WEB作家×ポジティブな僕は清楚系声優×毒舌ヒロインとエロスVTuber×幼馴染み巫女ヒロインに愛されています。時折元歌手の地下アイドル×貧乏先輩ヒロインがせびってくる。
第8話 気持ちの変わるとき ~一ノ瀬小夜side~
第8話 気持ちの変わるとき ~一ノ瀬小夜side~
わたしがアニメの台本を読み込んでいると、ドアの向こうからノックの音が聞こえる。
こんな時間に神童貞クンがやってくるなんて珍しい。
というか初めてだ。
もしかしてわたしで童貞を捨てる気になったのかな?
そうだと嬉しいな。
童貞って何度も呼んで意識させていたし。
「今、いい?」
やっぱり夜這いじゃない!?
きゃーっ!
「いいよ?」
上擦った言葉を返すと申し訳なさそうに扉を開ける神童貞クン。
その顔はどこか覇気を失っている。
もしかして童貞であることが恥ずかしいとか思っちゃったのかな? お姉さんなら自信をつけてあげるよ!
「どうしたのですか? 神童貞」
「いや、こんなこと頼める間柄ではないだろうけど……」
キタキタキタ。
キタ――――――――――――――――――――ッ!!
やっぱりこれは夜這いよ。夜這い!
わたしの夢を達成する時が来たのね。
あ。女の子だって性欲はあるんだからね?
「そう、難しい問題なんだ」
「そんなに難しく考えることでもないですよ? 自分の心に従ってみては?」
わたしは押し倒されるのを夢みていた。
最近は下着も可愛いのを選んだから見られて恥ずかしくはない。
心の中でそう呟いたけど、ちょっと恥ずかしい。だってわたしも処女だし。
少し不安はあるものの、彼なら許して預けてもいいと思っている。
それにこれで晴れてカラフル先生の彼女になれる。
彼だって責任感は強い。
なら今回のこともちゃんと責任をとってくれるだろう。
「それで、あの……。一ノ瀬さんならサリーとユーリのどっちが活躍して欲しい?」
「……え?」
「あ。いや、今SNSでアドバイスを求めているみたいだから、その答えを知りたくて」
あの作品〝ブイサイハイブリッドトリューバー〟のメインヒロインとサブヒロインじゃない。
でもあの神作品をわたしの勝手な一存で決める訳にはいかないじゃい。
わたしはどうしようもなく、彼のファンなのだ。
だったらそんなこと言えるはずもない。
彼が何に迷っているか分からないけど、そんなのファンに尋ねるべきじゃない。
ましてや、ファンにその進路を決める権限なんてありはしない。
わたしが読みたいのは彼の描いた物語だ。
わたしの意見じゃない。
「どうして? どうしてそんなことを聞くの?」
ツーッと流れ落ちていく涙。
「いや、嫌ならいいだ! 無理言ってごめん」
「SNSでアイディアを募集するの、止めた方がいいです」
「そうなの?」
なんにも分かっていないという顔で応じる神童貞クン。
それがわたしを苛つかせた。
「何よ。それ。なんであんたはそんな大切なこと、読者に委ねようとしているのかな?」
すっと冷たいものが身体に流れ込んできたような気持ちになり、唐崎を
未だに理解していない彼に嫌気がさしてくる。
あれだけ書けて、あれだけ理屈をこねて、あれだけ心理をついてきたのに、目の前の男の子はまるで子どものような無邪気な顔をしている。一人の男の子みたいに。
それがどれだけわたしを傷つけたのか、どれだけすがってきたのか、きっと彼には分からない。
わたしの気持ちなんてこれぽっちも分かっていない。
「バカなの? 童貞、あなたの言っていることがどういう意味だか、分かっている?」
「そ、それは……」
視線を逸らし、口ごもる唐崎。
「あんたは自分の作品の子どもらを殺そうとしているんでしょ? そんなの許すわけないじゃない。許せないわよ」
わたしはつい語気を強めて言った。
言ってしまった。
もう後戻りはできない。
わたしが抱いていたカラフル先生の面影はどこにもない。
あんなに美しく、そして的確な描写をするほど、綺麗な心を持ったカラフル先生が。あんなにキャラが立っていて、全然ぶれないほど、理解の深いカラフル先生がこんなにも落ちぶれるなんて。
それがわたしにとっては許せない。
その暴挙をこれ以上許せない。
「わたしはあんたに最高の作品を書いてもらいたいだけよ」
「……僕は」
何かを言いかけてとどまる唐崎。
「何よ。言いたいことがあるのなら、言ってみなさいよ」
じっと睨むと、彼はさーっと血の気が引いていくのが分かった。
「ごめん」
それだけ言って部屋に戻る唐崎。
わたしには逃げているように思えた。
わたしが悪いの? 彼じゃなくて?
少しの罪悪感を誤魔化すように胸中で呟く。
無為な感情を振り払うように首を振って、やるべきことに注意を向ける。
「台本チェックしないと」
明日は土曜日だけど、声優には関係ない。
個人事業主として声優事務所にはご厄介になっているけど、基本対等な立場。加えて労働基準法から隔絶された声優界。裏話はいくらでもでるけど、それも業界内では秘密裏にされているし、部外者に話すこともない。
そんなことをすれば契約違反になり、罰則・罰金といった刑罰がくだることもある。
前よりもクリーンな職場になったとはいえ、それでも情報漏洩がたまにある。鬱屈した気分を晴らすため、そんな言葉が聞こえてくる。
最前線で頑張っているわたしにも当然関係ないわけじゃない。
SNS、ネットという媒体が人の礼節さのハードルを下げているのだ。
たまに起きる不正や炎上さえもビジネスにする。そんな話も聞く。
ただ、わたしはそんなに軽くはない。
小説家にも色々とあるのかもしれない。
ふとそう思う。
もしかしたら、わたしの知っている話は一部で、唐崎もそれが分かっていて、あんな聞き方をしたのかもしれない。
でも夜這いしてくれなかったり、自分の作品を他人に投げかけたり、その気持ちは理解できない。ムカつく。苛立つ。
「もう。なんでこんなにムカつくのよ」
そう言って自分の台本に目を落とす。
きっとこの子の声を任せられたのは理解が深いから。
この子の代役を誰かに立てるとなれば、自分が演じられない怒りがこみ上げてくるだろう。
彼も、唐崎も同じじゃないの? 自分の任せられた世界で、子で、それらが生きている世界でなんで彼はわたしに意見を求めてきたのさ。
そりゃわたしだって気になるよ。続き。
でも、それはファンとしては許せない。
「もう。こんなにわたしの心を乱して……」
苛立つわたしは手を震わせて台本にチェックをいれていく。
ちなみに防音対策のされた部屋なので、少しくらい言葉を発してもいい。
アニメの台本を手にし、少しセリフをそらんじてみる。
なんだか違う気がする。
わたしカラフル先生の繊細な表現と大胆な文章に惹かれたのに。
本人は意外と雑でポジティブ思考だった。
彼のそんなところは長所だと思うけど……。
でもわたしは否定する。
あんなのカラフル先生じゃない。
わたしを救ってくれた人じゃない。
みんなに希望を与えてくれるのがカラフル先生だ。
唐崎は違う。こんなに苛立たせるのだから。
「怒りよ。収まれ」
アニメ【心は甘いお砂糖です】の台本を握りしめる。
通称【ここさと】。
オリジナルアニメーションで、アニメにするさいに特別に書き下ろしたストーリーで、原作がないからこそ
監督は
ちょっとイヌっぽさを思わせる性格と、理解力に優れた人。
甘い展開とドキドキさせる展開。
まるでわたしが持っていないものを持っている、そんな監督が描く作品。
面白くなるわけだ。
ストーリーを考える人はみな自分で選択し、自分で責任を負う。
それがプロの心構えだと思う。
そうでなければ、尖った作品も、世界を認めされるころもできないのだから。
わたしはわたしの認めた相手にしか、本心を見せない。言うつもりはない。
彼はもう知らない。
認めたくない。
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