101 ざまあみろ
セティは巨体から槍を抜くと、宙に跳んだ。
あれほど荒れ狂っていた吹雪はすでに収まっている。地面の雪も消えて、石の床が見えていた。
空中で逆さまになって、セティは
「
セティの肩から、小さなコオロギが跳ねる。コオロギは
「くらえ!」
次の瞬間、セティはその反対側に着地する。そのまま無防備になった
「俺は完璧な
信じられないように、
「知識に完璧なんてない! だから俺は成長するんだ!」
セティは一瞬ためらってから、それでも唇を引き結んで、
◆
「あーあ、終わっちゃった」
床に膝をついたサンキエムが、つまらなさそうに呟いた。
「ええ、あなたの目論見はもうおしまい。だから……」
「だから、何? 僕に言うことを聞かせようっていうの?」
サンキエムはソフィーを睨みあげる。それから新しい
「
「まだ何かやる気!?」
ソフィーはサンキエムの右手を捉まえている
サンキエムは左手で握った短剣を自分の右手に向けた。傷つけられることを恐れて、ソフィーは
それよりも速く、サンキエムは短剣を両手で構えて、自分の胸を突き刺した。
「な……っ!?」
想像していなかった動きに、ソフィーは固まる。目を見開いて、サンキエムの胸から知識が黒い液体になって流れ落ちるのを、信じられない気持ちで眺める。
「どうして!? なんでそんなこと!?」
サンキエムはどうってことない顔で、ソフィーを見た。
「だって僕は
「だ、駄目!!」
ソフィーはサンキエムに駆け寄って、その両手を捕まえる。サンキエムは自分の手を止めるソフィーの手に逆らって、もう一度自分の胸を刺した。
ごぼり、とサンキエムの口からインクのような黒い液体が溢れ出る。
至近距離で、サンキエムはソフィーの顔を覗き込んだ。ソフィーの顔に浮かんでいる絶望の表情を見て、嬉しそうに笑う。
「中途半端に残って人間に使われるなんて最悪だし、そのくらいなら壊れた方が良い」
「そんなことない! 壊れた方が良いなんてこと、絶対ない!」
ソフィーがサンキエムの手から短剣を取り上げる。でももう、取り返しがつかないほどに知識は流れ出していた。ソフィーは大きく首を振る。
あはは、とサンキエムが笑う。
「ほら、目の前で
ソフィーは手にした短剣を取り落とす。もう手遅れだった。また
その涙をサンキエムは嘲笑った。
「ざまあみろ。お前なんか大嫌いだ」
そして、サンキエムの体がぼんやりと光る。もう姿を保っていられずに、閉じて
ひび割れた
「ああ……」
無力感に、ソフィーはその場に座り込む。体の力が全部抜けてしまったようで、動ける気がしなかった。
駆け寄ってきたセティは、半ズボンの裾を握り締めてただ隣に立っているしかできなかった。泣いているソフィーを前に、どうして良いのかわからなかった。
困った顔で視線をうろうろとさせて、セティは一生懸命に言葉を探したけれど、何も出てこなかった。それでもセティは諦めきれずに、ソフィーにかける言葉を探し続けた。
(顔をあげなくちゃ)
そう思うのに涙は止まらず、ソフィーは動くことができなかった。
何も言わないで傍にいてくれるリオンの存在が頼もしかった。懸命にソフィーと向き合ってくれるセティの存在が嬉しくて、愛おしかった。
「ありがとう……セティも、リオンも」
泣きながらのソフィーの言葉に、リオンはやっぱり何も言わずに、小さく肩をすくめただけだった。
セティはお礼の言葉に戸惑って何度も瞬きをした後に、やっぱり言葉は何も見つからなくて、リオンのようにソフィーの隣にそっと座った。膝を抱えて、ソフィーが泣き止むのを静かに待っていた。
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