らしいからか、同時接続数が十万を超えている。
ゲストで僕を呼んだことも大きいらしいけど、関係のない話だった。
だって動画なら一対一とほぼ変わらないから。
「こんシコわ~♪
それが挨拶らしい。
それにしても源ティアラか。僕は初めて書いた作品のヒロインと被っている。
《こんシコわ》
みんな同じことをコメントしている。
なんだか、下ネタを言っている夕花を初めてみるのだけど……。
「今回お呼びしたカラフル先生はあたしの知り合いなのです♪」
ハキハキとした声でハイテンションな夕花。
ちょっとドギマギしながらコメントを見る。
《相変わらず可愛い声》《天使ボイス、癒やされる》《これでどぎつい下ネタってマ?》
様々なコメントが流れてくるけど、やっぱり声も可愛いんだよね。
「初めての男性ゲストですよ♪ これからカラフル先生を骨抜きにしちゃいます♡」
《なんだ。こいつ》《メスの声だしやがって》《カラフル先生裏山》
流れてくるコメントが激しさを増していく。
「もうカラフル先生なしじゃ生きられない身体になっちゃった♡」
《マジモンじゃないですか》《カラフル先生の小説すごいからな》《カラフルまじ〇す》
いやいや、ヘイトがこちらに向かっているじゃないか。
「もう、みんな~。カラフル先生をいじめてはダメですよ♡ いじめていいのは、あ、た、しだけ♡」
「いや、何を言っているのさ? 僕は別にいじめられていないよ」
《先生、まぶしすぎ!》《いじめられるの裏山》《こんな美少女ならいじめられてもいい!》
「みんな感覚がおかしいんじゃないですかね? この子はそんなことできませんよ」
「ちょ、ちょっと! カラフル先生。こう言ったキャラなんです♪」
終始明るく務める夕花。
「そんなことしなくても、普段から可愛いよ。なんでキャラ作るのさ」
「ふぇっ!?」
「ほら。可愛い」
「も、もう! ばかぁ」
ぽかぽかと叩いてくる夕花。
「はいはい。分かった、分かった」
僕は彼女のバイオレンスな部分も受け入れる覚悟がある。
《ティアラちゃんの暴走www》《これは可愛いwww》《さすがww》
「もう。カラフル先生のせいで変な気持ちになったじゃない♡」
《さすがエロスの権化》《転んでもただではない!》《ふふ。〇ックス》
「なあ。こんな売り方、止めないか? 僕はティアラが傷つくの悲しいよ」
「ふぇ! 止める」
《即断でワロスww》《何勝手に止めさせようとしているんだよ》《サイテー》
流れるコメントの中には攻撃的なものもある。
先ほどから、ちらほら見える批判の声。
価値感の合わないもの同士がぶつかり合っている。
これじゃあ、夕花のためにならない。
僕はありのままな夕花が好きなんだ。
「で、でも。下ネタ言うあたしも、本物、だよ……?」
「このむっつりスケベ」
「あん♡ もっと言って♡」
いやいや本当にこんな
《本音で草ww》《草刈り機はどこだ?》《真面目なのか、ネタなのか分からねー》《このティアラって可愛くないじゃん》
「なんだと! こら!? 可愛いだろ!」
僕が声を荒げると、コメントの流れが変わる。
《はいはい。可愛い可愛い》《カラフル先生こわww》《情緒不安定かよ》
「僕はどう思われてもいい。でもゆう、ティアラには幸せになって欲しいんだよ」
「わ、分かったのっ」
顔をまっ赤にして黒いショートヘアを揺らす夕花。
「さ、さあ。今日はカラフル先生と一緒にメロンゲームを始めるよっ♡」
メロン……。
僕は夕花の胸元に目がいく。
「確かにメロンだ」
「? なんの話?」
目を丸くする夕花。
「いや、なんでもない。このゲーム、メロンにするのかな?」
「まさか、カラフル先生はご存じない? じゃあ、初体験だ♡」
《初体験(ゲーム)ww》《カラフル先生遅れている》《いかがわしいことなんてなかった》
みんなの意見がなんだか生暖かくなってきた気がする。
メロンゲーム。
それは同じ果物を集めて、どんどん大きくしていく新感覚パズルゲームだ。
初めて触った感触は簡単に思えた。
だが、このゲームやりこみがすごい。
たくさん集めれば集めるほど点数が高いのはもちろん、連鎖をたくさんするのも高得点なのだ。
そして夕花は高得点の出し方を理解している。
初めてやる僕に対して容赦のない夕花。
負けるのは必然。
「うへ~。難しいな……」
「ふふーんだっ。あたしには勝てないでしょう?」
ニタニタと笑みを浮かべている夕花。
「うん。お手上げだ」
「これにはコツがあるのよ。コツが。シコシコするのよ!」
《イミフwww》《それ下ネタやん》《カラフル先生が困っている》
「何言っているのかな!?」
僕は勢い余って夕花にツッコミを入れる。
「ツッコむなんて、いやらしい~♡」
「いや、僕が悪いんかい?」
《やべー奴》《さすが俺らのティアラちゃん》《一緒に寝よ?》
「いいよ♡ ガワだけなら」
セクハラ発言にも屈しない、それどころか乗っかる夕花に半分呆れる。
本当に夕花がやっているのか? と思いたくなる。
だってあんなに黒髪が似合っていて、巫女服が板についているのに。
こんなに違いのある幼馴染みだとは思わなかった。
「同人誌でメチャクチャにされているしね……」
陰りのある声で呟く夕花。
あー。同人誌ね……。
「ははは。でも愛されているんだね。ティアラ」
「そ、そうなのっ! すごっくエッチで可愛いイラストだったのっ!」
テンション高いなー。
夕花がテンション上げるところ、あんまり見たことないけど。
「カラフル先生からも愛されているといいな~♪」
《メスの声だ》《このガキ分からせないと》
なんだ。このコメントは。
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