第六章 探索者(ブックワーム)と本(ブック)の少年
33 オリヴィアの店で
シジエムの
ソフィーは何冊かの
「いらっしゃい、ソフィー。今日は何?」
カウンターの向こう、いつものように明るい声でオリヴィアはソフィーを迎え入れる。いつもと変わらない様子に、ソフィーはほっと微笑んだ。
「この間の
「わ、ありがとう! 確認するね!」
ソフィーが三冊の
手持ち無沙汰に、ソフィーは髪をかきあげる。
「そういえば、今日は一人なの?」
「え?」
「ほら、セティくんだっけ。あの子、今日は一緒じゃないの?」
「ああ……」
なんて答えようかと、ソフィーはわずかに戸惑って、それから何事もなかったかのように微笑んだ。
「ちょっとね。今日は留守番」
「聞かれたくないんだろうけど、本当にどういう関係? 気になっちゃうなあ」
「わかってて聞かないでよ」
あはは、とオリヴィアは笑うと、顔をあげた。
「ありがとう。傷がちゃんと修復されてるし、すっかり綺麗。クレジットはいつもみたいに振り込みで良い?」
「それでお願い」
「で、さっそくまた傷物があるんだけど、ちょっと見てくれない?」
オリヴィアの言葉に、ソフィーは頷きかけて、小さく「あ」と声を漏らした。
セティはまだ閉じたままだ。引き受けてしまっても大丈夫だろうか。
「何? 何か問題でもあった?」
ソフィーは慌てて首を振る。
「ううん、なんでもない。傷物、見せてみて」
ソフィーはオリヴィアから傷物の
(セティはきっとまた開く。開いたら頼んでみよう。きっと大丈夫だから)
渋々だろうか、それともチョコレートのためなら張り切ってやってくれるだろうか。「俺ならこんなのどうってことない」なんて言うかもしれない。
そんなことを考えて、ソフィーはくすりと笑う。
「うん、修復できると思う。預かるね」
「いつもありがとう。
オリヴィアの言葉はいつものものなのに、ソフィーはそれにもうまく返すことができなかった。
ソフィーの微妙な間を感じたのか、オリヴィアは不思議そうな顔で大きな目を瞬かせた。
慌ててソフィーは微笑みを返す。
「
「まあ、そうだよねえ。気が変わったらいつでも教えてよ」
オリヴィアがいつも通りに返してくれることにほっとして、ソフィーは小さく肩をすくめてみせた。
「気が変わることはないと思うけどね」
「そりゃそうだ」
あはは、とオリヴィアは笑う。
「さてと、他に用事は? 何か買い取りとかする?」
小さい体をカウンターの上に乗り出して、オリヴィアはソフィーの顔を覗き込んだ。
不意にソフィーは、オリヴィアになら話しても良いんじゃないか、と考えてしまった。セティという特別な
(オリヴィアのことは信用してる……でも)
セティという特別な
少しためらってから、ソフィーは別のことを口にした。
「オリヴィアは、
「
ソフィーが持ち出した突然の話題に、オリヴィアは少し戸惑いながらも言葉を返した。
「そう、その
「どうして突然?」
「あ、ううん、深い意味はないんだけど。修復の知識に何か繋がりがありそうだなって思いついたものだから」
ソフィーの言い訳に、オリヴィアは小動物のように首を傾けたけど、いぶかしむような表情は見せなかった。代わりに、眉を寄せて渋い顔をする。
「修復と
手がかりにするには難しいかもね」
ソフィーは苦笑して、小さく首を振った。
「そうだよね。何か手がかりになったらって思ったけど、考えたら無茶苦茶だった。変なこと言ってごめんね」
「ううん。その辺の研究が進んで何か情報が入ったら、ソフィーにも教えるね」
「ありがとう」
オリヴィアはソフィーの顔を下から覗き込んで、笑顔を見せる。周囲がぱっと明るくなるような、そんな笑顔だった。
「少なくともさ、ソフィーは
そうじゃなくてももしかしたら、この先もっと研究が進んで、いろんな知識が再現できるようになるかもしれないし」
オリヴィアの精一杯の慰めに、ソフィーも笑顔を返した。
「うん、ありがとう。とりあえずは、こつこつと
「頑張ってね。良い
小さい体で目一杯手を振るオリヴィアに見送られて、ソフィーは店を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます