92 焦りと後退
セティは焦っていた。
目の前の
ソフィーはサンキエムと対峙している。本当はセティだって、ソフィーを助けにいきたい。
けれどセティは
(悔しいけど、こいつは本当に完璧な
知識も、強さも、何もかもがセティと同じ。戦うときの動きも同じ。だからセティには
でも、それは相手も同じなのだ。セティの攻撃は軽々と防がれてしまう。
地面を転がって泥だらけになって、
「
目の前に現れた炎の翅に、
セティも
「
セティが、白銀に輝く槍を手元に呼び出せば、
「
セティと
(このままだと、お互い疲れて閉じるだけだ……なんとか、なんとかしなくちゃ……)
踏み込んでくる
なかなかつかない決着に、セティは焦っていた。
◆
ソフィーの目の前で、壊れた
その
サンキエムは
「また壊したね。これで幾つ目?」
その声に苛立って、それでも冷静でいなければとソフィーは息を吐き出した。
(このままじゃ、ただ
けれどソフィーには、有効な手立てが思いつかないでいた。
セティは近くで
二冊とも、だいぶ疲弊しているようにも見える。
(時間が欲しい。少し考えて、体勢を立て直す時間が……)
サンキエムは積極的にはソフィーを攻撃してこない。ソフィーの出方を伺って楽しんでいるのだろう。ソフィーと一定の距離を保って、手のひらで開いていない
そうやって余裕ぶっている様子は腹立たしいが、油断している今がチャンスとも言えた。
攻めあぐねて次の手を考えている振りをして、ソフィーはサンキエムを睨む。横目でセティの様子も観察する。
ソフィーはセティと
サンキエムと
「わっ!?」
咄嗟のことにセティは声を漏らしたけれど、ソフィーの表情を見てすぐに唇を引き結んだ。
水の幕を
「なあんだ、逃げたんだ。つまんない」
サンキエムは、ソフィーとセティの姿を探すように周囲のシダに目を向けた。ざわざわと葉が揺れているが、どこにふたりが隠れたかまではわからない。
「隠れても無駄だよ。この辺り一体を焼き払ったって良いんだから」
苛立つようなサンキエムの声。どうやらソフィーとセティを見失ってくれたようだった。
ソフィーはシダの葉陰で小さく息を吐くと、小声でセティに問いかけた。
「セティ、傷は大丈夫?」
「このくらい……表面だけだ、どうってことない」
セティは
蜘蛛の糸を巻いた腕を見下ろして、セティは悔しげに唇を噛む。
ソフィーも心配そうに、セティの傷を見ていた。
セティを傷つけてしまっていること。たくさんの
自分はサンキエムとは違う、
「たくさんの
ソフィーの悔恨の声に、セティは唇をあげて睨み上げる。
「それは全部サンキエムが悪いんだ、ソフィーが気にすることじゃない」
「そうだとしても……それでも、確かにわたしが壊した」
ソフィーはつらそうに眉を寄せて、セティの腕の傷を見ていた。その傷以外にも、セティの体には細かな傷がたくさんできていた。いつもは真っ白いシャツも泥に汚れてぼろぼろだった。真っ黒な綺麗な髪も、ぐしゃぐしゃだった。
ソフィーの瞳が揺れるのを見て、セティは悔しそうに唇を曲げる。泣きそうな顔で、しがみつくようにソフィーの腕を掴んだ。
「ソフィーがいつも
「え……」
思いがけない言葉に、ソフィーはぽかんとセティを見る。セティの瞳はわずかに潤んでいて、そして真っ直ぐだった。
「だから、ソフィーはちゃんと
セティは少し言葉足らずだった。それでもそこに込められた思いは、ソフィーに確かに伝わった。ソフィーの胸の奥に、セティの言葉が温かな光となって、灯った。
セティが「わかってる」と言ってくれる、
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