第3話

ある人、松虫の、聞きたれば、よみける


続松ついまつし しも待つほどに たまつさ果て 松影揺らし 我が身ぞ隠せ


 ◇


――かの昔男と女君のように……、

続松ついまつの消し炭を筆に変えて、あの方と恋を詠み合わせたものです。

私の詠みかけた上の句に、あの方が末の句をつけて返してくださるのを心待ちにしておりました。

けれど、便りは果てて……。

いっそ、いづくか、清げな浜辺にでも行ってしまおうかしら。

そして、そこに生うる松を映す、静かな水面に、我が身を……。


 ◇


――――

松虫:「待つ」「松」にかかる。鈴虫のこと

続松:たいまつのこと。また歌かるたのこと。『伊勢物語』六九段 狩りの使ひに、男君と女君が消し炭(続松)で上の句と下の句とで互いに書きつけて詠み合うくだりに由来する

下待つ:密かに待つ、心待ちにする

たまつさ(たまづさ/玉梓):便り、消息

松影:松の木の水面などに映った姿


✽状況が一人か、皆のいる場かで、彼女の今後が決まるでしょう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る