4 その題名(タイトル)は
無数の
「この
セティの声に、ソフィーははっと思考を中断した。
(そうだ、今は考えている場合じゃない。考えるのはあとでやれば良い)
「待って、今見つけるから」
ソフィーは
「
曖昧になった輪郭は一羽の鳥の形になり、光が収まったとき、そこには
「なんだ、それは?」
「
セティの視線には好奇心があった。ソフィーはその視線に見守られながら、
「こっちの方向」
鳴いている
「こっちにいるやつをぶっ飛ばせば良いってことだな」
「あ、待って。できれば
ソフィーの声に、セティは唇を尖らせた。
「なんでだよ。ぶっ飛ばせば良いんじゃないのか?」
「無傷で手に入れたい。わたしたち
「お前の事情なんか知らない。命令なんか聞かないって言っただろう」
ふい、とセティが顔をそらす。ソフィーは額に手を当てて、この状況をどうしようかと考える。
「ええっと、そう。セティ、あなたさっき
「
セティは手をひらひらさせる。無数の
ソフィーは慎重に頷いた。
「すごいと思う。それって、例えば傷がついて壊れた
ソフィーの言葉に、セティはきょとんとした顔をした。何度か瞬きをする。それから、口元に手を当てて小さくうつむいた。
「考えたことなかった……でも、食べるときは開いてないと食べられない気がする。壊れた
「残念ながら」
ソフィーは大げさに首を振る。
「開くことができないから、壊れてるって呼ばれるの。つまり、セティは、壊れてない
こくりと、セティが頷く。
「そう……なるな」
「じゃあ、この
「それは、そう……だけど」
セティはソフィーを見上げた。その表情は、年相応に幼く、頼りなさそうに見えた。
「でも! 無傷で捕まえるって、どうやったら良いんだ?」
ソフィーはセティを安心させるようににっこりと笑う。
「それはわたしがやる。わたしは
セティは少しだけ悩む様子を見せたが、すぐに元の生意気な表情に戻った。
「わかった。じゃあ、それはお前に任せる。俺は、こっちの氷を壊せば良いんだな」
「そうだね。わたしが通れるくらいの隙間が開けば、
「失敗したら許さないからな」
「わたしにも
ソフィーは髪を搔きあげて、氷の壁の前に立つ。
セティは右手を頭上高く持ち上げた。
「集まれ!」
声に反応して、無数の
そして最後の一匹が吸い込まれるように合流したとき、セティの頭上には人の大きさほどもある、大きな炎の蝶が羽ばたいていた。
炎の羽ばたきに煽られて、セティの黒い髪が踊る。セティの黒い瞳に
セティはそのまま、右手を振り下ろす。
「舞え!
小さな蝶だったときには儚くも見えた羽ばたきが、今は力強く見える。そしてその羽ばたきによって、熱風が生み出される。
大きな
ソフィーはためらうことなく、その穴に飛び込んだ。
分厚い氷の壁の中を
それでも氷は必死に抵抗するかのようだった。成長して、ソフィーを閉じ込めようとする。けれどそれを
ソフィーの足元で、氷が崩れるしゃりしゃりとした音が聞こえた。まるでそれを伴奏にするように、ソフィーの肩に止まった
(近い)
ソフィーは進行方向を注意深く見る。薄くなった氷に、動く影が映る。
手を伸ばした先、すんでのところで氷の壁に弾かれた。
崩れかけた氷の壁ごと、ソフィーは
その手すら飲み込んで、氷の塊は大きくなってゆく。ソフィーの腕を伝って、肩も、首も、体も、頭も、飲み込もうとする。
氷に呑まれながら、ソフィーは必死で口を開いた。
「我が呼び声に応えよ。我ソフィーは汝の所有者なり」
ソフィーの腕の中がぼうっと光り、氷越しにソフィーを輝かせる。
「
ぱりん、と周囲の氷が全て割れ、崩れ落ち、そして水も何も残さず光になって消えた。
ソフィーの腕の中にいたのは、兎の姿をした氷だった。そして、その姿が光り、輪郭が曖昧になって、四角い石の形になる。その
ソフィーは閉じられた
すぐ近くで
セティが軽く右手を振ると、
ソフィーは立ち上がって、ほっと息を吐き出すと、たった今手に入れた
「お前、名前なんだっけ」
セティが隣に立って、ソフィーを見上げる。ソフィーは首を傾けた。
「名前? ソフィーっていうの。覚えてくれると嬉しい」
「ふうん」
セティは興味なさそうな顔をして、だけど言葉を続けた。
「ソフィー、お前、ちょっとは根性あるんだな」
それは、ソフィーにとって思いがけない言葉だった。この生意気な
「まあね。ありがとう」
セティはソフィーの表情を見て、唇を曲げた。ソフィーを見上げて、指先を突きつける。
「だからって、お前のことを
「大丈夫、わかってるから」
睨み上げるセティに、それでもソフィーは笑ってみせた。ソフィーが笑っているせいで、セティは余計に唇を曲げたのだった。
第一章
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